毟られたウサギの毛





今日もふたりは和室の鏡の前にいる。
すでに小一時間も悪戦苦闘したりしているのだ。
新八が家事をしながら洗濯物を干したり居間を行ったり来たりしている間も、ずっとそうやって男は神楽を捕まえていた。
銀時が神楽の髪を結ってやっているわけだが、神楽が雑誌を引っ張りだしてきて、「これやって」と頼んだ──“リボンヘアー”というものが、予想以上に難しかったらしい。銀時はもう何度もやりなおす羽目になっている。自分の胡坐の上に神楽をのせて、美しい薄紅色の猫族のような髪をいじくる大人は、哀しいまでに明快で、ぬかるんでいて、盲目そのものだった。
あれから毎晩、少女を片時も離さずふしだらな生活をしていることは見てとれた。
いたずらな耽美に走ることなく、しかし耽美的ともいえる不思議なふたりの戯れが、性的な放埓となって、堕落の平凡な足音を響かせる。


神楽がこんな銀時にも相変わらず懐き、以前と同じくどこかで秘密のようなものを愉しみながら、新八にも笑いかけ、何か言って、自分をじっと見上げるような時──。新八は胸の中に湧き上がってくる、愛情というより切ない、愛情ともなんともわからない、妙な感傷のようなものを味わわずにはいられなかった。心の深層に巣食っている妖しい炎は消えない。それは人間という生きものがもつ、業のようなものだ。
一見奔放なようで、神楽はみなの想像する妥当なところでおさまり、見ている者はそれで納得し、安心する。結末まで予想がつきながら、ふたりのぬぐいがたいひそかな想いが見るものに迫ってくる。美しく燃えながら、そのなかに無数の錯覚と誤解を生み出していく。善悪は別にして、それが人間という生き物が、生まれながらにしてもった業なのだ。


傷ついた小鳥を見るようにして、新八は神楽を見る。そうして必ず適切な、慰めの言葉を与えてやれるだろう。
けれど、新八はどこか、自分は何かの夢に欺かれているのではないだろうかとも感じるのだ。
魔を滲ませる少女の瞳の捕虫網は、底に肉食獣を思わせるものが隠れている。
暗い、愛情を深く閉まっていた銀時の目が、いまや恍惚な微笑いを惜しげもなく含んで鏡の中の神楽を見ている。
銀時の神楽を目に想い浮べている日常を、銀時と新八とが時に神楽の話をしている日々を、充分に新八のその目も伝えている。神楽はその目にあるものを汲みとったとも汲みとらぬともわからない目でじっと、新八を見ることもあるのだ。
困った微笑いをひそめて自分を視る新八と、額に昏いものを纏いつけ、普段はほとんど笑わない頬に愛情の寂寞を刻みつけ、何かを噛み砕く時のような口つきで微笑っていた銀時とを、二人の優しい恋人のようにして、神楽は持っていた。
新八の微笑う唇は、いまやどことなく銀時の微笑う口元に似てきている。
そんな二人の恋人の微笑いはそのどっちもが、銀時がたまに買ってきてくれる上等なチョコレートの苦味と似ていた。


神楽はそういう銀時と新八との、自分を中心にした気持ちの拘留を、稚い頭のどこかで捉えていて、それが二人に親愛を傾ける漠然としたきっかけになったのは確かである。
けれど、まだ何も気づかない頃から、神楽は銀時の表情や、ものの言い方、すべての銀時の様子に、新八と同じくある種の憧れのようなものを持ってもいた。
特に銀時が青いソファーに掛けてゆったりとしている様子を、その怠惰な獣のような男の様子がどこか共感を呼ぶものであり、神楽は又とないものに思っていて、テレビを見ている時間や、食卓で作業をしている時など、銀時の膝に凭れてふいに甘えてみたりすることもあった。


