という訳で勝手に呟きますねー。
境界のRINNE、6巻買いました!
相変わらず桜かわいすぎワロタ
僕ってあんまり漫画のキャラに入れ込むって事ないんだよ。留美子先生マジありがとう。
RINNEの何がいいって、コテコテの昭和な雰囲気とシュールさが群を抜いてると思う。
恋愛でドタバタしてるのもかなり微笑ましいんだけど、人々が両手をあげながら逃げたり、擬音が丸文字のひらがなだったり、
閉じこめられた桜が太鼓を叩いたりね。
このツッコミ所満載のゆるい空気がたまりませぬぅ。
我がオリキャラ睦月は桜の影響けっこう受けてそうだなあ。
や、並べると全然違うんだけど!!(笑)
とにかく僕はこれからもRINNEを応援します。はよりんねと桜くっつかんかい←
これは今まで挙げたスリップの例の中でも一番多くの人が経験しているのではないだろうか。
原因の一つとしてまず考えられるのは、メロディの性質の違いである。
メロディにはやはりキャッチーで比較的覚えやすいものと、複雑で覚えにくいものがあり、同じように習得できるとは限らない。
また、各パートにおける声量の違いも原因の一つになり得る。
パート毎に声量のバランスが異なり、自分の歌うメロディがうまく聞き取れないような状況では、他のパートにつられてしまってもやむを得ないと考えられる。
実例5 店頭で会員カードの提示を求められた際に、何気なく学生証を出してしまった
考察5 これは取り敢えず物を提示するという流れに乗ったものの、正しい行為が指定されていないため、記述エラーにあたると考えられる。
また、状況を確認しないまま提示したので、モードエラーも関係しているのではないかと思われる。
原因は、会員カードと学生証の形状が類似しており、スリップが起こりやすい。
また、後に人が並んでいたり、早く済ませようと
考察3 これは蓋が閉まっている事を確認しないまま、蓋が空いている事を前提とした行動をとってしまったため、モードエラーにあたると思われる。
また、蓋を開ける前にコップにジュースを注ごうとするのは手順とばしであり、尚早反応にもあたると考えられる。
原因としては、やはり蓋の状況を忘れてしまう程の時間経過もしくは何らかの事象が起こったからであると考えるのが一般的である。
具体的には、ジュースを飲んでいる際に友人から電話がかかってきて、話し込んでしまったケースや、テレビや読書などといった娯楽に夢中になってしまったケースの場合、蓋が閉まっている事を忘れてしまうのは十分あり得るのではないだろうか。
実例4 合唱コンクールに向けて練習を行う際に、耳に入る他のパートのメロディを歌ってしまう
実例1 自宅にて飼っている犬にエサをあげてきた母が私の事を犬の名前で呼んだ
考察1 これは母の悪戯か何かでもないかぎり、直前まで犬の名前を呼んでいた事によって、私の名前がとって変わられてしまった、いわゆる奪取エラーによるものであると考えられるが、犬の名前が頭の中に残り、それが言葉として出てきたとなると、考えの行為化も起こっていた可能性もある。
母は犬に語りかけながら戯れる事が多いため、その中で犬の名前を呼ぶ回数も多いと思われる。
そのため、母の場合、犬の名前が人より頭の中に残りやすいと推測され、これがスリップの起こる原因ではないかと考える事ができる。
実例2 作詞家、作曲家として活動しているスガシカオさんというアーティストをふとテレビや記事などで目にする際に、ついシガスカオさんと言ってしまう
考察2 単語の枠組みが崩壊せず、苗字と名前の頭文字が入れ替わっている事から、スプーナリズム(頭音転換)が起こっていると考えられる。
スガシカオさんをついついシガスカオさんと言ってしまうという経験談は少なくなく、シガスカオさんではないんだと認識していても一瞬混乱してしまったり、間違ったまましばらく通してしまうケースもある。
原因としては、苗字と名前の頭文字が入れ替わっても入れ替わらなくても、アーティスト名として成立し得るため、(日本には須賀さんも志賀さんもいる)混同してしまうのではないかという仮説が立てられる。
また、入れ替わっても語呂が良く、発声した際の違和感が生じにくいのも原因の一つなのかもしれない。
ここで美穂は先程までのやり取りを蒸し返すかのように嫌味を言う。
