青年は急ぐでもなくまっすぐに歩いて来る。
そうして顔が見えるほど近づくと、優しいような微笑いを浮べた。
ぶっちゃけ、何だコイツはニセモノか、といった微笑いである。ゾゾゾ…としたが、沖田は神楽から幾らか離れた公園のジャングルジムに腰を下ろして、神楽をじっと観てきた。
微笑いが消えて、銀時によく似た色の目が暗く光っている。その目の中には、神楽の見たことのない恐ろしいものも光っている。
神楽はじっと、沖田の目を見返して立った。
「オメェ、いくつだったっけ?」
「………は?」
「いくつだって聞いてんでィ」
「……じゅうご…」
神楽は沖田の目から目を離さずにボソリと吐き捨て、足もとの砂を足先でこじ廻すようにしながら無意識のように、瞬きした。
「旦那は?」
神楽はまた一つ瞬きをし、長い睫毛を弾くように大きく目を開いて、沖田を見た。
男の暗い額と、ひき締まった口許に何やら厭なものを見たのだ。この男の中の、自分に対する憎悪とも言い知れぬ妙に基地外じみたものを、神楽は読みとっているが。やはり、気味悪い。
「知らないネ…。歳なんか」
「へぇ…好きなのに知らねぇのかィ」
「………」
「旦那のコレなんだろ?」
そう言って指で何かをジェスチャーして、下卑た笑いを見せる沖田に、神楽は鼻の頭に皺を寄せた。
「旦那って、ロリコンなのかねェ」
「……知らないアル」
「へぇー、知らねーんだ」
「……知らなきゃだめアルか?」
その言葉に、今度は沖田が目を丸くし、また優しい笑いのようなものを作った。
聞いたところで何の意味もなさないことを沖田は知っている。
拙い返答だが神楽もやはり知らなくても知っているんだろう。
もう面倒臭いし限界、といった感じで、何やら帰りたそうにしはじめた神楽の様子に、沖田は血のような赤茶の眸をじっと据えた。
その時、神楽が公園の入り口の方を見た。沖田も振り向くと、遠くに大きな犬と、銀時らしき男が走るように来るのが見えた。
「このまま俺と駄菓子屋に行かねーかィ。 好きなもん今日はおごってやりまさァ」
訝しげにしたあと、神楽が黙って首をふった。
「銀ちゃんがいるから、いい」
そう言うと神楽は銀時の方へ走り出した。
「旦那はやさしいかィ?」
神楽が立ち止まってふり返った。
「俺ァ、旦那より“やさしい”ぜィ」
神楽ははじめて唇の端を少し窪ませ、秘密のように、幽かな微笑いの影のようなものを魅せ、
「銀ちゃん!」
と叫ぶように言ってまた走り出した。
一度振り返ると青年が手をひらひらと挙げている。神楽はまたじっとそれを見ると、今度は後も見ずに走り、銀時らしい男に肩を囲われるようにして、歩いて行った。銀時が遠くから沖田を注意深い目で見ているようだったが、警戒の色は解いたように見えた。
沖田は神楽たちの後姿が小さくなったのを見ると、勢いよくジャングルジムから飛び降り、駄菓子屋を目指して黙々と歩いていった。
エロティックな七分間
(慈しむ暇があるなら殺せ)
fin
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