余裕がなかったからわからなかった。
でも、今まではそうでもこれからは違うんだ。
それは泣きだす瞬間のような。
せつないような熱の籠もった目で見つめられて──。
ねぇ、銀ちゃん。
今までもそうだった?
ちゃんとそういう目で私を見ていてくれたんだね。
自惚れてもいい。
わたし、あなたに愛されてると思った。
すごく愛されてると。
ねぇ、銀ちゃん。
わたし、知ってしまったの。
注がれる視線の優しさに、ひたむきな熱が閉じ込められていること。
いつもの意地悪く口端をあげるあなたの目の細め方じゃない。
だらしなく笑う、「しょうがねぇな」 なんて聞こえてきそうな甘やかす時のそれでもない。
それはどんなあなたとも違う、私にだけくれるものなのね。
キスのあいだもゆっくりと私のカラダの側面をなぞっては、なだめるように待っててくれている。武骨なその手。その降りそそぐ視線。
肋骨から上に、それ以上は決して早急に進もうとはしないから、唇が離れたタイミングを見計らって、私を覗き込むあなたに、吐息とともに涙がにじんだ。
─…ああ、わたしがいつもこんなはじめから泣いてしまうことも、これでバレちゃうね。
……え、そんなのバレバレだって?
細まる目元と同時に引き寄せられるように近づいてきた唇が、そっと涙を吸い込む。
ハジメテは、……暗闇で、なんにも考えられなかった。
あなたの声が低く掠れて私を呼び続けて。闇に光るそんなあなたの濡れたような目の昏さ…。それしか覚えていない。見えないあなたに私は手探りでしがみついた。私もあなたも自分のことで精一杯だったのね。
二度目だってそう。覚えたての痛みに、快楽にと、私はあなたにまた無我夢中で、どんな風にされたかも夢うつつだった。あなたは応えるようにきつく抱き寄せてくれたけど、普段からじゃ考えられないような甘い声で、低く私に愛をささやいた。私は息も絶え絶えにうなずいたり、暗闇に慣れない熱をいいことにくじけそうな言葉を返した。あなたはそっけないどころか、蕩けるほどの時間をまたいで私を貪った。私はそんなあなたの濡れたような瞳だけをしっかり記憶に焼きつけた。
そして今日。
煌々とつく電燈の下で、あなたはソファーに座る私を抱きしめて、明るみの許、キスではじめる。
おはようの朝でもなく、昼間でもなく。
私たちははじめてお互いの顔がしっかり見える光の中でその先にすすむ。
ねぇ、銀ちゃん。
耳が真っ赤だよ?
お前なんかなぁー顔じゅう茹でダコ。
お互い言いあって、へらず口を叩くくせにその目は蕩けそう。
嗚呼…
ねぇ、銀ちゃん。
そんな顔してたんだね。
そんな目で私を呼んだんだね。
その目が口以上に物語っていることを、私はようやく目を逸らさずに見つめることができた。
ねぇ、銀ちゃん。
私もたぶんあなたを愛してる。
あなたが私を愛してくれるのと同じように。
fin
心と身体。捧げたつもりが捧げられてた。