もちろんそれに黙っている悠花ではない。
「性格ドブスには嘘に聞こえちゃうのかな」
「はああ?あんたが性格ドブスとかよく人に言えるね」
そうして二人は睨み合いを始める。
「え、二人ともケンカでもしてたの?」
突然口喧嘩を始めた二人を目の当たりにした檸檬はやや戸惑いながら呟く。
「そうなんだよねー。悠花が喧嘩売ってきてさあ」
「そうさせたのはお前だっつの。いい加減にしろよ」
「いい加減にするのはお前だろ!!どうせ仕事あんのだって枕のおかげのくせに!」
「自分が枕してるからって、アタシもしてるみたいな決めつけやめてくんないな?」
「あぁあああ!?!?!?!?」
「ちょっとちょっと!やめなよ!」
まさに一触即発の空気をなんとか和らげるために、檸檬は一生懸命仲裁しようと試みる。
しかし、それを見た美穂は、今度は矛先を檸檬に変えた。
「っつーか、檸檬も檸檬でちょっと不気味な所あるよね」
「え、私?」
「自分だけいい子ちゃん気取ってるっていうかさ〜。いやまあ、アイドルなんてそんなもんだろうけど?でもさあ、そんなんカメラ回ってる時とか、客の目がある時だけでいい訳じゃん?」
悠花がそう告げると、電話をかけてきた相手は少し驚いたような声を出したが、すぐに会話を再開した。
「あらっ、そうでしたの〜。じゃあ絹江のお友達か何か?」
「えっと…。この携帯は藤沢檸檬っていう子のものなんですけど…」
「あっ、それは絹江の芸名なんですよおー」
「マジすか!!!!!!」
「ちょっ、何、なんなの。絹江って誰」
「ただいまー」
悠花が思わず驚きの声をあげ、美穂が状況が分からずに戸惑っている所に、トイレから檸檬が帰ってきた。
スッキリしたのか、とてもにこやかにしていた檸檬であったが、悠花が自分の携帯を持って誰かと話している姿を目にすると、一目散にそちらへ向かっていく。
「ゆ、悠花!!ちょっ、ちょっと!!!!!!!!」
「わっ、えっと、檸檬に変わります!!!!」
普段のゆっくりした檸檬からは想像もできない機敏な動きに驚いた悠花はおとなしく携帯を檸檬に返した。
「もしもし!」
「あっ、絹江。夕ごはんはいるのー?」
「うん、よろしく!じゃあね!」
檸檬はそれだけ告げて電話を慌てて切った。
そしてしばらくの沈黙が流れる。
やがて檸檬が静かに口を開いた。
「…おじいちゃんがつけたの」
「…い、いい名前だと思うよ」
傍若無人で蓮っ葉なアホ悠花でもここでは流石に空気を読んだ。
それからしばらくの時間が経った後、一人の男子がその道を通っていた。
彼の名は西村隆。
かつて進にさらわれ、熟女フェチであることをさらけだした愛の彼氏である。
ちなみに、彼の場合はあくまで熟女でもいけるというだけの話であって、愛が熟女っぽいわけではない。
そんな隆が出し抜けに落ちていたパンティーを発見する。
「え、なんでパンティーが…」
至極当然のリアクションをしつつも、彼はそっとパンティーを拾いあげた。
「どこかの洗濯物かなにかかな…。あ…」
隆はそのパンティーになにか書いてあることに気づいた。
『しらいしあい』
筆跡を見る限り、それが彼の知っている白石愛であることは明らかだった。
「あっははは。小学生みたい」
隆は自分の彼女の子供っぽい一面を笑いながらも、より愛おしさがわいてきたのを感じていた。
やっぱり、俺の彼女はかわいいな。
彼はそんな思いをひしひしと感じながらそのパンティーをすぐに白石家に届けた。
そんな隆の誠実な姿に愛は涙を流して喜ぶ。
「よかったああああ…。やっぱり隆はステキだよおお…」
「いや、俺は落し物を届けただけなんだけど…」
「三時間も自分の物にしようとした子がいたんだよおおおおっ!!!!」
「な、なんで三時間…」
順当な道を歩む隆にとっては何がなんだかサッパリであった。
部長は被っていた野球帽を取って正文に頭を下げる。
部の中では恐ろしくもあり、偉大な存在でもある部長に誠意のこもった謝罪を受けた正文は思わずかしこまってしまった。
「い、いやあ。お、俺も気合が足りなかったからこんな事になっちゃったわけですし…」
「気合が足りなくても、こんな事はもうしねえよ。あ、お前の貴重品はちゃんと家に返しておいたから。だからその頭のやつは返して来い。どこからかっぱらってきやがったんだ」
