羊飼いの石の棺 -4-






「ドナドナ、ド〜ナ〜ドォナァ〜〜♪」



いっそ今殺したほうが早いのではないかと神楽はもう諦めた。
とりあえず、何故また違う唄を歌いだしたのか解らないこのサディストを止めなければ、自らの葬儀が侮辱されたことになる。



「……なんネ、それ」



ようやく声を出し目を見開いた死者に、沖田はニヤリと笑った。横では土方が怯えたように二人から一歩下がっている。


「お経」
「え…」
「いや違うからなチャイナ。 総悟ッ、それただの歌だろーが!!」


一瞬微妙な顔をした稚い神楽に、土方が後ろから部下の非礼を正す。


「つっても、弔ってやってるんですぜィ、俺ァ」
「…オマエの弔いなんかいらねーヨ」
「葬儀は誰かに送ってもらった方が、黄泉への道も迷わないっていいやす」
「オマエに送ってもらったらそれこそアレよ、逆走して自縛霊アル」
「嫉妬深ェや」
「それを言うなら未練がましいだ」



またしても自分がつっこむ破目になった土方は、新しい煙草を取り出した。…というかもう早くこっから立ち去ってしまいたい。この部下さえまともに言うことを聞いてくれれば早々にそれは叶うのだ。〜〜〜ホンっトに、いつまでたってもガキで困るっ!


「だいたいなァ、あの歌…、牛が売られてゆくやつだろ。どっから湧いてきたんだよお前…ってコラァァァ!!」


再び神楽に土をかけてイジメだした沖田を拳骨で殴り、土方は「もうほっといてやれ」と土塗れになった不憫な彼女を気の毒に見やった。さすがの神楽も怒りに目が血走ってきている。握り合わせた両手がプルプルと震えている。



「ッ──……ひでーや土方さん、俺が念仏なんか知るわけねェでしょうが」
「だったらいらんことすんなよ! もう行くぞ!」
「えー、雰囲気的には合ってたから面白かったでしょーが」
「面白みなんか求めてねーだろぉがコイツはッ!」



わかんねーのか!?



その土方の匂わすような怒声の続きに、神楽はまったくもって厭な気分になった。
別にどう解釈しようが勝手だが、正しい方向に理解を示し気を遣われると逆に萎える想いがした。自己満足の、安寧の、自分だけの独り善がりな風葬が、著しく他人を介入したことで一気に白々しい光の許に罰せられた気がする。 そんなことは望んでいないのだ。決して。


そう考えたら、やっと立ち上がる気になれた。 ───終幕。
両手を解き、腹に盛り上がった土を手で払おうとした神楽に、沖田が一瞬目を丸くし、それから少し残念な顔で言った。



「ドナドナは終わりかよ」



…何を今さら。 長い時間同じ場所に寝転んでいたせいか、むせ返りそうなほどに汗混じりの土埃が周囲に舞う。



「今度邪魔したらぶっ殺すかんナ」



そう言って二人を睨み、神楽は先ほど沖田が歌った一節を口ずさみながら歩き出した。






ドナドナ、ド〜ナ〜ドォナァ〜〜♪






自分で歌ってみると、妙にあの場面にしっくりするような気もしてきた。
何だか気に入ってしまったネ…。今度の風葬でつかってもいいかナと、神楽は足取り軽く土手を歩いていった。
そんな彼女のうしろ姿を土方も沖田もややほっとしたような顔で見送ったことを、神楽は知らない。ひたすら仔牛が売られてゆく物悲しいような切ないようなその歌を歌いながら、くるくると愛傘を廻していた。



『雰囲気的には合ってるから面白い』



確かに合ってはいるなと、彼女は最後にくすっと笑った。










願わくば

美しい鎮魂歌を












The flower garden of the serene silence,
in the coffin of a poor stone.











fin


more
03/26 17:15
[銀魂]




・・・・


-エムブロ-