あしながおじさんグレーテル







「もうお腹いっぱいアリュ〜」


ピザソースをべったり口にくっつけて倒れこもうとした神楽の手を、銀時が引きとめた。
満足しきった調子で、それでも寝ころぼうとする怠けた態度から、素早く指と口についたソースを拭きとり、銀時はその手を掴んだまま神楽の後ろにまわる。
もういいアルか? とばかりに倒れこんでくる体を今度こそ自分にもたれさせ、くつろいでいいよと頭を撫でた。
まるでミルクを飲んだ赤子に、げっぷさせるような手慣れた行為と、面倒見の良さに、背もたれを得た神楽は楽ちんだとばかりに手足をのびのび伸ばす。
食べる最中のお行儀のよさなどすでに忘れた怠け癖は、決して褒められたものじゃない。けれど、最中のいやに躾けられた所作と、食べっぷりには目を見張るものがあるのだ。
きっちりと正座して、モグモグ食べる姿は、何度見ても見飽きないし、口出しできない可愛さがある。
ついつい食べたいだけ食べさせてしまう銀時も悪いのかもしれない…。
新八のいない三が日──。ふたりを挟んでいたこたつの上には、積み上げられたピザの空箱や、チキンボックスがところ狭しと並んでいる。元旦にお登勢にもらったおせちのおすそ分けなど、もうとうに無い。
残っているものといえば──…銀時がちびちび飲んでいる大吟醸ぐらいだ。
恥ずかしげもなく伸びをして、今にも寝入りそうな神楽を脚の間に入れ、その不可思議なからだの構造を、頭の先から足の先まで暴きたくなる欲求に、自然と意識が傾いていく。
ある意味、肉慾と食欲の相対的な関係に抗えきれない自分を、銀時は毎度のことながら感じている。



「やーヨ、お腹いたくなるネ」


気がつけば触っていたそのお腹に、神楽が手をつねってきた。


「喰ってすぐ寝たら牛になるぞ」
「喰ってすぐ “寝たら”、お腹こわすアル」


撫でる手をどけようとする小さなその手に笑って、いったん引いた。


「喰べてすぐは、お風呂にだって入ったら駄目アル」
「…へぇ」
「知ってる?」


見上げてくる満ち足りた瞳を覗きこんだ。


「うん?」
「だからネ、牛になるほうがずっといいのヨ」
「ずっといいってことは無いなー」
「いいのヨ」
「何が」
「私の場合、太ることも成長だモン」
「……んなこと言ってると、またイタい目みるよ、神楽ちゃん」
「いいモン」
「何が」
「幸せ太りだから」
「…。」



たらふく食わして太らして、それからおいしくいただきましょう。──そういえば、そんな童話があったことを思いだして笑った。


「じゃあ、起きてからな」


「…ん」


こっくり頷いた幸せそうな額に唇を押しつけた。









fin
おやすみグレーテル。



02/19 23:58
[銀魂]




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