アクアチンとをめぐる対話







───世の中から孤立し、ふたりだけで愛し合っているふたりの人間、それはとても美しいよね。



「でもそれって、なんによってそのふたりだけの状態に滋養をあたえるんだろう? 
たとえこの世の中がどんなに軽蔑すべきものだとしても、ふたりが話し合えるためには、その世の中を必要とするんだよ」



だからあの子は、間違ってなんかいないんだよ、グロテスクなくらい間違っていないんだ。



彼はしがない中年男子をランチに誘い、死や愛を語りだした。
たったひとりの妹の、肉親の話をした。


「──お前さんは、楽しみに理屈をつけんのか? 面倒なヤツだな」
「理屈…理屈じゃないなァ」
「楽しみの種を握りつぶしてしまうんだな」
「うん、そうかもね」


じつをいえば、彼の具体的な状況は何ひとつ想像できない。
エロスは曖昧なもので、みんながそれを自分の不幸、欲求、不満、羨望、コンプレックス、苦しみの原因として憎んでいるものだからだろう。
男は、ふたりの人間の愛や孤独、死を予示する寂しい孤独のことを考えた。


「あの子はオレたちの鏡、オレたちの記憶なんだ」


あいかわらずニコニコする彼を見つめて男は哄笑した。


「そこに自分の姿を見ることができるように、ときどきその鏡を磨いてくれること以外、オレはふたりにはなにも求めない」



男はランチを終え外に出て思った。
あれは嘲笑だったんだと。


その嘲笑が、悪い前兆のように一日じゅうきこえていた。






(──どんな愛も、沈黙に抵抗して生き延びられはしないのさ。)








fin



09/14 21:00
[銀魂]




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-エムブロ-