糸巻き棒が暗示するもの








少女は妙なぬいぐるみを片手にその家の階段を降りてくる。


もう片方の手には、ピンクのおもちゃ…?
見ていると、通りに降りたったあの仔は折りたたみ式のそれを組み立てて、中にぬいぐるみを入れた。
そのままむっつり…コロコロ押しながら歩いていく。



プラスチックのそれは小さなお遊び用のベビーカーだった。
おさない女の子がお人形遊びに使うような代物を、あの仔のなかのふてぶてしいニンフェットは妙に色付ける。
イケナイ事だとわかっている。
でも、山崎には何度かあの仔の道のりを追跡する習慣があって、今日は大きな犬もいないし、一緒に出てくる男もいない。反対方向に行った。
少女は小さなベビーカーをむっつり押して、しばらくすると、クリーニング店に入っていった。
受付の店員はあの仔のことをよく知っていて、たぶんあの仔が好きなのだ。山崎は街路から店員を観察していたが、少女の顔はまるで眠りから目覚めたようにしれっと輝いた。
きっとあの仔が毒を吐いたんだ、男の笑い声がきこえてきた。
あの仔が惹き起こした笑い声。山崎はそのなかに、少女の顔の反映を見る思いがする。


やがて、少女はベビーカーをいっぱいにして外に出た。


あれは、あの仔のチャイナ服?
それとも、一緒に暮らす男の一張羅?
あるいは下着類だったりするんだろうか?


いずれにしろそのベビーカーは、少女の人生に自然につけ加えられたもののように思える。


チープで、メランコリックで、微妙にリリカルで、フェティッシュな──『ガラクタ』。
誰かからの当然受けるべき贈り物なら尚更。なんて、悪趣味(幼女趣味)な。
少女が選んだ男たちは、聡明でも正直でもなく、嘘つきで、エゴイストで、卑怯だけど、彼女に夢中だ。
そんな愛には、なにかしら欲得ずくのところがあるが、選ばれたという感情は、たとえどんな定義のなかにも存在する。


『だって、このわたしが気に入ったんだモン』


彼女にはいつだって、それを言う権利があるのだ。





避けるべく奇妙な少女の感受性に、山崎はひざまずき、まるで神の奇跡を目の当たりにしたように、そのままじっとしていたいという気になるのを抑えられない──。




糸巻き棒が暗示するもの











fin


糸巻き棒が暗示する、無垢な姫の淫らな遊戯。



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02/01 20:48
[銀魂]




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