天使の虎、汎神の黒豹、愛撫のスフィンクス







朝の間じゅう、銀時の表情は、神楽と朝一で淫らな戯れを愉しんだ余韻に緩みきっていた。
早くに蕾を弄られたために、多少、歪に咲き誇らんと成長する大輪の花のような貴重な少女を、明け方近くまでたっぷりと、そして起きてからもがっつりと味わっただけに、その記憶は今も鮮明だった。
銀時の頭の中では、すでに神楽の若くみずみずしい淫らな肉体の味を、ねっとりと堪能するための緻密な夜の計算がなされている。
もはや神楽をこの家から一歩も出さずにいることなど、いささかの良心も痛まなかった。


銀時はいっそう神楽を自分の手許に置いて、どこにもやらず一生蔵しておきたい気持ちが強くなっている。
あまり外には出したくなかった。
最後の足掻きとばかりに、銀時は神楽が十六歳になる明日の朝まで、今日はずっと自分と家にいさせるつもりだった。
朝から、神楽が動くのも億劫になるほど可哀がって甚振ったのは、その為でもあった。
明日はようやく神楽の十六歳の誕生日でもある。明日、星海坊主が昼に到着して間に合えば、土下座してでも結婚の承諾をもらうつもりだった。
前々から十六になったら、結婚してくれと事あるごとに神楽には言っておいたし、神楽自身にもちゃんと約束させていた。
承諾をもらえば明日から正式に神楽は銀時の幼な妻になる。
とにかく早く、早く、安心が欲しいというのが今の銀時の本音でもある。
銀時の、もはや疑いようのない寵姫でもある神楽だが、神楽の生来の本質は、自由奔放で、傍若無人、天衣無縫な大胆さに、おかしな言い方だが、いくらでも大まじめな野心を抱いている少女でもあるのだ。
神楽を失わないために、神楽を自分に繋ぎ止めておくためには、銀時は何だってやった。何の躊躇いもなかった。必要なら道連れにするし、神楽が許してくれるならいっそ宇宙にまでついて行きたいぐらいなのだ。
これはいわゆる布石だった。
神楽がいずれ宇宙に行けるための。行きたいと言い出すなら、そうできるだけの。そう神楽にさせてあげられるだけの自由を銀時が許せるだけの、最大限の譲歩であり、最低限の身勝手な覚悟だった。
神楽のためにこれだけは言えた、良心に背くことはしない。
やりすぎなのはわかっているのだ。失う恐怖から時に正しいことができない。でも善と悪は単純じゃない。
だから自覚しなきゃならない。
さもなくばそれを正すことに一生費やすことになるからだ。
一生それを悔やんで生きていくことになるからだ。



銀時から肉体的な愛――というよりも今や調教――を受けるようになってから、まだ十代も半ばの神楽の身体は、どこか獣美な牝の匂いを感じさせる、酷く淫らな成長を遂げた。
ぞっとするような白魔の緻密な肌と、人形のような小顔のなかで、一際輝く、得もいわれぬ青さの、鮮やかな大きな瞳。
狂い咲く桜のような艶やかな異端の髪は、腰まで伸び、みずみずしい神秘そのものの鮮烈さで、老若男女問わず見る者の目を射て、息を呑ませる天上の美だったが、ぼんやりと思考を奪わせるほどの重い生々しいアロマも実っている。
いかがわしい、美しい獣の仔、といった風情がますます強くなってきたともいえる。
もとより猫科の獣の仔のような、相手を無邪気に圧倒するふてぶてしい可愛らしさがあるのだ。
そんな、男を困らせる魔を持っていた少女だが、若干ドライな潔癖さと、重みのある無垢をもつ美少女の面影はそのままに、性的な匂いを纏った神楽は、人あらざるもののような異様さで、ひどく美しく、アンビバレントな、蠱惑的な少女へと変わっていった。いずれ成長とともにそうなるはずだったものだが、銀時が性急に開花させてしまった。
銀時にとって、正直それは誤算ともいえるのだ。
仕向けたわけではないそれらの神楽の変化に、彼自身が懊悩を抱えている。
神楽に変化をもたらした男は、相変わらず神楽の身体と精神に、いやらしいまでの寵愛の愛撫を教え込み、次第に少女をその虜へと変えていったが、まさに銀時自身は天国と地獄を行ったり来たりで彷徨うような毎日だった。


だからこそ実際、こうして神楽を一時でも外界から隔離することは極めて意義深いものだった。
何しろまだ思春期の多感な年頃なので、その純粋無垢な心が周囲の影響を受けてしまい、おもしろおかしく非行に走ったり、魔が差したり、妙に色気づいたり、そしてこれが一番銀時の精神をきたすのだが、銀時以外の男から誘惑されたりといったこれまでの多大な心配がなくなるばかりか、絶えず銀時の存在を意識させる生活を日常化させることができるのだ。
何より一日中腕の中に閉じ込められていては、銀時に構ってもらえなければ、神楽はひたすら暇をもてあそぶばかりになってしまう。
最近では、新八は自身の道場の立て直しを本格化して忙しいのか、銀時の神楽に対するやや常軌を逸した愛情に気を使っているのか、週に3日ほどしか来なくなっている。
そんな暮らしの中で、本人の好むと好まざるとに関係なく、まだ早すぎる『性の扉』を強引にこじ開け、男の欲望に無理やり引きずり込んでしまえば、あとはいつでも銀時が、好きなだけ好きなように神楽の蒼い肉体を愉しむことが出来た。
神楽にしてみれば、愛した男に、その初々しい蒼いカラダを徹底的に毎日貪り尽くされているという、いわば愛慾の危険な淵を自覚させられてしまい、徐々に途方もない気分にさせられてしまっていることを銀時は敏感に察知してきたが、やめるつもりはなかった。
自分への親愛の情以上に、自分無しでは生きていけないと神楽に思わせたかった。
自分がそうなってしまったから、もはや相手を同じ淵に引きずりこまなければ正気でいられない。
その可憐な恋心すらも自分にすべて委ねてしまえと。


けれど、この方法はもろ刃の剣でもあるのは十二分に理解している。
本来、外を好む活発な神楽の精神と身体を、内に鬱蒼と縛りつけておけるのは三日間が限度で、神楽の不満が爆発しないように実に巧妙に、銀時は少女の手綱を操ってきた。
夜な夜な濃厚なエッチは徹底させたが──数ヵ月前からは起き抜けの朝イチで調教じみたことも始めたわけで──日中からの気紛れは、否とは言えない罠を張り巡らせてから追い込むのが常だった。
銀時の内心は常に用意周到にその算段をつけていて、神楽が悟るのはいつも後の祭りだった。
定春の散歩にも行けず、始終ぐったりとした神楽が、不機嫌のメランコリーを炸裂させはじめればそれが合図だった。
そうなるまでの甘い蜜の甘獄で、自身の精神をときに宥めすかしてどうにかここまでこぎつけた男は、この1年の自分たちの変容と無事を大いに祈っていた。






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09/10 17:15
[銀魂]




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