ベルベットの金鉱








「一人の女を共有?」



トチ狂ったのかこいつ?


変かもしれないけど、だってどっちも好きだとかぬかすんだもんアイツ。いやになっちゃうよ。可愛い顔してとんだ小悪魔でさー。言い切っちゃうところがもうね……なんかスゴい酷い女なんだよね。



「・・・…その割には全然嫌そうに見えねーんだが」
「おう。考えてみれば最先端?」
「いや、要は三角関係じゃねーか。開き直った浮気じゃねーか。俺が言うのもなんだがお前いったいどうしたァ。どっちかっていうと、亭主関白気取りたいほうだろーが」
「うん。でも神楽が選べないって言うから」
「・・・───、あ、そ。 …で、相手の男ってどんなヤツだ?」
「うーん………意外にS?」
「は?」
「なんかやたらマニアックな奴なんだよね。スパルタで尋問好きで味覚オンチだし」
「それお前と一緒じゃねーかァ。お前ら似た者同士か。その神楽とかいう女いったいどうしたいんだ。まったく違うタイプの男ふたり選ぶなら分かるが、おんなじSって…。オイ、身体もたねーぞソレ」
「いや、お前にそこまで心配される筋合まったくないからね。俺の神楽ちゃんでヘンな妄想しないでくんない?」
「お前の神楽じゃねーだろ。ヘンタイふたりの神楽だろ」
「……なんか、高杉くん? 今日やたらツッコミ多いよね。お前そんなキャラじゃないよね。どうしたの?」
「お前がどうしたァァァ…っ。銀時ィ、おまえ、・…いや、もういい。なんかその神楽ってヤツ一回ぐらい拝んどきたくなったぜェ」
「絶っ対ダメですー、嫌ですー。お前に会わせたら絶対気に入るもん。お前まで加わったら4Pじゃねーか。さすがに神楽もキツいわ」
「加わんねーよッ!! 俺はどっちかってーと複数の女とハーレムのほうがいい、絶対いい」
「もうハーレム化してんじゃん。お前あの金髪の奴隷女どうしたの?」
「あ?また子か? アイツはまぁ…俺が何やっても怒んねーし」
「晋介さま〜とか普通じゃないもんな」
「勝手に呼んでくるんだよ、ほっとけェ」
「お前も十分酷い部類だよソレ…」
「それでも、俺はどっちにも本気とかありえねェ。どっちも遊びなら分かるがなァ。つーかどうやったら女に本気になれるんだ?」
「うーわー。可哀そうなヤツ発見★」
「ほっとけェ」


ここ数年で、たぶん一番最低な会話を成立させながら、自分の調子が狂いつつあったのを軌道修正するためにも煙草に火をつけた。
「俺にもちょうだい」、と昔っからのこの悪友は無邪気に顔を寄せてくる。
酒がすすむうちにとんだカミングアウトをしでかしてタダ酒を浴びにきたこの男は、いつ会っても生活臭がなく、根無し草のようにふらふらふらふらしているだけの奴だったが、行きついた先の “新しい扉” は少しもマトモじゃなかった。
かといって、傍目にはどこも見苦しい痛々しさは感じず、相変わらず飄々としている。
まったくもって、不幸ではないらしい。
俺が言うのもなんだが、一人の女を共有して、自分を縛るような奴じゃなかったのに…。
それも、女はまだ学生だというトチ狂いっぷりだ。
17歳の少女とか・・・、いったいなんのAVだ?


「──…俺よォ、銀時ィ、4月から赴任する新しい学校で、保険医やるから、なんつーかビミョーに後ろめたいんだけど。知り合いが女子高生と犯ッてて、しかも3Pとか、SMプレイとか、蝋燭責めとか、すげーアンモラルだろーがァ」
「いや、蝋燭責めはまだやってないから」
「やるつもりかよ…」
「つーか高杉くん。お前に言われたくねんだよ。お前、むかし女に一日じゅうバイブ責めしてたクチだろーが。帰ってくるまで抜くなよ、とか言ってさぁ。お前の口からアンモラルとかそれこそモラルハザードだよ。インモラルだよ!」
「モラルハザードって何だそれ。お前だってなァ、アレだアレ、むかし間男してたよなァ。人妻に青カン盗撮プレイとかして雑誌に投稿したろ。んで、その夫に訴えられそうになってたじゃねーかァ。あと、ストーカーだった猿女に、下剤仕込んで公開イジメしてたの俺は知ってますー」
「イジメじゃねーよ! あれはアイツが俺のマンションの鍵かってに偽造して、部屋とか物色するからお仕置きしたんだっつーの。つーかイジメにも等しいストーカー行為だったよアレ、酷かったよアレ。俺のプライバシーゼロだったからね一時期!! あとお前、坂本の女にちょっかいかけてキンタマ縫ったってホント?」
「どっから持ってきたそのデタラメェェェ…!」
「え?違った? ・・あ、あれはヅラの少年時代の神話だったっけか」
「お前ェ…そんなホラ誰にも言うなよ? 特に坂本のあの女には言うなよ? それでなくてもオレ嫌われてんだからよォ…」
「え、そうなの?」