光沢のある薄紅の髪がふんわりとかかる前髪の中から、大きな青い目を光らせて退屈を飼いならす神楽が、鏡から目を離し、じっと銀時を見あげて、ふてくされた顔をはじめている。キラキラしていた目のなかに不平な色が出て、唇が膨らんで、尖っている。
銀時は神楽の目の中で歓びや、倦怠、稚い狡猾、不満、不機嫌、などが絶え間なく変動するその変化を愉しげに見ていて、それを生き甲斐にしているように見える。
銀時は神楽の目の中に、小動物が怒ったような不満の色が出たのを見ると、神楽の小さな顎に掌をかけて、もう少しよく見てやろうというように上向けた。その仕草を、意地悪と取っている神楽の目はいっそうムッとして銀時を見据えるようになる。銀時が神楽の薔薇色の唇に、特に魅せられているのはそんな時だ。上唇の中央が小さく突き出た、柔らかな花のような唇は、無意識な媚を湛えて、不平でならないというように膨らんでいるのだ。
銀時はそういう神楽を、ますます可哀らしいものに思うようになっている。
小さな王者のように驕っている、そうして絶え間なく愛情の生餌を喰いたがる猛獣の仔を飼い馴らす銀時は──、ある日、一瞬で手のひらを返され噛みつかれて死んでしまう──そんな憐れな調教師も彷彿とさせ、どこまでも途方もなくぬぐいがたい致命傷を負っていくように見える。
偉大な破壊、その驚くべき愛情。偉大な運命、その驚くべき愛情。それに比べれば、銀時の表情はただの堕落にすぎない。
しかし神楽にあるのは、隠され、閉ざされ、音もなく闇に向かって沈んでいこうとする、謎めいた官能美ではないのだ。
世界を震撼させる、身も心も抛って、世間全体を向こうに廻したような不逞な嗤いを噛みしめる男が、涙ぐましい努力と献身でかしずく、神ですら不在の世界、絶賛の寵愛の温床から生まれる女の悦びである。


銀時の甘く途方もない愛情は、その濃密さを増してきていて、神楽の心も、体も溶かして、時に蜜のようにしてしまう程の誘惑を帯びてきている。
銀時の愛情が、舐めても舐めても無くなることのない、大きな蜜の壺であることを、神楽はどこかで知っている。知っていながら、その蜜の壺の中にある蜜を、拗ねたり、困らせたりすることで、どれほど無尽蔵か試してやりたい、そういう強烈な誘惑に捉まるのだ。



神楽という名の肉で創られた花は、周囲の状態がどうであろうと、何が起きようと、すべてを自分の養分にして生育を遂げようとするらしい。
この、ともすると背徳の蜜に傾きやすい、哀れみの聖杯さえ与えられぬ、息苦しい、ぬぐいがたい転落と爛熟の、暗鬱になりそうな家の中で、いよいよ艶と香気を帯びて、花開いて行くように見える。
今年に入り、ようよう満十六歳になる娘である。
神楽の体は、まだ遠い完全な成熟に向かって少しずつ近づいている。
たまに神楽と一緒に風呂に入りたがる新八の姉、妙などは、ぬるま湯で流す石鹸の泡の下から露われる、神楽のいい香りのする体のなめらかさに、眩しげな目をあてたりするのだ。



一日、一日と、日が贅沢に過ぎていっている。
静かな、表面的には何事もない日々が続いていた。


睡り足りたような不逞なものを露にした神楽が、銀時の胡坐から立ち上がった。
もう飽きの限界が来たのだろう、銀時の手を押しのけて髪をふりほどき、くしゃくしゃになった鬣(たてがみ)をぷるぷる振って洗面所を目指して行く。銀時が肩をすぼめるようにして、その後ろを急ぎ足でついて行く──…。


