プルースト的願望







指の隙間から漏れる声




私がそのまま自分の上に銀ちゃんの体重を感じ、私たちがお互いに幸福になることは、ひどく当たり前のことだったのだ。
たしかに銀ちゃんはだいぶん飲んでいたし、私の一番の保護者、雇い主、時に父や兄のような存在だったけれど、私は銀ちゃんがとても好きだった。
終いには私まですっかりもらい酔いして、馬鹿みたいに陽気だったし、けっしてセンチメンタルなんかじゃなかった。なれなかったといったほうがいい。
だってこれは愛の問題じゃない。単に同意の問題なのだ。
私は自分に、銀ちゃんといっしょにいる時はいつも笑わなければいけないと言い聞かせている。何より、私はそう出来そうな気がしていた。
もし銀ちゃんが私を厭い、私に興味を持ってくれなかったとしたら、私は自分に興味を持ち、自分を愛することが出来なかったと思うのだ。この考えこそ馬鹿げているけど、ある意味偉大な真実のように私には思える。
私は来るべきこれらすべての悩み、苦しみ、快楽を待ち受けていた。
私はすべてを、待ち望んでいた。
私のからだの上にこの人を。
私は誰がなんと言おうと銀ちゃんを手放さないだろう。胸の張り裂けるような一途さで、私は銀ちゃんを自分に抱き寄せた。銀ちゃんがうっかり私に触れてしまった時にはもう遅かったのだ。
私は苦しまずに銀ちゃんの欲望を、腹立ちまぎれの殉教を見守っていた。何故だか知らない、私は銀ちゃんの顔の一つ一つの刻みを細かに眺め、やっと自分自身から解放されることが出来たと思った。
このお祭り騒ぎの英雄で、バイク事故の記録保持者で、酒や賭博や愚行を漁りまわり、それでいて人生のある種の状況ではひどく腰抜けなところのある銀ちゃんが、少しばかり通俗的にふるまったとしても。失望なんてしない。
私は銀ちゃんが少しずつ、神経を立て、冷淡になったり、苛々したり、要するにある不安から心を離そうとやっきになっていたところを見てきた。
自分自身に病んで、毒されて、自分の悪徳や、快楽や、健康や───ときには───優しさなどの狭間でようやく均衡を保っていたこの人を、いつでも体をはって護る覚悟だったし、いつでも口撃する構えもできていた。そしてそれは銀ちゃんだって同じだ。そういう人だった。
銀ちゃんがけっして直接私に答えはしなかったのも、この後に及んでふたりとも 『愛してる』 と言わなかったのも。その『愛してる』が感情よりも性愛にもとづいていたことも、大したことではなかった。
銀ちゃんにはきっと、無邪気な人間を無経験の賭けや遊蕩に連れていくような印象だったのかもしれない。
軽く縺れたいささか放心状態の声がなりをひそめたのも、急に少し失望した様子をみせたのも、もはや素朴な問ではなく、私の中に真実という意味の全面的な肯定を見つけだしたのも。


私は人生で知っているすべての哀しいことや、優しいこと、鋭いことを銀ちゃんに話して訊かせたい。
銀ちゃんの死にそうな眼の中にあるのは、素朴で男らしく、何より子供っぽい問いかけだったのだから。



愛してるわ、お馬鹿さん











fin

神楽はちびっこだけどいい女。



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08/27 02:10
[銀魂]




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