*夢文注意です*
「げ、またいる…」
まただよ、今日も今日とて、ずーっと教室に向かうのが憂鬱。
いや、別に一人ぼっちとかいじめられてるとかいう訳じゃないんだけどね。
「…あ、いた。雨宮さん。相変わらずブレザーは着てないんだ?僕が何度も何度も言ったのに…おかしいんじゃないかい?」
「わざわざ来る天祥院先輩の方がよっぽどおかしいです」
私の前に立ちはだかる、鬱の原因。
一つ上の天祥院先輩。わざわざ、私の服装チェックだったり何だりをするために毎日来る。
アイドル科と普通科の往復って、実際かなりめんどくさいのに。
手続きしたり、変な書類を提出しなきゃいけなかったり、そもそも相当な理由がないと行き来はできない。だからみんなアイドル科の人たちはイケメン!って騒いでるけど、行かないし行けない。アイドルはスキャンダルがダメだから、だって。
私もアイドル科の人たちはかっこいいと思う。目の前にいるこいつを除いて。
そしてそんな嫌いな先輩に、目をつけられてしまうという最悪の高校生活走り出し。
毎日来るなんて、相当私のこと気に入らないんだろうね…
「ちょっと。話は聞いていたかい?」
「…はいはい、聞いてました。私、今日漢字の小テストあるんで失礼します」
「はいはいって、返答の仕方が気に入らないんだけど?それとスカート、何回折ってるんだい」
「え?2回ですけど」
「2回でも短すぎる。どうせ裾上げしてもらったんだろう?君はプロデュース科の試験生徒の1人になる予定なんだから、身なりはしっかりしてもらわないと困る」
「え?それ二学期からの話じゃないですか。」
私は普通科で普通に四年制大学を目指していたのに、特色試験の結果やら何やらで来年度新設されるらしい「プロデュース科」の試験生徒に選ばれちゃってるの。まじめに勉強してきたこちらからしてみれば、いい迷惑…
そうなるとアイドル科の方にほっぽられるから友達もいなくなっちゃうし、何よりこいつと会う時間も格段に増える。
正直、二学期来なくていい。
「あぁもう。それとカーディガン。ブレザーは必ず着用するようにって言ってるだろう?今どこにあるんだい…って家か。早く着てこないと、君の家押しかけて押収するよ。それとか、あと…」
「わかったから〜!失礼しますっ!!できれば今後来ないでいただきたいんですけど!」
こうなったらダッシュしかない。早くしないと、朝休みが終わっちゃうしね。
入学してから間もないのに、すでに他のクラスからも「朝休み廊下を疾走しているのは雨宮」とかいう変なイメージ持たれちゃってるし。
「あ、また逃げるのかい!?無駄だと何度も言ってるだろう」
勿論先輩のほうがストライドも長いからすぐ捕まる。そして朝休みぎりぎりまで言い合い…いい加減にして欲しい。先輩、ちょっと走っただけで苦しそうに息切れするのは意外だけど。
こうして放課後まで平和に過ごし、帰り道…
「雨宮!!明日はジャージ持ってきなさい!というか今から来なさい!朝の続き!!」
紅茶部の活動場所、ガーデンテラスから聞こえる罵声。
「うるさいです!!私今から何するかわかりますか!?バイト行かなきゃいけないんですけど!」
「じゃああとで追いかけるよ!」
「バイト先塾なので!残念でした!!」
お互い叫びあっているため、かなり目立つ。友達にも、「みつきやばい人と喧嘩してるよ…?」とか咎められるし、今すれ違ったあの人…眼鏡の弓道着着た人__目立つしアイドル科かな__にはものすごく睨まれる。
もう、なんで私、夢ノ咲なんて来たんだ〜!?
天祥院先輩が病気持ちの御曹司で、そんな病弱なお偉いさんと喧嘩してた、なんてことを知ってひっくり返るのはプロデュース科の試験生徒になってからすぐのお話。