凡性愛的な昼のなかで








「いっ……」


男がぐっと両手を動かすと同時に、少女の全身がびくっと痙攣した。


「やーヨ、やーヨ! 私だけ裸なんてやーヨっ!」
「静かにしてろって。神楽ちゃんが蹴り出したんだろ…」


襖を開けた押入れの前に立つ銀時が、十二分に怪しげに、中の布団の上で寝転がっている少女の細い両足首を持ち上げていた。男に向かって股を破廉恥に開くような姿勢をとらされている。白く小さな人形めいた足裏が、男の肩の辺りでジタバタと暴れていた。


「あっ…くひッ!」


必死に腰をくねらせて逃れようとしているのに、銀時が神楽の股間に、立ったまま顔を突っこんで、ねぶるのをやめない。
当たり前の健全さが求められる、真昼の居間での、この狼藉……。
想像するだけでも罪の意識に囚われてしまう秘めやかな少女のソコを、好き放題に蹂躙している。
禁断の秘め事を、ガラス障子の隙間から盗み見てしまった新八の視界は真っ暗になり、ついでわけのわからない怒りで真っ赤になった。
ふたたび視界が戻ると、男は声を殺して悶えている少女の恥部をペチャペチャと舌で舐めしゃぶったあと、濡れそぼったそこを視姦していた。


「今は、最後までできねーし、舌でイカせてやるから……ほら、枕で口塞いどけよ」


言われて神楽が中でもぞもぞと動く。
それを見届けた銀時が、愛おしげに何度か内腿にキスしながらまたソコを愛撫しだすと、押入れの中からは可愛らしいくぐもった声が洩れ聞こえはじめた。





◇◇





「あれ、新八寝てるアルか?」


太腿に、小さな手がそっと置かれて、少年は夢から醒めたような顔でビクっとした。
頭では絶望しているのに、下半身全体がまだじっとりと熱くなっている。いつのまに傍まで寄ってきたのか、気がついたら神楽が畳の部屋に入ってきていた。


「どうしたネ。 怖い顔して」


怖い夢でも見たアルカ? そう訊ねられて、思わず頷いてしまった。


「あんまり気にしちゃダメヨ。 銀ちゃんなら仕事に行ったヨ?」
「えっ?」


神楽は新八を覗き込むと、そのまま窓辺に行って、洗濯物の様子を見ている。情けないことに、何を言われるのかと怯えてしまって声も出せないでいるうちに、神楽は洗濯物を取り込みはじめた。


(………夢、だったのかな?)


一瞬、新八は目をぱちくりしたが。すぐに夢じゃないと思い直した。


買い物から帰ってきたら、居間の神楽の押し入れで、銀時が少女に不埒なことをしていたのだ。
昼間っから大いに盛る男に、神楽が好き放題されているのを見るのは、正直心臓に悪い。ひぃひぃと泣き喚く嬌声に、頭がぼおっとなって佇んでいると、神楽が絶頂にのぼりつめる様子がありありと聞こえてきて、新八はあわてて玄関に走って逃げた。
銀時はたぶん、新八の帰りを知っていた。居間に入って来そうになった新八の気配に、気づかないほど鈍感な人間ではないので、知っていて続行した銀時は最低だと思ったが、新八はいつものように黙って万事屋を後にした。いつも気を利かせているが、いつだって銀時は好き勝手に神楽を溺愛するので、新八は神楽がやはり不憫だった。大の大人に暑苦しいほど愛玩される少女は、唯一の個室ともいえる自分の隠れ家まで、男の匂いに汚されて、気の毒に思わずにはいられない。いわば、あの押し入れは、神楽の個人スペースなのだ。なのに、神聖な場所ともいえる逃げ場を、あんなところまで銀時色に染められてしまって、可哀そうだと、新八は思ってしまう。
少女は、あの押し入れをすこぶる気に入っている。
万事屋に居ついた当初、銀時に与えられた押し入れは、今や神楽の小さなお城だった。中で何をしているかはあまり知らないが、読書灯や扇風機など、何でも持ち込んでごろごろしているのは知っている。新八も、銀時も、入ってはいけない神楽の聖域なのだと思っていた。それを、あっさりと、銀時なんぞの欲望に汚されて、新八は神楽が怒らないことに少し怒っていた。
万事屋に帰ると、銀時は仕事に出ていくとこで、神楽は相変わらず押し入れの中にいるようで、中からすぴすぴと寝息が聞こえてきたときは脱力したが、新八は居間で用事をするのも躊躇われて、畳の間のほうで繕い物をしていたのだ。いつの間にか、眠ってしまったようだが。



