3月9日








告白なんてしない。


だって、報われないとわかっているから。
到底、許されるものじゃないとわかっているから。
ううん、許されない許されるじゃない、誰かを想う心に制限や枷を強いたってどうしようもないとは思っている。
でも、自分が子供でいるうちは、この狭い社会の中で守られているうちは、何にしたって支配を逃れられないのだとわかっているのだ。それくらいは私だって大人だ。
ある意味、どうしてドラマや小説などではそういった展開が見込めるのだろう。ごく稀に自分のまわりにも現実として流れる噂が、そこでミーハーぶる同年代の女の子たちの容易さに呆れてしまう。
立場をわきまえないとか、優等生ぶるとかじゃない。



好きだから。
好きだからこそ、わかりきっているじゃないか。



子供だからってわからないフリをするのは卑怯だと思う。大人だからって解りきっているフリをするのと同じくらい。
自分の気持ちだけを押し付けて、純粋さを振りかざして、どうにもならないことに駄々をこねて相手を困らせるのが子供の特権だなんて、それを生かすことも殺すことも自分自身だと言われればそれまでだけど…。
所詮、叶わないと諦めたほうがラクだから?
…違う。わかっていて諦められないからだ。
ミーハーぶっても、ぶらなくても。
たしかに真剣だということ。


だから、自分は想いつづけるままにこの想いを貫こうと決めた。
短い学生生活の中で、あの人を好きなだけ好きでいようと決めた。
迂闊に想いを告げようとは思わなくても、十六年間で初めて恋をした今の瞬間を忘れないでいようと決めた。
後悔するのはその後でいい。
たとえ報われなくても、
苦しくても、悲しくても、
自分を欺くよりはマシだから。
貫ける強さが欲しい。
何にも負けない自分でいたい。



でもそれも、今日で、終わり。






時計の時間を刻むその音が、自分に終わりを告げる。
最後に一度だけ、教室の中を見渡した。どうしたって、これが最後になることを知っていた。
この光景が、かけがえのない思い出になることを痛感していた。
高らかに響くチャイムの音に、自分の心も共鳴した。
いっそ、発狂して、叫んでしまいたいとも思った。
けれど、そんな想像は、結局想像のまま、私はおとなしく椅子に座ったまま、ゆっくりと自分の机に息を吐く。
それと同時に、私は重い腰を上げた。


結局先生は最後まで私を、一生徒としてではなく、一人の女性としては見てくれないだろう。
どれだけだらしない態度をとっても、彼が生徒ひとりひとりをかわいく思っているのは知っているから。
私から、生徒以外の何かを見出して、それを愛してくれたわけじゃないだろう。
ひたすらに慕っていた。この三年間。
ひたむきに彼だけを想ってきた。
でも、結果は散々だろう。惨めで、憐れで、まるで三流の恋愛小説みたいに。
限りなく灰色に近い淡いベージュの扉を、二回たたく。


「どうぞ」という変わらない声。
卒業するまでのたった数日、迷っては繰り返してばかりだった学校までの道のりさえ今日で終わる。
まだ懐かしいとさえ思えないのに。
汗ばんだ手でじっとりと扉を開く。


革張りの椅子に腰掛けて、せっせと書類にサインを続ける男の背後に立つと、彼は驚いたように視線を上げた。
その瞳の、少し先を見つめながら、この三年間で用意しておいた言葉を吐き出す──。










fin


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03/08 13:50
[銀魂]




・・・・


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