エコール







自分の美しさに無自覚な少女の、あの幼い仔どもの王国を想像し、閉ざされたその世界の美しさのみを期待してしまうのかもしれない。


たしかに、神楽が無邪気に噴水で遊んだり、白い服を身にまとい緑滴る公園でたたずむ光景は、いずれもむせかえるようだった。
まるで王者のように振舞う少女に、他の子供たちも時に従者のようにつき従う。
ほとんど男性性が皆無なその純粋な世界は、空想の天国の一歩先、受肉した楽園といった趣がある。
しかし──無垢さ、無傷さ、イノセンスは、その世界を成り立たせている大きな力が仔どもに許している唯一のものでもあった。残酷を受け入れられず意思を持ってしまった者、『成長』し、それまでの身体の線を失っていく者は留まることが出来ない場所なのだ。


不透明な薄皮を一枚隔てて、地獄の一歩手前に立たされているような不安感がある。
結末を先回りに思い描き、なぜこれほどの残酷を憂う必要があるのかと、不快感すら覚えながら彼は───その一人の保護者は───少女を見続けた。
高い壁の向こう、楽園の外側で息を殺す、壮絶な男たちの悪意を感じる。
これでまともな状況なわけがない。
神楽の、あの仔どもの無垢、無傷さには、同時に数々の規則など、病の兆候のような不穏な影が終始つきまとう。
我慢を強いられる一方通行、理不尽なルール、不自由な世界だ。
本当に理不尽で不自由なのか?
本当は知らないからそう思うだけではないのか?
自らの肉体すらままならず戸惑い、苦しむ。他者の死、『別れ』しか知ることができなかったからこそ、死をますます恐れる。それでもなお焦燥にかられて、早く外の世界へと出たがる。今いる場所は、後悔しても二度と入ることのできない楽園かも知れないのに…。外の世界がどんなものかも分からないのに…。


あの仔は──神楽は、今の居場所と外の世界をどれだけ知っているのか。
ここは楽園か牢屋か。
外の世界は望ましいゴールなのか。
身を隠しながら少女を観察している素性不明の男たちや、その逆、素性明解な男たち、外界に生きることが出来ず結果的に仔どもの世界と現実との通路となっている一人の彼(保護者)の姿は、この現実世界以上に、ある夢の世界のひずみを映し出している。


大人たちにとってイノセンスと向き合うということは、結局いつも、こういったものなのかもしれない。





「でも俺たちのことなんてすぐに忘れる」
(彼が仔どもに言ったことは、)
















fin
真実なのでしょう。




01/20 17:21
[銀魂]




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