椿姫







ふたりともうわ言のようにお互いのことを呼びあって、腰を振る体力もなくなったのに、名残惜しくて、ナメクジのように躰を重ね合わせていた。
ヘロヘロと腰がうごめき、はぷ、はぷ、と溺れるように舌を絡め合わせ、れるれる、にゅるん、のるん、ちゅくちゅく、とキスし続けて、やがて最後の射精がとろとろとか弱く出るときも、銀時は絶対に神楽の身体を離してはくれなかった……。






目覚めると、いまだに神楽を抱き潰していた。
銀時はのっそりと神楽の上からどいて、寝転がった。
疲れた獣のようなその動きは、数時間前の、ケダモノの色を色濃く残していたが、どこかけだるげな色気もあり、銀時の男臭い胸板をタメ息で膨らませた。
絶倫の銀時が、疲れ果てるぐらいやり倒した記憶がある。
最後は、腰がヘロヘロになっていたが、それでも神楽の魔窟のなかで包まれると、猛烈に気持ちがよくて、悪魔的な気分になった。
大の男に長時間、押し潰されてひしゃげていた神楽は、股をガニ股にぱっくりと開いたまま、いまだに気絶している。
うっすらと夜明けの気配を感じて、銀時は、温室ようなこの和室のなかで、ぐったりと寝返りを打った。
まだ、神楽を腕まくらしてやる気力もなく、横になって、昏々と眠っている神楽を見つめた。


腰まである薄紅色の髪が、シーツに散らばり、背中で絡まっている。
横顔も相変わらず美しかった。


低すぎず、高すぎない鼻の優美さが、女神の横顔のようで、溜息が出る。
ぷっくりとした唇の子ども、長い豪奢な睫毛……。
天女のように美しい美少女が、銀時の隣で、ガニ股になって、寝ているのだ。


……そういえば、最初の頃は、股関節が外れるような激しいセックスに泣いて、怖がっていたなと思い出した……。
種付けプレスで銀時が腰を乗り上げると、神楽の細い両脚の付け根が、これでもかと開いて、ガクガクするのだ。
柔軟な身体を持つ神楽だが、手脚は壊れそうに細いので、気をつけてやらなければならなかった。
今も、気を付けてはいる。
だが、熱中すると、どうしてもぞんざいに扱ってしまって、反省も多い。
今日も、足首に残る指のあとに、少しだけ反省した。
最後はナメクジのように溶け合って、スローセックスでのラブラブ絶頂を体験したが、それまでは、火を噴くような猛烈ファックで愉しんだ記憶がある。
何度も子宮の奥まで寵愛し、中出しした。
今も、子宮の中は、銀時の精液でパンパンだろう。
若干膨れた下腹部に手をやり、撫でてやると、神楽が 「ぅん……」と寝言をつぶやいた。
その掠れた声に、うずりと腰の奥がむず痒くなる。
あれだけヤリ倒したのに、朝になったら一発キメれるほど復活してくる銀時は、まごうことなく絶倫だった。


(……そういや、もう朝風呂になっちゃうな……)


夜明けとともに、風呂に連れていってやろうと思い、布団の上で獣のように身体をなすりつけて、四肢を伸ばす。
その姿は、ゴロゴロと喉を鳴らす肉食動物のようだ。


(お湯、溜めておいてよかったぁ……)


まずは、昨日のうちに溜めておいたお湯を沸かしにいかなければ……。
お風呂にゆっくりと浸かって、疲れをいやすためにも、入浴は必須だった。
朝から、たぶん神楽の機嫌を取らなければならないだろう。
今日は一日中神楽に奉仕だな、とうっそりと微笑って、銀時は眠る神楽に近づいた。
綺麗な顔のうえに、涙の筋や、涎の後が、まだこびりついている。
最高に可哀いらしい神楽を見つめながら、銀時はうっとりと哂う。
まだ起こさないように額の髪をかきわけて、軽くキスをしながら、股関節が外れたようにガニ股になっている神楽の太腿を、そっと撫でつけた。
しっとりした白魔の肌が、手になじむ。


