金色夜叉







散歩の途中、茶屋で団子を食わせたあと、頃合を見計らって店を出た。
すぐに表通りとは雰囲気のちがう一本脇道にそれた路地に入り、銀時は片腕で神楽の背中を囲うようにしてすたすたと歩をすすめる。
学生とわかるような男女から、年輩者までがそそくさと中に消えたり堂々とうろつくのを見て、神楽は目を見開いていた。
最初はおずおずしていたが、大抵の者が自分たちのことで精いっぱいなのか──、誰もふたりを変な目で見てこないのに安心したらしく、銀時がその中のひとつに引っ張りこむと、軽く俯きながらもついてきた。


考える余地を与えてはいけない。
相手が困惑しているときに一気に行動するのも、獲物獲得のテクニックのひとつだ。


ボードで空いている部屋を一瞬にして観察し選択して、キーを手にするまで十秒もかからなかった。
ずらりと並んだ部屋写真を見る少女の表情は、息をするのも忘れている。固まってしまった神楽を尻目に、銀時はここまできた昂ぶりを押し隠し、当然のことをしているだけだと、平静さを装ってエレベータに乗り込んだ。が、間が悪かったのか……降りてきた客と鉢合せになってしまった。神楽がビクッと銀時の背中の帯を掴んで隠れるように怯えてしまう。驚愕と奇異の視線に一瞬さらされたが、気にすることなく銀時は箱舟に乗り込んだ。


「恐がることねぇよ」


ふたりっきりの箱舟が動き出してから、銀時は後ろ手に少女を引っぱりだした。神楽は口を半開きにしたまま首を振る。
その小動物のような愛くるしい様子は、銀時をまた一段と迫り上げてくる熱に焦らした。ふたりだけしかいない世界で、周囲を憚りながらも神楽の手を繋いだ。
幼い興奮が伝わってくるだけに、自分の中のボルテージもはっきりと上がっていくのがわかる。遠慮のいらないベッドの上で濃厚なキスからはじめれば、それだけで漏らしたように濡れると確信した。
鉄砲ゆりの奥の、花蕊のような香りが汗ばんで、熱くなった神楽の体温のなかに溶け、燻っている小さな足に頬ずりをし…──唇をあてた、あの最初の夜から一体何度神楽を求めただろう。何度奪って、護ってやりたいと、そういう存在にしてくれと、肌を重ねてきたか。
あれから半年以上毎日している。毎晩かかさず、時には昼から、朝から、何度も。
あの夜のことは、この先一生ずっと頭から離れない。まだ痛がる神楽の身体を考えて、再び燃え上がるものを必死に抑えた。その時の、弱々しくもがいて、腕を上げ、目の辺りを隠すような仕草をした神楽が忘れられない。秋も深まる時期だった、銀時は日増しに神楽の小さな足の汗が冷たくなっていくのに気づいて、自分の脱ぎ散らかした甚平や毛布、それからいつしかちゃんと準備するようになった清潔なタオルで、滅茶苦茶にされた幼い身体を拭いてやった。神楽はそういうとき大抵くるりと寝返った。今だって神楽の仕草は、どれも稚い羞恥にあふれている。それが可哀くて、どうにも抑えきれず何度も燃え上がる。神楽の投げやりとでもいえばいいのかどこか億劫な媚態が、銀時を炎のようにしてしまう。ねじ伏せて、自分の身体の下に閉じ込めて、何度でも略奪してやりたくなる。そうして俺だけだと、俺以外は許さないと、毎晩わからせる。奪われてくれたからこそ、徹底的に奪ってから護ってやるのだ。もうどこにもいけないように───。


銀時は手に入れてなお、神楽を掠奪したい欲望を抑えられなかった。
神楽は、掠奪される娘に生まれているのだと、銀時は信じ込んだ。
掠奪してきて、どうするか?
神楽を銀時の城に閉じ籠め、逃げられないようにしておいて、神楽がどうかするとふと捉まえてしまう奴の名を吐かせたい。何時、何処で、どうやって擒にしたかを。どういう関わり合いの男だったかを、吐かせたい。そうしてそいつと自分とを比べて、どっちが好きで心を奪われたか、当然自分だよなと、俺はお前の生涯たった一人の男だと、それを吐かせたいのだ。


銀時はさっきから、神楽のどうかした時にふと漂う植物性の──そのくせ酷くノワールな香りが強く箱舟のなかを満たすのを感じていた。そうして、神楽を何をもってしても律し難い仕様のない奴なのだという、不思議な想いに捉われている。ぶるり、と武者震いのような興奮が酷くなった。


チン、と鳴って箱舟の扉が開いたときには、すでにどこか息苦しげな吐息を吐きだした銀時を見上げて、神楽は竦んだようになっていた。
男の、ケダモノじみた興奮の仕方が怖くなっている少女を見下ろして、銀時は強引に箱舟からおろした。
肩を抱き込みぐんぐんと押されて歩いていく神楽と銀時の左右には、いかがわしい扉がずらりと並んでいる。
その中のひとつに、ケダモノは未成年の娘を連れ込んだ。
パタンと閉まった扉の向こうで、さっそく少女の短い悲鳴がする。
そこに、ボスン、ガタンと乱暴な音が加わり、数時間後には延々とギシギシと、もはや悲鳴じみた嬌声がひっきりなしに轟き、嗚咽と泣きじゃくる幼い声に、激しい肉音、壊れるほどのベッドの軋みが一晩中音を立てるのは、当然の事態だった。
犯罪現場よりも酷い略奪の嵐がすぐそこで行われているが、この場所は、そういった場所なのだ。
誰もかれも自分たちの事で精一杯なのである。



ベッドの位置が変わるほど犯りまくられて、全面ビショ濡れのシーツを剥いで寝入った時には、すでに夜が明けていた。
昼まで寝て超過料金を取られたことは、これまた当然の事態である。
時間単位のぼったくり料金は薄い財布の中身じゃ支払えず、泣く泣く神楽を人質にとられた銀時が、万事屋まで疾走したのも、これも何とも情けない結末である。










fin


02/15 08:30
[銀魂]




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