「え、だめですよ!!!ちゃんと三時間経ってから…!!」
慌てて自転車に乗ろうとする正文であったが、部長に押さえつけられてしまう。
「なにが三時間だ。っていうか、野球部は練習の時間だろ。早く行くぞ」
「え、そ、そんな!!!俺の夢が!!!パンティーがあ!!!!!」
必死の抵抗もむなしく、正文は学校へと引きずられていく。
そして、じたばたしていたせいで頭に被っていたパンティーが道ばたに落ちる。
「あーー!!!パンティーがーーーー!!!!」
「うるせえ。野球だ野球。今までいなかったぶん、しっかり遅れ取り戻せよ」
「それどころじゃない!!!先輩だってオトコでしょう!!!なんで!!!どうしてええ!!!うわああああ………」
夢を絶たれた正文の騒がしい声を撒き散らしながら、やがて二人の姿は学校へと消えていった。
「…今ならまだ怒らないから。おとなしくそれを返して!」
怒らないと言いつつも、既に険しい表情で手を突き出す愛に対して、正文はパンティーを頭にかぶりながら極めて晴れやかな表情をしている。
そして彼は静かに口火を切った。
「白石さん。俺は思い出してしまったんですよ…」
「な、なにを…」
「俺には、夢があったんです」
「まさか…」
その瞬間、正文は鮮やかなスピードで自転車に乗り、勢いよく漕ぎ出した。
「女子のパンティーを借りることでーーーーーす!!!!!!!!」
「パンティーどろぼーーーーーう!!!!!!」
今の正文には、飛んでくる罵声ですら心地よく感じられた。
それに、彼は泥棒ではない。
「三時間経ったら元にもどしまーす!!!」
「時間が生々しいよおおおー!!!うわああああーん!!!」
ついでに彼は自転車も拝借していた。(愛の)
自転車で街を疾駆しながら、正文はその甘美なるパンティーをどうしようか思案していた。
それを考えるだけでも、胸が躍って仕方がない。
今まで強制的に抑えつけられていた自分の欲望が急に開放されたことによって、彼はもはやバースト状態に陥っていた。
「わははははは!!もはや俺は止まらんよ!!!!」
しかし、そんな正文を制止する声が現れた。
「そこまでだ」
「な、何者!?」
「その様子だと元に戻ったみたいだな…」
暴走していた正文に声をかけたのは、太一に話を持ちかけた、いわば事の発端である野球部の部長であった。
正文も思わず自転車から降りて部長を見据える。
「先輩…」
その勢いに気圧された愛はしばらくその場に硬直していたが、やがて弾き出されたかのように正文の後を追いはじめる。
「返してー!!!!!!」
そして、嵐が過ぎ去ったリビングは何事もなかったかのように団欒を始めた。
「茶菓子もなかなかいけるな」
「あ、兄ちゃん。アタシにもちょうだい」
「………もうどうでもいいっす……」
「ふぅ。たまには茶も悪くない。太一もどんどん飲みな」
「あ、あざっす。……に、にしても正文先輩、いやらしい心を取り戻しそうっすね…。愛さんと抱き合っても冷静だったのになんで…」
「今のあいつには、生身の女よりも、パンティーの方が効くらしいな」
そう言って淡々と事態を分析する進の眼前には、格闘する妹二人と、心ここにあらずといった様子で呆けている正文の姿があった。
そしてしばらく続いていた白石家の姉妹による女らしさ皆無の野蛮な格闘のはずみで、純白のパンティーがふわりと宙に舞う。
「あっ」
「あっ」
そのまま緩やかに下降するパンティーは、まるで吸い込まれるかのように正文の手の平の上に落ちてきた。
「これは…」
「返して!!!!!!あたしの!!!!!!」
愛は必死に叫ぶが、悠花も負けじと大きな声を出す。
「正文くん!!きみの心を…。スケベな心を解き放って!!!!」
「俺は、俺は…!!!!」
激しい衝動に揺られる正文の頭の中では、これまでの記憶が去来していた。
女子を異性として意識するようになった自分。
様々な媒体でたくさんの女の人を見て、幸せな時間を過ごしていた自分。
その素晴らしさを男友達と共有し合いながら、楽しく笑っていた自分。
浮かんでくる様々な感情に呑まれながら、彼は自分が聖人君子などではなく、人よりすけべな所がある男子なのだという事をやっと思い出した。
「俺は!!!!女の子が!!!!そしてパンティーが大好きだああー!!!!!!」
悠花がちらつかせるパンティーを彼は確かにじっと見つめているのである。