朝の鳥の声がどこからか聞こえてきて、この女神のような幼妻としばし離れる寂しさに酔いながら、銀時はのっそりと起き上がった。
夜明けが近い──…。
風呂場に向かうのだ。
途中、台所でいちご牛乳をガブ飲みして、疲れた体を甘味で一気に癒してほっとする。生き返るようだった。
浴室の風呂焚きボタンを押して、10分程でお湯になるだろうと計算し、目覚めた神楽に温かい飲み物を用意してやろうと、もう一度台所に戻った。
着流しを羽織っただけだから肌寒かったが、コンロにお湯をかけて、神楽の好きなコーンスープを作ってやる。もちろん、既製品の粉を溶かすだけのやつだが、神楽はこれが大好きなのだ。
5分ほどで手早く作って、和室に戻った。


和室では、ぼんやりと神楽が目を開けて、虚空を見つめていた。
銀時が出ていってからまだ10分も経っていないが、一緒に寝ていた馴染みの気配が遠ざかり、すぐに起きたのかもしれない。
銀時がうっすらと笑って神楽に近づくと、掠れた声が銀時を呼んだ。


「……ぎん、ちゃん……」


「うん?」と、返事して、「起きたのか…」と聞いてやると、うん、とうなずく。
その仕草がまだ子供っぽくて可愛くて、銀時は手にもっていたコーンスープを御褒美のように掲げた。


「ほら、コーンスープ作ってきてやったぞ。 起きれるか?」


神楽が、後ろ手に手をついて、のっそりと起き上がるが、辛そうだったので、銀時が咄嗟に支えた。
コーンスープを渡してやると、銀時の両脚の中で、胸板を背もたれにして、神楽がくったりともたれかかってくる。


「熱いから、気をつけてな」


と、神楽を抱きしめながら言ってやると、フゥーフゥーと息を吹きかけて、一口こくりと飲みこんだ。


「……おいし」


嬉しそうな神楽に、銀時が頬ずりする。
こうやって、まだ経験の浅いときは、銀時がホットいちご牛乳を作って、神楽に与えてやっていたなと思い出した。
いつからか、その習慣も無くなって、とくに夏場は抱き潰す日々が続いたり、ジュースや水を手ずから飲ませたり、ただピロートークするだけになっていたが、温かい飲み物で神楽を暖めるのも大切だよな、と思い出す。
朝方の鳥の声を聞きながら、惚れた女を膝の間にかかえ、コーンスープの匂いに包まれる幸せは、何にもましてかけがえがなかった。


「……ぎんちゃん」
「うん?」
「お風呂、入りたい……」
「おう、いま沸かしてる」
「そっか…」


神楽が、残りのコーンスープをちびちび飲むのを見守りながら、幸せだなぁ、と銀時は浸りきった。
膝の間にすっぽりおさまる小さな神楽は、まだ十六歳のロリロリの美少女で、銀時の幼妻だった。
今日は仕事が入っていないから一日中のんびりしようと、銀時は思った。
居間の押し入れで寝ている定春といっしょに、朝の散歩にでかけてもいいかもしれない。
最近は、ほとんど新八か銀時に行ってもらっているので、定春も喜ぶだろう。
朝から、ぬめるように美しい飼主を引きつれて、ナイトのようにお座りする定春を思い浮かべて、銀時は少し笑った。


「なに、笑ってるネ?」
「うん。お風呂あがったら、またちょっと寝て、それから定春の散歩にいっしょに行こうか?」
「なら、寝ないで行くアル。久しぶりに早朝の散歩、してあげたいネ」


機嫌のよさそうな神楽に銀時もやさしく笑いかけた。


「じゃあ、帰りにパン屋でも寄るか」
「マジでか」
「好きなパンいっぱい買っていいぞ」
「マジでか!」


嬉しそうな神楽に、銀時が「ぷはッ」と破顔する。
この食いしん坊め、と笑って、頬にくちづけてくる銀時に、神楽がけらけらと笑った。


幸せで、死にそうだ……。


そんな朝の一幕に、今日も万事屋の一日が始まる。
ほとんどぐーたらで過ごすだろうけれど、それがこの夫婦の日常だった。
堕落した、幸せな日常である。






fin




05/17 12:34
[銀魂]




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