セーラー服と機関銃







ぐっと力を入れて少し引かれる。
急にためらいも見せずそうされたことに神楽はビビった。
思わず銀八の顔を見れば、先ほどまでのどこかおずおずした様子からは一転、うわずったような熱にわずかに不満をのぞかせている。
掴まれた手首に力が入り、再度引き寄せられる感覚に、神楽は同じくらいのそれで引き戻した。


数秒の、沈黙。


けれどまた同じ強さで繰り返される。今度こそ神楽は息をのんだ。そんな彼女のこわばりなど最初から承知の上で、銀八は無言の欲求を突き入れようとする。口に出したのは最初だけだった。その一言にぎょっと固まった神楽の手首をおもむろに掴んで、ぐいぐいと微妙な力で引っぱってくる──。
握られた右手首の脈がドクドクいっているのが自分でもわかった。思ったより触れている掌が熱い。でも、それほど力を入れて掴まれているわけではないのに、どうにも引き剥がせない厭な圧迫が男からは滲み出ている。
ぐっと押しとどめる神楽の力にも、まだそれほどの抵抗があるわけではない。むしろ銀八があと少し強引に引けば、簡単に言いなりになりそうな瀬戸際だ。
まるで押しつ押されつの綱引きをしているようなやりとりに、またも、、


数秒、沈黙がつづく…。


神楽は、ベッドの縁にお互い並んですわっている銀八のその顔と、その視線の先、そこに何かそら恐ろしいものでも見つけたように動けずにいた。
こんなの自分らしくないと、そう思うのに、未知なる困惑に身体がすくむ。握られた手首から先の感覚が神楽にはもうなかった。



「……ゃ、ゃだ…」



やっとそれだけ、言えた。
でも言って、泣きそうになる。
本当に嫌ならどうとでもできるはずだ、そう思う。
銀八は決して無理強いをしているわけじゃないから。神楽に抵抗できる範囲の逃げ道は残してくれているから。それが怖い。
自分でもどうすればいいのかわからないから、怖い。
節くれだった堅い皮の手のひらは、じっとり熱く、容赦なくゆるい拘束を神楽に強いる。
本当に嫌なら、彼の部屋へなどはじめっから来なかったはずだ。本当に嫌なら、こんなふうに困ったりしない。
でも、どうしても、それをスマートに躱せる大人のようにはまだなれない。大人ぶって愛せない。恥ずかしい。
…そう、恥ずかしいのだ。
どうしようもなく恥ずかしくて、不様な自分を神楽はどうすることもできないのだ。
それを分かっていて汲み取ってくれない男の豹変に、彼女は泣きそうになる。試されているようなその要求に、いたたまれなくなる。
悔しくて、せつなくて、怖くて、哀しくて、でも好きで、大好きで、純粋無垢な乙女そのままに男を見上げる。
そんな少女の潔癖を孕む危うい視線に、けれど銀八は、しっかりとその手を引き戻して離さなかった。こもる抵抗にやはり力強さはない。
本当に嫌ならもっとちゃんと言ってくれよと。そう意地悪されてるような気もして、無言の視線から目を逸らす。ぐいぐい引っぱられる手…。徐々に押し負ける力加減。そうしてハッと見るめる先に──…。そんな少女のおぼこい様子をじっと見守りつづける男の全身からは、耐え難い熱が発散される。
熱く火照った頬を持て余すように放心しているちいさな手…。それをスラックスの中で痛いほど怒膨している己自身へと導いた。



「ぁ…」



びくん



怯えたように手を引こうとするのを許さず、自分の手で小さな神楽の手ごと小刻みに震える己のそれを握りこんだ。



「恐いか?」



初めて触れる男の塊は、思いのほか熱く、神楽は堅くいきり勃つ男根に正直恐怖を覚えた。
ふーっ…と大きく息を吐き、銀八は神楽の手に自分の手を重ねたまま軽くそこを擦ってみせる。


「ぃ…イヤ!」


悲鳴のような声をあげて神楽が真っ赤になってしまったのを機に、銀八はその手を離した。
案外、さっぱりした引き際にホッとしつつ…涙目になった神楽が、銀八を見上げると、含み笑いで自分を見ている。
先ほどの手がそっと伸びてきて、今度は神楽の頬をゆっくり撫でるのを、彼女は少しおびえながらもそれでも健気に受け入れた。
ひどく生々しいことをされたにもかかわらず、いつもの毒舌は口をついて出なかった。
麻痺したように全身がじんじん鈍って、首から上はカッカと熱く、鼓動だけがドクドクうるさい。
たぶん、これから始まることへの期待に、胸が、頭が、ぼぉっとして正常な判断もできなかった。
そうして何度か撫でられたそこに、自ら仔猫のように擦り寄る自分を発見する。まるで催促しているようなそれに、また恥ずかしさが噴き上がっていく。
けれど、ぐいっと、今度こそ有無を言わせぬ力に引き寄せられて。
その抱きしめられた銀八の胸の中で、神楽はようやく一瞬だけでも安堵した自分を知るのだ。










fin

吸って吐いて泣いて「抱いて」
少しだけ大人にして欲しい



02/16 11:15
[銀魂]




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