皇帝の白馬フロリアン







このあと誰が わたしの運命をきめてくれるでしょうか?
恋人よ あなたの結んでくれた
胸の上の結び目を

この先 解く者がいるでしょうか?
もしいつか ほかの女が
あなたに恋をして あなたの膝にのりながら
戯れたり 歌ったりしたら
わたしのことを思い出して。


───R.J.ポロンスキー












「お…ちょっと痺れてきたからこっちな」


そう言うと、わたしを持ち上げて今度は右のひざに座らせる。
え、べつにソファーに座るヨ? と言えば


「いーの、お前は銀さんに一日中くっついてりゃいいの」


そんなこと言って、また飽きずわたしの髪や頬、うなじに、耳をさわったり肩を抱いたり、好き勝手のんびりしてる。











私は成長中だから、“愛”に対する定義がどんどん広がっている。
人はたくさんの人をそれぞれの方法で愛せるはずだよね。
白馬の王子さまなんてもともと信じちゃいないけど、“愛”というものが大きく、深く感じられるようになった。
でもね、それは恋愛についてウブでなくなったってことじゃない。
愛する人、心を捧げる相手を、自分で決められるって気づいたの。
ありきたりな言い方だけど、自分自身を好きにならない限りは、自分にぴったりの相手を好きになれないこともわかった。
悲しいけど、それって経験でしか学べない。誰かにいくら教えられても、実際に外に出て失敗するしかないんだ。


いまの銀ちゃんを見ていると、すこしだけ…怖くなる。
回り道してやっとここまで来たのに、
今のあなたを見ていると、苦労して手に入れたこの幸せをぜーんぶ失くしてしまいそうだよ。
誰かと結びついてしまったら、突然自分がそれ以上の何者にもなれなくなってしまうんだもん。


私はときどきリードして、ときどきは一緒に歩きたい。
ぜんぶ縛られるのはいやだよ。
息ができないのはいや。


私は単純に十代半ばの女の子というものは、やっと自立し始めて、自分がもつ力を感じ、自分の中にある強さとつながり始めるときで、なおかつそうすることがすごく難しい時期だと思ってる。
とくに親しい人との関係においては、変化するということは非常に難しいことだ。
私が十四歳のときは、もっとやる気に満ちていた。「銀ちゃんになら絶対ついていくネ」 みたいなね。
だけど始めてみたら、私はまだやっぱり誰かについていきたくないみたい。
あなたは暑苦しいほどの執拗さで熱心に毎日、わたしに言い聞かす。


『こんなふうにシテいいのは、銀さんだけだからな』


あなたはちゃんと血の通った心の持ち主だよね?


『しばらく家から出さねーよ』


あなたはあんなに広々と、不器用で、自由だったのに。




ねぇ…悪いことだって、知ってる?


普通のおとなはね、こーいうコト、こどもにしちゃいけないんだよ。こーいうコトすると捕まっちゃうの。ねぇ。


私はただ、誰か自分のことを本当に愛してくれる人の腕に包まれて、安全な場所へ導いてほしいと願っていたの。
人は幸せだと余裕ができて、過去も清算できることを身をもって証明している。
あなたは自分自身だけでなく、あなたが私に対し何ができるかということを信じてはいないの?
それが私があなたから学んだいちばん大事なことだった。
あなたに逢ってから、ひとりだった時より十倍充実しているよ。


私はあなたをたぶん愛してる。
でも愛するあまり、憎らしくなるなんて間違ってる。
あなたが喜んでくれてうれしい。あなたが生きていてくれてうれしい。あなたが健康でよかった。あなたが幸せでよかった。
だからこの幸せを手放す気はない。
その幸せのなかに私がいるなら、お願いだからわかってほしい。
捕まえられたんじゃなくて、呼び寄せられたんだと。あなたのもとに。わたしが。


人は人を愛するためにどれだけ時間をかければいいんだろう。
お互いを理解するためにどれだけの時間を…?
人生をなんとかしたけりゃまず自分の心をなんとかしないとだめだ。
でなきゃトラブル人生。
努力よりもがくのをよせばいい。
でも愛って所詮、一方的なものだと思う?



“愛” が答えね。



少なくとも私の心のなかの今の疑問にとってはね。
ちゃんとわかってる。




皇帝の白馬フロリアン












fin

愛を勝ち取る必要はない。
ただ求めればいい。

貴方に触れなくたって貴方はどこにも行かない。




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07/16 16:37
[銀魂]




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