「神楽ちゃんは…さ、 思ってるより銀さんに甘いよね」


えっ、と神楽が驚いて振り向いてくる。
新八はまだ少し不機嫌な声を出してなじった。
銀時が神楽を寵愛しているとまではいかないが、神楽が銀時を好いているのは、頭では解っているが、こうもやられ放題だと第三者としてはほっとけない。


「嫌なら、嫌って言ったほうがいいよ」


……。


あー…、と神楽が気まずそうな声を出して、少しだけ頬を紅潮させてむっとしたのを新八は見逃さなかった。
本当に付き合ってる恋人同士なんだなぁ…、と改めて今になって新八は納得したが、どうも神楽がツンデレすぎて気付きにくいのだ。
新八がこうして神楽に、二人の事に気づいていると匂わせたのは初めてだったが、神楽のこの反応にはまいった。銀時が大喜びする反応だ、これ。


「嫌って言っても聞かないんだモン……」


新八が叱ってヨ。


そんな風に言ってくる神楽に、新八は呆れた。
新八が言っても銀時は聞かないし、どこ吹く風なのだ。第三者の意見などお呼びじゃない、という銀時の頑なな態度に何度泣かされたことか。


「怒ってるの? 新八」


どこかむっくりとしながらもそう言う神楽は、呆然としたままの新八の顔をしゃがんで覗き込んできた。
獣の仔のようなじっと獲物をうかがう上目遣いだ。
その強烈な可愛らしさに、一瞬、視界がチカチカした。


───なんてことだ……


こんな可愛らしい生きものを知らない。
新八は妹分として愛情をそそぐ神楽にゾクリとする事もあるが、クラリとくることもある自分に、混乱する思考で抗った。
けれど、青い大きな眼がむっくりとしながらも、若干おどおどと絡んでくる様子は、とてもじゃないが抗いきれるものではない…。
あまりの倫理観の喪失と恐ろしい身の破滅に、目の前がチカチカ点滅したまま、少女の甘えたに腰が抜けそうになった。
自分まで魔の領域に堕ちたら、銀時に警戒されて今の関係を保てない───。そうなると、悲しむのは神楽だ。
新八は、床にしゃがんで新八を覗き込む神楽の胸元を見ないように意識した。赤いチャイナドレス越しにたわわに隆起した胸のふくらみが、ふっくりと上下している。その眺めが、先刻の光景と相まって、激しい興奮を呼び起こしそうになったが、新八は耐えに耐えた。
少女はこくんと首を傾げて、上目遣いにまだ新八を見ている。
なんとも無防備な小悪魔だ。


「あ……わかったよ、僕から言ってみます」


衝撃のあまり、小学生みたいな口調で言った新八に、神楽は満足そうに目を細める。
こんな子供のくせに……と思うかもしれないが、大胆であっておぼつかない専横は、逆に虚を衝くような官能を与えた。


「ふふ…、新八やさしい」


揺れる薄紅色の前髪やサイドの髪…、伏せ目がちの豪奢な桃色睫がひどく悩ましい。
神楽が、ふふふ、とまた丸い肩を震わせる。こんな声を間近で聞いたのは初めてだった。末恐ろしい美貌の少女の、そのデモーニッシュな妖しさが、一気に増したように見えた。
脚から急速に力が抜けていき、すべてのエネルギーを少女の中に注入されたような感じがした。
かなわないな、と新八は気まずげに微笑った。



───男というものは本当に哀しい動物だ。
少女が去ってからも虚脱状態から抜けきれず、新八は「ハハ…」と乾いた哂いを部屋に響かせた。
彼女の単純な感想に、彼はズルズルと畳に寝転んだまま頭を抱えこんでしまった。
まだしばらく動けそうにない……









fin


08/05 17:43
[銀魂]




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