サランボーの潤んだ炎 -2-





往生際悪く、銀時は答えをためらった。じれったそうに見上げる神楽が、左手を前に肩から回してくる。顔が、面と向かい合う。
熱を孕んだ吐息が唇を嬲った。ふたたびかかった甘い息は、鼻での呼吸を止めているにもかかわらず、銀時の体内を甘い香りで満たしていくようだ。体内、内蔵のすべてが明るく爽やかで、生き生きとしている、という印象を覚える。透明感に富んだ華奢な体のその内側までもが見えるような気さえする。
つややかでぷるんと弾けたような唇は、つつましく閉じている。整った形の唇だ。唇の形になど執着したこともなかったが、パーツひとつにさえ新たな嗜好を目醒めさせられ、そこに執着し傾倒しているそんな自分が少し怖くなるほどだ。上唇の中心がつんと山になったそれは、思わず齧りついてしまいたくなる。それにもまして、薄い透明感のある桃色は、きっとモチモチの桜餅より甘くて柔らかいんだろう…。笑うと白い色がこぼれる歯並びも、銀時にとっては角砂糖の塊に見える。比喩した張本人に負けず劣らずの大それた妄想を意識して、銀時はさらに息苦しくなる自分に喘いだ。
欲しくないわけじゃなかった。…何よりも、渇望していたのは自分のほうなのだ。欲しくて、欲しくて、その結果逃げ惑っていた。それが神楽を傷つけているのだとわかっていても、恐かった。神楽が、ではない。今ある関係を壊すのと、自分が恐かった。神楽をどの程度まで求めて病まないのか、出逢ってから、ずっと、ずっと、その深淵へと堕ち続けている自分が、異常なまでに恐かったのだ。果てしない昏闇は、築き上げた関係から遠くかけ離れ、神楽が求めるだろうその優しく甘美なものとも、間逆にあるように思えてならなかった。どこでどうこうなったのかわからない。それが間違いなのかどうかも…。ただ、ストッパーなしの、いったん火がついてしまったら、自分でも制御しきれるかどうかわからないこの想いが、恐くてたまらない。
キスされるかも、と一方で受身な想いに身を焦がしながら、銀時は、それでも逸らせない二枚の花びらをひたすら注視せずにはいられなかった。その奥の今は見えていない歯や、健康的なピンク色の歯茎を、まるでお菓子のように想像してしまっていた。
接吻(くちづ)けから意識をそらそうと、目を下に移した。
ゆるやかにパジャマを押し上げた乳房の突端に、かすかな凹凸がうかがえた。見てはならないものをまたしても見てしまったのだ。また目を落とした。
しかし、こっちも、見てはならないものだった。弓なりに盛り上がった両脚と下腹部からの秘部へのなだれ込みは、銀時の膝に座った際だろうか、布地がきつく食い込み、神聖な柔肉を割いてしまっている。ぷにっとしたワレメは、目が奪われるほど艶めかしい。
あせって、さらに目を落とした。銀時の脛に沿うように下ろされた小さな足は、床には届かず、女っぽく内股になっている。その素足はまた抜けるように白く、パジャマに隠された極上の肌理を連想せずにはいられない。
これ以上下げられないところまでいって、とうとう銀時は目を上げた。神楽は答えを待ち、じっと見つめている。


「どうしてもか」


声がどうしても震えてしまう。


「銀ちゃんが、本気で嫌なら、いい」


ここで逃げ道を用意してくれた神楽に、銀時は小さく息を吐いた。
どうせ手放せやしないのだ。それがわかっているかぎり。
残酷な感触に呪文のように呼吸を繰り返す。
これでは覚悟を決めないほうが、愚かしい。


「もし甘くなかったら、責任取ってくれんだろーな」


神楽はがぜん笑顔を見せた。唇が割れて、白い小さな歯が輝きをみせた。


「いいヨ」
「んじゃ、ちょーだい」
「ほんとに?」
「ああ」
「甘くなかったら……血の一滴まであげる……」






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05/03 16:46
[銀魂]




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