───話は脱線したが、この呑気に笑うダメ男と、もうひとりの男、そしてまだ17歳の少女がともかく三人で暮らしていて、傍目にも(?)うまくやっているらしい。
二人の男のうち一人は、探偵みたいな収入にもならない仕事をしているプー太郎のコイツで、もう一人は、れっきとした刑事の卵だという・・・。刑事の男は時おり、夜も宿直で留守にすることもあるようだが、基本的に三人はいつも一緒。
1LDKのアパートで、寝るとき布団を何枚敷いているのか、それとも大きなベッドで川の字なのか、あっちがシテいるときそっちはどうなっているのか、つーか尋問ってどの程度だ? 失禁するまでか? むしろコイツ大喜びしそうだな。生活費はどんなふうに分担しているのか───(たぶん女が学生だから、男ふたりが持っているんだろう)が、そうなると、ヒモは少女の方になるのでは? とくだらない事を考えはじめると止まらなくなる。。。


ママゴトのような共同生活と、なんだかうんざりするほどの不思議な戯れを思い起こさせる中で、不思議と生臭くない魅力を感じはじめてしまうのも、話に聞く少女の淡々とした無機質な印象かもしれない。
聞き及ぶところでは、獣の仔どものように美しい少女なのだそうだが…。
そんな表現をしたこのトチ狂った男を、うさん臭く見つめながらも、お気に入りのショットグラスに注いだウォッカをすわった目で飲み干す。
妙に食指が動きだしている自分に、この悪友が気づかなければいいと思いながら。
獣のような少女がもつ習性に、わずかに美しい耽美的な妄想を抱くなど───自分でもわけの分からない好奇心にゾクリとした。


自分にそんな趣味はないが、まだ未成年の幼い女が、二人の男を両脇に従えているという状態は、正直なところ、なかなか倒錯的で捨てがたい魅力にも思える。


愛だの、恋だのという、観念が悉く希薄な女なんだろうか?


それにしても、その歳で淡々と三角関係を続けることのできる性格は大した器だろう。
一見おとなしく(?)従ってくれている…そんな男たちが、いつ、牙を向けてくるかわからないわけだから。
そんな状態にあぐらをかいていられる神経の図太さは、並大抵の修行では得られないはずだ。
二人の男と暮らしながら、そのまま流れる水のように生きて───ともかく三人は、そうやって現在進行形で暮らしていて、うまくいっているのだから世の中よくわからない。どこか中途半端だが、いつまでもだらだらと続く不幸な物語のように、痛々しく見えてしまうものではないのか、こういう下世話で不毛な三角関係は。
自分のように、初めっから遊びだと割り切っている場合とでは、何もかもが根本的に違った。




「……お前ェ、そのうち男のほうとも寝て、最先端の生き方だとか自慢すんじゃねェか?」
「もう寝たぜ」
「嘘ォォォ!?」


「う、そ」


「・…テメぇぇ…」
「でも神楽はそーいうの気にしないんだよね。バイセクシャルっていうの? レッテル貼らないで楽しめるタイプ。神楽のレズシーンとかだったら、俺もアイツも平気で許せちゃうかも」
「・・どこまで寛大なんだよ」
「いや、だって神楽だもん」
「“神楽”関係ねェだろ」
「関係あるって。俺、アイツだから何でも許せちゃうんだぜ? 間違ってもアイツを取り合って、他の男と死闘くりひろげるなんてゴメンだね。敵を殺すか、さもなくばあっさり認めて自分が引くか、二つに一つしか道が残されてないんなら、生かしながら殺すって方法は、俺の中では何の意味も持たないから」
「んな一触即発の状態で共同生活が続くかよォ」
「だろ? だから俺らはこれが正しいんだよ」
「正しいかどうかは置いといてよォ。・・ったく、すげえ話だな」
「まったくね」
「批判する気も起きねーよ」
「おう。最初から求めてねーよ」
「せいぜい楽しめるウチに愉しんどけよ。飽きられねえウチになァ」
「あ、それなら大丈夫♪ 飽きても捨てないでねって言ったら約束してくれたもん」
「・・・・やっぱお前、最低限のプライドとか持とうぜェ? 女子高生にナメられっぱなしじゃねーか」
「いいのいいの、もう全身なめられてぇー…つーか舐めてくださいって感じ?」
「言ってろバカ」



いたずらな耽美に走ることなく、振り子のように二人の男を手玉にとりながら綺麗におさまる。
今そこにあるものを悉く破壊して、受け入れていくこと。
天国にも地獄にも向けて、失踪していくことだけを考えた三人の無謀な喜びと、苦悩──といってもいいのかわからない底抜けの明るい官能に、考えてみれば、むしろ楽観的かもな、とうんざりしながら冷徹をよそおった。
結局、複数を相手にするのが面倒になって、いつも時期がくれば一掃除去してしまう自分は、どこかで似たような暮らしをするのがうまくなってしまった、ということなのかもしれない。




ベルベットの金鉱
(夢ならばここで終わらせて)










fin


more
04/09 22:43
[銀魂]




・・・・


-エムブロ-