和室が、家が、家全体が甘く、ひりひりと、凄絶かつ けだるい炎を燃やして蜜にうち沈んでいた。


憂鬱の気配も捨てがたい、と新八は思うことにしているのだ。
新八はいずれも、ふたりの気分に圧されていて、何かの重いものが頭に載っているような風で、黙々と立ち働いている。
生き生きとしているのは神楽一人である。いまの機嫌はあまりよろしくない。
死んだ魚のような眼に甘苦しいものを滲ませて、銀時はそんな神楽にどこまでも影響されている。洗面所から何やらガタゴトする音と、言い争う声が聞こえてくる。可哀らしい不機嫌な様子の神楽をたまらない気分でなだめているんだろう。
封じこめられた人間の狂気と、天下一品だと思わせる凄味。
魔性の光と影と、途方もない毒気。
またガタゴトガタゴトして、今度は物静かになった。
時々、こちらの存在を忘れたようになるのだ。まさか朝っぱらからふざけたことはしてないだろうなと、新八は胡乱な目つきを洗面所のほうに当てる。
一度、出勤してきた新八に気づきもせず、セックスに耽るふたりを見てしまったことがあった。
風呂場の脱衣所で転がり込むようにふたりは逆上せあがっていたのだ。
廊下まで濛々とシャワーの湯気が蔓延していた。朝っぱらからヒィヒィととんでもない声をあげさせられて、風呂場と脱衣所の境で倒れこむように少女は犯されていた。
中で熱くなりすぎてそのまま出てきたのか──逃げたのか、全裸でびしょ濡れのまま、シャワーも出しっぱなしで、獣みたいな男に伸し掛かられてマットの上で激しく甚振られていた。
全身から湯気が立つような筋肉の動きを見せる男は、まさに野獣そのもので。白く、細く、頼りないまだ少女の身体が、その下で破廉恥なほど足を開かされ、男に身体全体を使って叩きつけるように腰を打ちつけられていた。肉と肉がぶつかる生々しい連続音。野獣のようなピストン。薔薇色にゆでられ、悶える幼い美貌──。
それは新八が初めて生で知る破廉恥な性愛だった。
気が触れたような少女の嬌声を愉しむ男が、うっそりと悪魔のように嗤っている…。
欲望のセックスだった。
未成年の娘と大人の男の──。
骨の髄までしゃぶる
淫らな陰獣のようなセックス。
絡み合うふたりを廊下の影から見てしばらく硬直していた新八は、逃げるようにして万事屋から出ていった。その日は出勤しなかった。できなかった。
容赦のない銀時の欲望と寵愛のなれの果てを見て、衝撃以上の残酷を受けたし、神楽の綺麗な裸を少し盗み見てしまった罪悪感もある。
男のあまりの凶暴さに目の奥が真っ赤になった。動揺を抑えるのに半日かかり、その間も、何の不都合もなくふたりの日常は過ぎていくのだと思うとやりきれない脱力とともに、また沸々と神楽への守護欲が湧いてきた。
あの銀時から、自分が守ってあげなければいけない気分になった。
銀時の愛はとてもじゃないがマトモとは言えない気がするのだ。
日増しに性的逸脱のような倒錯と偏倚が垣間見えている。
神楽はたぶん銀時の恋人で、愛人で、将来銀時の奥さんになる娘というのは確約されているようなもんだが、新八はそれにしたってあんまりじゃないかと、胸が張り裂けそうな気分になってくる。
神楽に恋はしていない。それははっきりとわかっている。
けれど、恋にも似た何かが新八の胸の奥には育っていて、神楽が大切だった。
銀時とはまた違った次元で、新八は新八なりに、神楽を深く愛している。
それに、一度は馴染んだ背徳の味を忘れられない。
銀時がひそかに背徳の蜜の味を育てていったように、新八だってふたりに充てられてきたぶん、そのおこぼれを貰ってきた。
圧倒的な愛情を傾けたからといって、神楽が感謝するわけでもないのだ。
だいたい神楽は、銀時の様子に何の痛痒も感じさせない様子で、普段と変わらず振る舞っている。もはや危険な、いわば爆発物のようなものを抱えこみ、それを他の誰かに奪われまいとすることに営々として生きる、一つの蜜の番人になってしまっている銀時から、平然と逃げていくことさえある。むしろ我儘が酷くなる時まである。
銀時が神楽を手にしてなお苦しげな眼を当てているときでも、神楽の目は爛々と光っていたりする。銀時の苦しみさえ餌なのだといわんばかりに、どーんと構えている。
神楽が十四歳の頃から衣食住の面倒を見てやり、危険には体を張って護ってやり、たまに背中に背負って支えてやったりしてきた新八さえも、愛しいと思う心は変わらないが、



(あんまりだ……)



と見る瞬間も、あるのだ。
報われたようで報われていない男の悲劇(敗北)を間近で看過ぎて、新八は銀時を痛切には思うが、やはり憐れとは思わなかった。
神楽の不動の動じなさに、新八と銀時はいつも何かしら救われてきたが、それは危機に面した時であったし、じゃあ今は危機に面してないのかとは言わないが、神楽はどこまでも神楽であった。
圧倒的な男の寵愛を受けても、神楽は神楽で、どこまでも新八の神楽がいて、妹のような神楽が消えることはないのだ。
銀時と神楽との間の、容易ならざる愛の絶対量──その大きさvs深さ、重さvs強さ──を見て、他の者のように内心小躍りする気はないし、ふたりがダメになるのを願うような事も絶対ないが、新八は神楽が神楽でなくなるのが怖い。銀時に関しては、もう手遅れなので諦めている。
銀時は自分が神楽のモノであると思っているのと同様に、神楽を自分のモノだと思いたいようだが、新八はこれだけは言える、神楽が神楽でなくなるような事があれば、自分は銀時を許さないだろうと。


