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02

教師たちが恐れていたことが起こった。俺が留年したのだ。担任は青ざめていたけど俺にとっては案の定みたいな話なので、多少のショックはあったものの別に一年をもう一度やり直すことに抵抗はさほどなかった。今まで仲がよかったやつらと会う頻度は減るけど、まあ友達増えるしいいんじゃね?くらい適当なかんじで受け止めていた。が、梶原たちはやりにくそうだった。

「…あのさ」
「なんだよ」
「別にそんな、腫れ物に触るみたいな扱いしなくていいから」

俺がついにこう切り出すまで奴らは肩に変な力が入っていて、こっちまでやりにくくなっていた。ていうか、お前もっと深刻に受け止めろよ。友達にそう言われるくらい俺にはどうだっていいことだったんだ。二回留年しなければいいか、みたいな気持ち。

「お、浜田」

俺が一年生をやり直し始めてからようやく三週間経つか経たないかくらいのとき、前のクラスメイトの彼女に廊下で出会った。思えばそれまで会わなかったのがふしぎなくらいだけど、それよりふしぎだったのは彼女がまるで俺に気を遣わなかったことだ。一番留年を気にしてない俺が自分でこんなこと言うのも変だけど。

「しっかり学べよ、一年生!」
「うわっ性格わる!」

友達に呼ばれた俺はその場を離れたけど、心のどこかでまだ行きたくないという感情があったのに気付く。そのとき初めてなぜか留年を後悔した。でもすぐに思いなおす。あいつみたいに気さくに話せる友達なんか今の学年でもきっとできるだろ。楽観モードに入ったところで今度は泉に出くわした。

「しっかしほんとに留年してんだな」

元々無遠慮なそいつも同学年になってしまったのでいよいよでかい顔し出してるってわけだ。全然いやじゃないし、むしろさっきの彼女のかわりが泉みたいなもんかなと思った。泉の向こうにいる女の子が「あ、留年の人」と口走った。俺がそっちを見ると慌てて手で口をふさいだけど、こういう有名人気分はそんなに悪くない。

「バカで有名人になってんのに」
「るせー泉」


01

友達が留年した。聞かされたときは「ふーん、やっぱな」くらいにしか思わなかったけど、どうやら相当珍しいことだったらしい。学年に差が生まれてから初めて廊下で会ったとき「快挙じゃん」と笑ったら複雑な顔をされた。

「まさかこんな目に合うとは思わなかったよ」
「そう?結構想定内なんだけど、あたしとしては」

うなだれるポーズをとる浜田は新しいクラスの友達に呼ばれて走っていった。ああいう性格だから一年下の学年の子たちに溶け込むのには問題ないだろうけど、梅原や梶山は新学期が始まった頃はあまりその話題に触れないようにしていたらしい。変なやつらだ、浜田がそういうの気にすると思ってんの?

「素で戦慄したんだよ」
「だって留年だぜ?気ぃ遣うだろ」

気遣わないお前がふしぎ。二人は声をそろえてそう言った。

「真の友情とはこういうものだよきみたち」
「どうしようお前最近浜田よりきもいんだけど」

おめーのがきめえんだよと何の根拠もなく言い返したらチャイムが鳴った。梶原たちは席についていたのであたしだけ立ち上がって自分の椅子に座りなおす。もうそろそろ四月が終わるな。浜田のいなくなった教室内を見渡してあたしは別にどうでもよくなって机に突っ伏した。

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