荊棘の中に百合花のあるがごとし







「ただいま〜」


銀時が帰ってきたが、神楽は怒っていたので、玄関まで迎えに行かなかった。
いつもは、卵がけご飯の用意もして、夕食の準備に神楽なりに頑張っているが、今日は絶対に許さない、ともう怒り心頭である。


「……なに、どしたの、神楽?」


銀時が居間に入ってくると、神楽はソファーの上で寝転んで、ふて寝していた。


「つーか……、誰か家にあげた? 煙草の匂いがするんだけど」
「……マヨ」
「……え?」
「マヨが家まで送ってくれたアル」
「なに、外に出たの? 神楽ちゃん…。 触手ローターどうしたの。まさか、取ったんじゃねぇだろうなぁ」


銀時が土方の名前にも反応したが、それ以上に、自分の命令に背いたのかと、神楽に詰め寄ってくる。


「取ったヨ……、だって、マヨが……」
「………は?」


ドスのきいた銀時の声に、神楽は震え上がり、ふて寝していた肩を震わせた。
銀時が強引に神楽の肩を鷲掴んで、振り向かせてくる。


「土方が、どうしたって? 見せたのか、まさか」
「み、見せてないアル! そんな恥ずかしいこと……っ」
「じゃあ、どうして取ったんだ。外すなってあれほど口酸っぱく言ったよなぁ、銀さん」
「だ、だって……っ」
「土方に、神楽ちゃんの可愛いコッコ見せたのか」
「っ、見せてないアル!」
「浮気したのか」
「してない。そんなのしないっ」
「じゃあ、どうして土方くんが知ってるんだ」
「知らないアル。マヨは知らないアル。……ただ、外でちょっとフラフラして……」
「それで、送ってもらったのか?」
「……うん」
「それだけか? 土方には触手ローターのこと、バレてないんだな」
「バ、バレてるかどうかはわからないアル……。でも、何も見せてないヨ……ほんとアル、信じてっ……」


神楽は先程の怒りもしょげて、今や激高する銀時の怒りに触発されて、泣きべそをかいている。もはや立場は逆転してしまった。


「土方に何もされてないだろうな?」
「されてないっ……」


土方がどれだけ紳士だったか知らないくせにッ、と神楽は思ったが、咄嗟に口を閉ざした。あの事は、土方と神楽だけの秘密だからだ。それに、外でオシッコを漏らしたなんて、銀時にも知られたくなかった。


「ということは、土方は、神楽ちゃんがオモチャで甚振られてるのには気付いてるかもしれないけど、実際、コッコを見せたわけじゃねぇから、わからないんだな?」
「はい……」
「本当だな? 信じていいんだな?」
「はいっ」


泣きながら素直にうなずく神楽に、銀時はようやく怒りを沈めて、神楽を抱きしめた。


「外に出ちゃダメだろう…? 触手ローターを勝手に取ったから、お仕置きだぞ」
「だって、定春がぁ……」
「うん? 散歩に行きたいって駄々こねたのか。 じゃあ、婆さんかたまに頼んだらよかったのに」
「たまもバアさんも、用事で今日はいなかったアル」
「そっか……じゃあ、仕方ないのかねぇ……」


やれやれといった顔で、神楽をお姫様抱っこした銀時が、和室に歩いていく。


「あっ……ごはん、」
「食べられると思った? 残念、さすがにそこまで甘くねーよ?」


うっそりと笑う銀時に、ぶるりと震えて、神楽は銀時のたくましい首にすがりついた。
昼間、土方に運ばれた時に感じた、優しい抱擁とは違った。
圧倒的な男臭さとケダモノ臭で、銀時は神楽を自分の城に連れ去ってしまう。
土方は、科学捜査部の建物内で神楽がトイレで処理している間も、万事屋まで送ってくれた後も、酷く真摯で、一貫して優しかった。
神楽を言葉でいじめることもなかったし、一切粗相のことは口に出さなかった。神楽と約束したからだ、それを守ってくれた。
銀時ならきっと言葉責めで、今ごろ神楽をひぃひぃ言わせているだろう。容赦なく、神楽をひん剥いて、めちゃくちゃに調教セックスをするだろう。これから、そんなセックスが待っているのだ。
銀時が神楽を抱いたまま、襖を開けて、布団を降ろし、足で蹴って横着に敷いていく。
その上に、神楽をゆっくりと降ろしたはいいが、すぐにのしかかってきた。
あれから土方が帰ったあと、風呂に入り、科学捜査部のトイレで捨てた触手アメーバの痕跡をしっかりと洗って、綺麗さっぱりとした神楽だが、そんな神楽の匂いをすんすんと嗅いでくる。


「………煙草くせーな」


その一言に、またビクンッ、と神楽が反応すると、銀時が蛇のようにぬめった瞳で瞳孔を開いた。


「なに、土方くんのこと、気になるのか?」
「ぎ、ぎんちゃんが……」
「俺は、煙草くせーなって、言っただけだぞ」
「………いじわる……。ひどく、しないで」
「それはどうかなぁ…。お仕置きだからなぁ」


銀時が、神楽の部屋着をじゃっかん乱暴に脱がしていく。
すっかりと丸裸になるまで一分もかからなかった。
神楽の全身を舐めるような目で検分しながら、まるで浮気の痕を調べるみたいに、銀時が手の先から、足のつま先まで、じっとりと視線を這わせてくる。


「もし、浮気したら。殺すからな、土方くんを」


神楽は声にならず、じわっと濡れた涙目で銀時を見あげた。


「情が移ったのか? 神楽ちゃんが好きなのは、銀さんだけだろう?」


こくり、と神楽がうなずいた。
嘘は言ってない。
本当のことだからだ。
好きなのは、銀時だけだ。
生まれてきてこの年になるまで、好きになった男は銀時だけだった。


「銀ちゃんだけアル……、銀ちゃんしか無理……」
「俺も、神楽ちゃんしか無理だよ。他の女は一生いらねぇ」


熱い熱い告白に、神楽は身震いして、銀時にきつく抱きしめられる。


「愛してるよ、神楽」


その言葉の重みを噛みしめて、神楽は銀時に縋りついた。
昼間、一瞬そそのかされた甘い誘惑に、瞼の裏がチカチカする。
優しい土方のお姫様抱っこは、少しだけ胸にくるものがあったが、徒な神楽でさえ罪悪感を少し覚えるのだ。
そんな神楽の中の怠惰な獣の様子を見越してか、銀時が白い魔の皮膚に、まんべんなくキスマークをつけてしゃぶりついてくる。
今日も、身体中に病気のような赤い所有の印を所せましとつけられて、可愛がられるのだ。
たった、一人、銀時だけにそれを許している。
触手ローターであれだけ酷い目にあったのに、神楽はもうそんなことは忘れて、銀時とのねっとり、がっつり、どすけべ調教セックスに没頭した。
酷くされても、それが快感だった。
優しいだけじゃ物足りないのだ。
そういう銀時の愛で、調教されつくした神楽の心と身体は、快楽に従順で、魔のようにイノセントだった。
時に徒な遊び心で、アモーラルな態度をとるが、神楽は、調教されきった心と身体で、銀時を盲目に愛し始めていた。
真っ赤な麻縄を取りだした銀時にも、神楽は、はぁ、はぁとただ息を荒げた。
本格的なSMプレイをするつもりなんだろうか…。
酷くしないで…、そう告げる神楽の声は恍惚に震えている。
もう、何もかもが、手遅れだった……。







fin


more
06/20 14:19
[銀魂]




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