刺青サロメに恋する屍







自分の道を、自分の果たすべき目標を銀ちゃんの中に見い出したあの瞬間から、私の目的は意味をなさなくなってしまった。
人に頼ることはあっても寄りかかることだけはしなかった私は、確固たる信念を銀ちゃんに預けることで、新たな自分を拓いていった。


そして、それを全うするために私は今も銀ちゃんの傍にいる。


このさびれた万事屋という居場所に過不足など勿論なく、何よりも、誰よりも強い銀ちゃんに認められているのが、私は嬉しくて仕方がなかった。唯一の誇りでもあった。
誇りを持つと、人は強く自分を持てるようになる。
自分を強く持つと、余裕が生まれ、色々なもの、とりわけ自分の周囲が目に入ってくるようになる。
目に入れば見つけることは容易いし、視覚から認識したことを働かせてそれ以上のことに気微を向けるのも難しくない。
そんなことはあらかじめ各々に備わった遺伝能力に偏るところが大きい、という人もいるだろう。でも、人より何倍も注意して気にかけることはできるわけだし、常に心に留めておくことで自身を省みるチャンスも生まれる。
わからないのなら、じっくりと周囲を観察してみればいい。
あらゆる事象は起承転結でなりたっているのだから、終わりがあれば必ず始まりはあるわけで、結果があれば原因はつきものだということ。


何より…人は成長とともに自身の内面を作り変えていける生きものだ。
何の呵責もなしに己を停滞させることなど出来やしないし、何の因果もなしに己を遡ることもできない。
常に新しい自分と向き合い、他人との間に湧く感情を時と共に進化させていきたがる。
たとえそれが一生を費やす至難のわざだとしても、ひとりひとりが背負う業は生きていく限り魂を燃焼させてゆくのだ。
時に外からくる、屈してしまいたくなるほどの重圧に耐えながら、時に内からこみあげる、投げ出したくなるほどの挫折感に苛まれながら、もがきながら生きていく。
思うにそれが出来てこそ、本当の大人になっていくものなのかもしれない。
出来ない人は、そのまま大きな体に小さな心のつまらない人間のままでいるのだろう。


銀ちゃんは親切ではないので、全てを教えてくれる人ではない。
でも彼を見て、彼を知って、気づいたことはたくさんあった。
だからこそ、自分もそれに相応しくあらねばと、ただひたすらに彼の背中を追いかけてこれたのだ。
そんなありあまる充足の日々は、確かに私を幸せで包んでいたんだと思う。



───なのに、それなのに今。


彼の傍らににあり続けて思うことは、滑稽なまでに感じるこのどうしようもない喪失感。
銀ちゃんに対し、真剣に考えれば考えるほど、真剣に向き合えば向き合うほど、喜劇になっていく自分が哀しい。



いったいどうすればいいというの。



銀ちゃんの考えが欠片たりともわからない今の私には、対処のしようがない。
いや…実際はもう手遅れなのだから、今更こんなことを思い煩うのは本当にどうかと思うけれど、やっぱり考えずにはいられない。
……もし、私があの時、彼を殺す勢いで拒絶していたら、銀ちゃんはこうやって後悔することも自分を責めることも無かったんだろうか。
ずっと上手いこと、最初の問題に対処することができたんだろうか。
暗い視界のなか考えてみたけれど、素直な結末は結べなかった。





結局、明日という未来を、ただこれから起きるであろう時間軸の先といった概念だけで、推し量らずとも信じていけたなら。
この喪失感もまた、うずもれるように忘れ去られていくことを願えるんだろうか?
そう思えたら、どんなに幸せだろう。







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04/07 18:02
[銀魂]




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