真のドルチェ・ビータ







しあわせの星  きれいな星
掃除のしていないその部屋の
埃にまみれてキラキラ光って
ぼくはよろこびの火で
酔っぱらって死んで
きみは酔っぱらって生きて
ぼくの腕のなか まっぱだかで








愛の御多幸をお祈ります。




神楽が美味しそうに卵をかけたごはんを食べるのを、銀時はひたすら見つめていた。
可哀さあまって憎さ○○…の酔いどれ天使、もとい小さな肉食獣は、まだ生々しい衝撃の記憶の中で、銀時の甘く酒臭い傷痕の肉片を思うさま食い散らした満足に浸っている。
我ながら確信犯的な一夜だったのではないかと考えても、後の祭り。
栄養を考えて出してみた朝バナナの輪切りを、握りしめた箸でグサリと突刺し、傷物のちいさな唇に運びながら、お次は豆腐の味噌汁を抱えてお行儀よくずずいと吸い上げている。自分では気を遣ってみた朝食を、ごはんと味噌汁、そしておかずとデザートと、かわるがわる、のったり、のったり、口に運ぶことにただ、熱中している…。



自分はひと口も食べず、ひたすら神楽を見つめて。
その顔や手のひとつひとつの動きを追っていた銀時は、そんな醜態に気づくも目は逸らさなかった。
おおいに腹が空いているのか、ほんとうに動物のような奴だと思う。(いや、受肉したての天使か…?)
つい数刻前に処女を喪したばかりの娘がそんなにモリモリ食べて…。
さすがに正座だけはできなかったようだが、哀れな天使の仮面をかぶった可哀らしい獣は、どこまでも不敵に犯罪者の前で開き直っている。
してやったり、という気持ちは確かにある。
だが、一滴も余さず自分のものにしたことを自覚したのがどうして相手のほうなのか…。
このひとまわりも年の離れた若い女の子が少しだけうらめしい。
ようやくそんな男の視線を受けとめ、神楽はじろりと銀時を、見た。
うろたえもしなければやっぱり堂々としている。へんに後ろ暗く思うのは───いい年した大人の性分だろうか。
けれど、朝の銀色のひかりただよう居間の青いソファーの上で、銀時を見つめる神楽の瞳には、もはや隠しようのない確信の念が垣間見える。
ぶらさげていた箸をテーブルに置くと、銀時はその目をさらに覗き込んだ。
そうした瞬間に自分が何もかも忘れはて思考停止の状態に陥ることを知りながら。
底知れぬ少女の瞳のまばゆいばかりの深奥を、彼は魅入られたように見つめてしまう。
本当の気持ちを滑稽だと思うのは、馬鹿か俗物だけということだ。



「ねぇ」



神楽が、銀時の眼を掬い入れるようにしながら、かろうじて聞きとれるほどの声で言った。
視線は身じろぎもせずに、じっと見つめあう。



「ねぇ、教えてヨ」



音の無い音のような一つの情緒が、小さな声を響かせた。



「あのとき、私が銀ちゃんのお酌に付き合ってあげたとき、──銀ちゃんはこうなるって分かってたアルか?」


「……わかってたよ」



銀時はささやいた。



「じゃ、今は? 今もわかってる?」



「わかってるよ」



「──昨日だけじゃなくて、私がずっと…銀ちゃんのウチに来てからも?」



「俺はいつでもわかってた」



彼の天使はまるで生まれてはじめて銀時を見るような目つきでその目を見つめた。その指がぎゅっと箸を握りしめ、それ以上何を言いたかったのか、もはや二人に言葉は要らないことを悟ると、くしゃりとゆがんだ。
銀時はとうとう大げさに溜息を吐いた。



「……こんなオッサンのどこがイイんだか」



ぼそりとつぶやく照れ隠しに、



「あなたはわたしの命よ?」



天使の唇がすかさず答えた。





子供の頃からね。きみがまだこの世にいないときから、僕はきみを待っていたんだよ、きっと。











fin
ある愛の風景。



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08/27 02:18
[銀魂]




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