花と獣






花も恥じらう十六歳。
少女の殻をぬぎすてて。それはまるで羽化する肉体のように───。



獣の家の毒舌小娘は、確実に男の目には毒な存在になりつつある。
十人が十人振り返るだけの唯の美形じゃない。とんでもなく、魅力的なのだ。
一瞬で心が、視線が、囚われるような。男ならむしろ気持ちいいほどの敗北感。いや、男女問わずというべきか。
お登勢のバアさんもめずらしく悩ましげに言っていた…。


『女の私でさえ、溜め息をつくほどだねぇ…』



もともと造形だけは神がかった造りをしていた少女なのだ。
透けるような白い肌は、瑕疵ひとつない彫刻のようななめらかさで。けれど、思わず齧りつきたくなるようなみずみずしい魔の柔らかさも孕んでいる。男の目にはいっそ毒な肌。悪魔の果実。
その白さを引き立てて、美しくも相乗効果を奏でるのは、艶やかな悪夢のような天鵞絨の髪で。
狂い咲く桜のように、もはや人として反自然的な色合いこそ、まるで少女だけに許された特権のようでもある。少女だけの薄桃色の至上の楽園。
整いすぎた鼻梁はいささか冷たささえうかがわせるほどだ。それをやわらげるのは白桃のような淡い頬のラインと、細く華奢なおとがい。
そして最も他者を捕えて離さない、二対の鮮やかな瞳。
まるで宇宙と海を写し合わせたような形容しがたい美しい碧は──
いっそこの世にふたつとない宝石を思わせ、少女の気高さそのもののようでもある。
頬に翳を落とすほどの豪奢な睫毛は、小鳥のはばたきのように見る者の心をくすぐる。
ぷっくりと中心がとがった容の綺麗なくちびるは、これまた透き通るような淡い桃色をしている。
それがうっすらと微笑んだりなんかすると、もうそれだけで世界が薔薇色になるような。一斉に色づくような。
まだ幼さを残した絶佳の美貌はときにいとけなく、それがかえって男たちの劣情をぞくぞくと煽った。
無表情に小首をかしげる仕草の愛くるしいことといったらない。きょとん、と音がしそうないまだ幼い少女のそれは、媚態などかけらもないくせに、むしろ一生そういった小細工など必要がないと、それだけで男の心をとろかすような甘やかさをそなえつつある。
ぶっちゃけ、こういう魔性の小悪魔をきらう男なんていないわけで。
それも素で、天然で、小悪魔だから、どうにも抗いたがい敗北感を常に植えつけられる。
どれだけ楚々としたおしとやかなタイプが好きだと言い張っても、しょせん男は常に女に振り回されたい生き物なのだ。
そういう願望を実はもっているのだと自覚せざるを得ない。
いっそ人生を滅茶苦茶にされたい。
何もかも捧げて平伏したい。
破滅させられたい。
そう思えるファム・ファタール、運命の悪女の出現を心のどこかでいつも待ち望んでいるのが男なのだ。
この娘に出逢ってからはまさにそんな恐ろしいことを痛感する日々が始まった。
これでまだまだ成長段階なのだから末恐ろしい…。
すでに全面降伏してる男だからなお、そう思う。
少女の美しい青さのなかには、まるで困ったように舌なめずりする一匹の獣が映っている。
まったくもって情けなく、けれど実際それがまったく嫌じゃなく。
どうしようもないほど、この小悪魔が好きなのだ、この獣は。
たとえ全世界を敵にまわしても。
たとえ人生を滅茶苦茶にされても。
この美しい悪魔を手に入れるためなら何でもするだろうと。
あらためて獣は囚われたように牙を剥き出しにした。










fin



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01/13 23:48
[銀魂]




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