ナイチンゲールの夜鳴き声







珀色の憧憬
若くして老いていく
軽くクリックすれば 音楽は止まる
針の一刺し 落下する小銭
いつしか秋は去り
くぐもった音を刻み 時は容赦なく流れる











不穏な悲鳴を愛さないで










空には星が火のように輝いていた。
神楽は道中ずっと不安な気持ちで、やはり疲れ果てていた。不安と寒さのせいで目が冴えて眠れなかった。
銀八はサイドミラーごしに少女のほうを見た。まるで彼女をどうしようか、考えているようだった。
どのような欲望や夢や狂気が、その瞬間を支配するのか、彼女と同じようにわかっていないかのようだった。




自分の生命が夜のあいだに、自分から逃れようとしている。




それからしばらくして、二人は銀八のアパートに到着した。
神楽の背後で玄関のドアの閉まる音がして、神楽は目隠しされた子供みたいに、そのままリビングルームの真ん中と思えるところまで歩いた。
しばらく彼女は教師が何か言いだすのを待った。
何も見えない暗闇の中で、ぼんやりと立っていたが、おもむろにコートをぬぐことで沈黙を破った。




「お風呂に入りたい」





…──何秒かあとで、銀八の答える声がした。ささやくような声だ。



「……わかった」



明かりがつき、神楽の目隠しがはずれると、銀八はまだ玄関のところに立っていた。まるで少女か自分自身が逃げ出すのを止めようとするかのように。
神楽が足もとに落としたコートを、銀八が拾いにくる。


「おいで」


そのままバスルームまで手を引いて連れていかれた。
かまわず中に入ると、神楽は内側からカギをかけた。
浴槽にお湯がたまるまで、神楽は不在の男が残していったものをじっくりと観察した。


青色のプラスチックのコップ、歯ブラシ、古びたヘアスプレー、シェイビングクリーム、電動髭剃り、すり減った石鹸。どれもこれも使い込まれている。


彼女は一時間くらい浴槽につかっていた。銀八がドアのカギを叩き壊したりしないか、と心配しながら、夢を見ることなくまどろんでいた。








『──頼むから、嘘はつかないでくれ』


その夜、神楽は男が耳もとで掠れた声でつぶやくのを聞いた。
生きているという実感がなかった。風呂から出ると、手渡されたココアを飲んで、あらかじめ教えられた寝室へ行き、ベッドの上に横になった。
暗がりの中で一時間ほど待っていると、銀八がようやくきた。


約束する、お前を傷つけることはぜったいしない。


だから俺を喜ばそうと思わなくていい、と彼は言った。
連れてきてごめんな。
おやすみ。
二人が結んだ契約を、すでに侵害しているように思えたが、少女は極力感情を表に出さないようにした。


その日以降は、たいてい裸のままベッドの上で過ごした。
銀八はあまり学校に通わなくなった神楽に何も言わない。
なぜかシンスケも邪魔しにこない。
この人が教師だなんて信じられない。
神楽はほっと安心したようにいつまでも銀八のベッドでまどろんでいる。





ナイチンゲールの夜鳴き声











fin

夢の名残のように縛りつける



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07/11 07:15
[銀魂]




・・・・


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