たまに神楽は朝と昼をぐったり過ごすことがある。ソファーの上で一日中、怠惰にうっそりと魔を潜めて強くしている。
そこには、夜のふたりが、残酷な銀時の豹変が浮かび上がってくるようで、新八は鼻の上に細かな汗を浮かべる。
皮肉なことに、偶然にも知ってしまった最大の悲劇のせいで、新八は常に精神のどこかで、ふたりのあさましい様子を浮気の代償のようにあくどく凄惨に描きだしてしまっていた。あさましい執念狂気を思い描いてしまう。
神楽がぐったりとしているだけで、狂ったようないやがらせを垣間見ている気分になるのだ。
そして、そんな神楽の傍を銀時が一日中離れない。なんでもかんでも、何から何までしてやりたいと思っている男の愛情の現れが、その暑苦しさが、容易に新八にも読み解ける。反省するどころか、神楽がそうなる原因を作ったことに酷く満足しているし、不逞な嗤いを一日中口元にこびりつかせて、少女に奉仕できる歓びを噛みしめている。トイレに行くのにもついていくという徹底ぶりには笑ったが(笑い事じゃじゃない)、銀時はどこまでも神楽を溺愛したいのだ。神楽を溺愛することに命を懸けている。銀時はすでに、自主性を持った背徳を受け入れているのだ。


新八はこういう一日、とにかく家事や用事の行き来にも、ソファーの上の神楽の疲れや睡りを妨げないように注意している。要は、あまり神楽の相手をしたくない。そこは銀時が付きっ切りで看病しているようなもんなので、いらぬ杞憂だが。
神楽は新八が通る足音をわかっていて、時折り寝たりない不逞を訴える幼獣みたいにむずむずしだす。足音を盗んで通る新八の気配が銀時にもわかっていて、神楽の傍でうっそりと微笑っている。それが新八はだるい。むしろ煩わしい。気を遣っているのは自分なのに、その惨憺たる苦労を、銀時に同情のように理解されるのは甚だ不条理である。
だからか、そういうふたりの一日、一日が、増えていっていることにも新八は不安を抱いている。
銀時が後先考えず欲望だけで突っ走っているとは思いたくないが、呆れた思慮の浅はかさに少年のように泣きだす事にならなければいいが…。
愛とは無縁の陰惨な悲劇に変わっていくことだけは、神楽の為にもやめてほしい。
さじ加減を間違えないでほしい。
色褪せた愛に、神楽を縛ることだけはダメだ。
愛は幻想で、二人のあいだには虚無と侘しさだけが広がっていく、そこには確かに恋(欲望)はあるが信頼はなく、その先には不安だけが漂っている──そんなふたりはダメだ。
神楽が何でもないように許してくれてるうちに、もう少し落ち着いてほしいものである。始終、額に暗い色を纏わりつかせていた銀時より酷いではないか。暗い情念のマントを恥ずかしげもなく纏う今の銀時の雰囲気は、正視しがたい自滅と凋落の気配を色濃く漂わせている。
自失の日々が新八にまで影響して、成熟の果ての頽廃、その頽廃の極致に、物憂い妖しさまで感じる始末だ。
銀時と神楽のふたりの愛の巣、その魔の創痕に引き摺られてはならない──。



ようやく洗面所から仲良くでてきた銀時と神楽の姿に、新八は努めて目を伏せるようにした。
だが、心の寂しさは蔽い難い。
新八が気を配り、味にも、盛りつけにも心を籠めて作った料理が並ぶ昼食、そうして夕食が、今日も繰り返されるだろう。
食卓には花はない。以前の新八はたまに家の庭の花を摘んできて飾ったりしたが、そうすることを断念したのだ。


