ギムレット







─…残念アルな


「私のことを知りたいなら、まずは私が望むことをするべきネ」



彼女が低く押し殺した声をだし、黒いチャイナドレスのスリットから更紗のタイツにつつまれた──美しいおみ脚を蹴りあげるようにして曝した。
まるで翻るドレスの爆弾。
派手なパフォーマンスだったがどうやら床に転がされた男は、恐れながらも凍ったように見惚れている。



「な、何をする…んですか……」
「さあ?──何をされたいアルか?」


神楽は何ひとつ脱がないまま、反対にすべてをむき出しにされてしまった男の萎えた性器を踏みつけた。 もちろん力を入れて踏んだのではなく、ハイヒールの裏と爪先でコリコリと微妙に刺激しはじめる。


「ウ゛っ……」
「ほら、射精してもいいヨ。気持ちいいデショ?」
「あ゛うッ」
「何度でもイカせてあげる。 もしイカなかったら──…そうネ、そこにいる金ちゃんが、ちょん切っちゃうから」

「おい…」


さすがに同類への最も残酷な拷問は、金時だって慎んでお断りしたい。
が、その心配が無用なこともわかっているので、忠実なる彼女の右腕は、敵に内通していた男の末路を見届けることだけは拒まない。壁際に静かに立ってふたりを見守り、次なる命令を待機している───





「アア゛…っ」





男が情けない声をあげて、神楽の足の下で震えた。
見ると、男の性器は確かに屹立しはじめ、否応なく反応している。 射精しないとちょん切られるという恐怖もあるだろうが、あるいは元々マゾっぽい性質を持っていたのか…。



「金ちゃん」
「なに」
「やっぱり殺さなくちゃダメ?」


神楽は言いながら、性器への乱暴な愛撫をやめない。
死ぬ前にこれほどいい夢がみれるんだ、たとえ死んだとしても悔いなどあるわけがない。 ──そうだろう? そこの涎垂らしたバカ面さん。


「義父(おやじ)さんにもそう言われたんだろ?」
「 …金ちゃんはどっちの味方ヨ」
「もちろん残酷な女王様の」


フフン♪ 神楽が笑って、飽いた玩具を放り出すように男への興味が冷めてしまったのがわかった。愛傘を手にどこまでも冷たい視線で獲物を見下ろしている。



「金ちゃん。 高杉、呼んできてヨ」



部屋から金時を追い出そうとする神楽の口実に、彼は憮然とした顔をした。



「──金ちゃん」



もう一度、冷たく呼ばれて。



「はいはい」



返事はするが、女王の背中越しに歩きだした金時の表情は変わらない。
彼の女王が本当にそれを望めば、彼はおとなしく従う。
それが右腕としての彼の役目であり、最も要求される信頼の証ならば。 だが、女王のこういったところだけは、金時は気に入らなかった。


彼女が罪に染まる時、ならばその時は自分も。


そうありたいのに、それを拒絶する神楽に、金時は憎しみにも近い感情を覚える。
男の死にぎわを見せたくないのか、それを機械のようにこなす自分を見せたくないのか。
たぶん両方なのだろうが、神楽が彼を遠ざける時、それはいつも金時に昏い影を落とす。




『神楽… 俺が始末しようか?』




口許まで出かかった救いようのない台詞を、彼は今日も背中越しに呑みこんだ。










fin


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02/05 17:35
[銀魂]




・・・・


-エムブロ-