青い象のことは考えない







ときどき気づいて、ふりむいて、世界一たいせつなものに思われたいのです。













私は銀ちゃんが好き。
いい年した天パのおっさんだけど、小娘の私から見ても、ヤツはなんだか可愛いのだ。


銀ちゃんは私のオメガネを通すと、実際、まったく、なんとも可愛らしい人に映る。くりんくりんの天パは、もうなんだか見ているだけでモジャモジャしたくなるぐらい愛嬌があるし、死んだ魚のようなといわれる眠たげな眼は、あのふてこさがたまらない。ほとんどの人がマイナスだと思う欠点を、どういうわけか、私はそれが初めから気にならなかった。本当に嘘や冗談ではなく、可愛く見える。
私は幼い頃から、パピーとは似ても似つかない私と瓜ふたつの美形の兄を近くで見続けてきたから、美青年だとか、色男だとかより、パピーみたいなタイプの男の人のほうが本当は好きなのだ。渋好みなのだきっと。哀愁のフリークス、フランケンシュタインやエレファントマンをこよなく愛する私には、失礼な話、銀ちゃんみたいなオッサンたちが、キャラクター化されて見えることがある。だから男の年齢もさほど苦にならず、逆にしがないまるでダメな中年男子などは、妙な愛着さえ覚えるようになっている。それもこれも地球に来て、銀ちゃんの傍にいるようになってから気づいたことだった。けれど、要するに私は、やっぱり少しファザコンの気があるのかもしれない。そう遅ればせながら確信してしまった。
ただ驚いたことに、私が彼らを厭わないように、彼らも私を厭わないのが妙な発見でもあった。むしろ、私はいくぶん年上の男に好かれるタチなようだ。
というか、知り合いになったほとんどの男が私を可愛がってくれる。
もちろん銀ちゃんもそう、彼はまったく私を可愛がってくれた。そしてあるとき、銀ちゃん自身、私に向かって、


「俺ほど、お前を甘やかしてるヤツはいねーよ」


と、妙にニヤニヤした顔をして言いだした。
私もまったくそうだと思ったので、困ったように微笑ってうなずいてみせた。
例えば、私には心身ともに好きな人がいたとして、その人も私をこの上なく好きで、たぶん愛してくれると思うのだけど、銀ちゃんほど、私を甘やかせる筈はないと、どこかで本気でそう思っている。そして私は、もしかしたらその人より好きな相手ができてしまうかもしれなくって、(と妙なドライ感覚を持っているのに)、他にどんな恋人ができたって、銀ちゃんだけは変わらないと、これまた本気で思っているのだ。
銀ちゃんが私を甘やかすことは、たとえば私が浮気をすると、出刃包丁かなにかを振りまわして、トチ狂ったりする情熱についてではなく、彼は私が何をしても許してくれる人だった。
銀ちゃんは私の本性を見抜いて、その本性のすべてを受け入れ、満足させてくれようとする。銀ちゃんが私にあえて忠告をすることといえば、できるだけ危ないことは一人でしないこと、やられたらやりかえすこと、それも三倍返しは当たり前なこと、帰りが遅くならないこと、外泊するなら俺か新八に連絡を入れてくれ、と言うぐらいだった。
私が早すぎる体験をしても、一言の非難も言わず、むしろ幾晩も、幾晩も、いたわってくれるのかもしれない。おかしなことに、原因となったその相手よりもだ。
しかも相手が相手だった場合なら、その男に、もしかしたら嫌味のひとつぐらい言うのかなと思ってしまうが、何も言わないほうに私は賭ける。
彼はよく、私が選んだのだから、お前の好きにすればいいと言う。けれどもしお前が傷つくようなことがあったら、そいつは絶対許さないと。そう言われて、だから私はそれからというもの、他人とのあれやこれやを、かなり銀ちゃんに喋ってしまっている。銀ちゃんはそのすべてを、えもいわれぬ微笑みで聞きながら、まるで私を愛玩ペットか何かのように膝にのせて、頭をいい子いい子する。私はその飼い主めいた愛撫をうっとりしながら受けとる。
私たちはきっと、ずっとこんな風なのだ。
そう、私たちはずっと、きっとこんな風なのだ。


非常にこの関係が、心地いい。










fin
理想の紙一重。

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01/29 19:00
[銀魂]




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