花ならある。 異様に美しい、咲きかけの大輪の花がすぐ傍に。
綺麗に咲かすも枯らすも腐らすも、男の一手にかかっている。
否、男の手にかからずとも、いずれ自力で花咲くだろう異端の色をしているが…。


「新八! 見て見て!」


腫れものに触れるようにして気を遣っている日は確かにあったが、新八に向かう神楽は神楽のままだった。
ようよう神楽を直視すると、髪型が可愛い編み込みにされて整えられていた。
洗面所で銀時に再度挑戦させたらしい。
神楽の機嫌がなおって、銀時のけだるい目のなかにも安堵の気色とご満悦の様相がある。 どうせそれだけじゃないんだろうけど。イチャイチャしやがってと悪態をつきたくもなる。


「よかったね、可愛くしてもらって」
「私はいつでも可愛いアル」


…うわ、真顔で言われても許せるなぁ。


「うん」


笑った新八に、銀時も微笑った。


神楽の側に立っている者として、銀時から受ける打算をやや辛く思ったこともある。新八は昼食の用意にと台所に入りながら、まさか自分の後をついてくる神楽の様子にビックリしたが、冷蔵庫を開けるのを見て、ああと納得した。
いちご牛乳を取り出している。トクトクとコップにそそぎ、新八を見て笑ったので、


(銀さんに内緒にってことかな)


と思ったが、どうやら持っていくらしい。
銀時にあげるのだ。髪の毛のお礼として。


何だかんだいってこういう可愛いことを平然とする。
神楽の天然小悪魔ぶりは新八から見ても、遺伝子レベルで可愛いと思えるものだった。
大好物のダブル攻撃に銀時の溺愛がまた深まるだろうと思ったが、結局神楽がいけないから駄目なのかもしれないと、まるで銀時のような思考になっている自分に苦笑いする。
ダンボールに入っていた蜜柑もいくつか持たせて、新八は台所から神楽を送り出した。
居間のソファーで銀時が神楽の気配をたどっているのがわかる。正直、神楽が銀時の傍を離れて新八について来た時からわかりやすかったのだ。
瞬間、新八には、何かが響くようにして銀時の苦衷が伝わったが、廊下を振り返ることはなかった。





新八は、神楽への守護精神を胸に持ちながらも、今の銀時の様子を見て、その真実の情の幾分かを分かち、与えざるを得ない。だが、それかと言って新八は、神楽に対する自分のそれを、たぶん歪といっても差し違いない事実と理解しているので、銀時の前でその精神を全面的に出してしまうのが恐ろしい。
ふっと、魔がさすように、そうなるのだ。
新八は神楽が、いつか銀時に飽きるのではないかと、思ってみることがある。あらゆることを仕出かしてきた銀時に対して、少女は失望することがないのだろうかと。そうして、それを隠しているのではないかと、思うのだ。けれど直ぐにそれを打ち消す。そうではない。神楽はもう今では、何も隠したりはしない……。銀時だってそうだ。
新八はいろいろ考えるが、やはり今の日常に終止符が打たれることを何よりも恐れている。
新八は悩んでいてもさして窶れのこない胸の中で思い巡らす。
反抗の手段を諦めた自分に、時に無益な饒舌のみを許し、不謹慎にも、恋には情熱とともに抑制が必要なときもある、などと解ったふうなことを思う。
そう、まだ青い青年は、肉体の力を乗り越えることができるものに限定したいという、妄執に似た願望を持っていた。なぜなら、
その不実な肉体の世界が、まるでライオンが住む土地のように、眼のまえに広がっていたからだ。



あさましい執念を垣間見るとともに、
まるで高尚な書物を読み解きながらの豊かな孤独の時間を、新八はこの家に持っている───。









fin










Naughty Boy/Runnin' (Lose It All)

もう自分から逃げたりしない
二人が一緒ならすべてがうまくいくよ
もう自分から逃げたりしない
すべてと向き合う覚悟はできている
自分自身を失ってしまったら、すべてが終わってしまうんだ

追ってくる恐怖から逃れてきたけど、恐怖はまだそこにある
逃げ続けている 逃げ続けている
頭の中で鳴り響く声 永遠に続く
永遠に続く 俺はすべての明かりを消す



PVが超好き。
海底の中で駆けるとか凄いロマンチック。



04/09 22:42
[銀魂]




・・・・


-エムブロ-