「なんだろう…。不思議な気持ちだ…」
戸惑う正文に悠花はこの上ない可憐な笑顔で優しく語りかける。
「それが、君が忘れていた性欲だよ」
「性欲…」
「あたしのパンティーで性欲思い出そうとしないでー!!!!!!」
「ぐえ」
怒り心頭に発している愛は悠花にのしかかり、パンティーを奪取しようとする。
「重い重いっ」
「うるさーいっ!!」
「性欲…、僕は…いや、俺は…」
「茶がうまいなあ」
「いや、先輩…。いいんすか…?」
「ただいまー!」
その手には純白のパンティーが握られていた。
「あたしのー!!!!!!!」
それをみとめた愛は声を張り上げる。
しかし、進は極めて冷静にパンティーを評した。
「あれ愛のかよ。つまんねーもん履いてんのな」
逆におもしろいパンティーとは何なのだろうか。
「うるさいな!!!!っていうか返してよっ!!!!」
「正文くん!!!!おなごのパンティーだぞっ!ほらっ!!」
愛の猛攻をひらりとかわしながら悠花は正文の眼前にてパンティーをちらつかせる。
「太一、ほら、茶が冷めちまうぞ」
「えっ、あっ。た、確かにそうっすけど」
「俺らはお茶会と洒落込もうぜ」
「いいんすかね…」
その時、これまで微笑を崩さずにいた正文に変化が現れた。
「なるほど、そんな事がねえ…」
三人から事のあらましを聞いた悠花は顎に手をあてながら解決策を模索していた。
そうしている間も正文は穏やかな笑みをたたえながら、悠花の近くに座布団を置いたりしている。
「まあ、座ったらどうですか。お仕事でお疲れでしょう」
「ンハハ、こいつあどうも。あ"ーどっこいせ」
「夫婦かお前らは」
進がすかさず突っ込みを入れる。
「しかし、正文先輩と悠花さんが仲良くしてるってのもすごいっす…」
もともと正文と悠花はどちらかと言うと仲が悪かった。
要するに正文が食べ物の恨みをいつまでも引きずっていたのだが、その事を彼は完全に忘れているようである。
「どうしたらいいんだろう…。あたしでもだめだったし…」
「風俗ブチ込むか」
「おめーが言うと冗談にきこえねーからやめろ」
「風俗がだめならそうだなあ…ちょっと待ってて」
そう言って悠花はリビングを後にした。
心なしか、進たちにはその時彼女が不敵な笑みを浮かべているようにも見えた。
「なんか嫌な予感がする」
「こ、こわいっす…」
「と、とりあえずお茶でも入れるね…。えっと、ポットはどこだったかな」
「じゃあ俺達はテレビでも観てるかな」
こうして進たちは思い思いの行動をとりはじめた。
リビングには束の間の平和が訪れるが、それはまさに嵐の前の静けさというものであった。
深く息を吐き、真剣に思い悩む二人を見て、愛は若干引きぎみの体制をとる。
むしろこの流れに乗れる女子がいたらそいつはなかなかの強者と言わざるをえない。
と、ここで唐突に部屋のドアをノックする音が聞こえてきた。
「だれー?」
「悠花ちゃんだよーーーー」
強者が現れた。
「うーむ。確かに」
三人がこうして悩んでいる間も、正文は穏やかな笑みをたたえて静かにしている。
普段を知る進と太一にとって彼はもはや不気味な存在といってよかった。
「ねえ、ちょっと聞きたいんだけど」
「なんだ」
「そもそも、先輩にえっちなの取られたんなら新しいの買えばよかったんじゃないの?」
ふいに投げかけられた愛の素朴な疑問には太一が応じる。
「先輩は運悪く金欠だったんすよ…。それに野球部はけっこうお金がかかるから、余分におこずかいを貰うなんて事もできなかったんす」
「じゃあ友達に借りるとか…」
「野球部の部長さんの影響力はやばいらしいっす。たぶん先輩の友達に『貸すなよ』って言ったのかも…。部長さん、ちょっとこわいからそれでみんな…」
「太一を頼らなかったのは、おそらく巻き込みたくなかったからだろうな。話を聞くかぎり、その部長は結構な荒くれだ。やられたらひとたまりもねえ」
「……先輩は一人で戦ってたんすよ………」
感受性の豊かな太一はそこで思わず涙ぐんでしまう。
「…じゃあ、お父さんとかから借りればよかったんじゃ…」
その言葉を聞いた進は露骨に溜め息をつく。
「それで解決してないって事は、絶望的に好みが掛け離れてたんだろうな。運が無さすぎだ、正文」
「好みが違うと、どうしようもないんすよ…。異物を見てる感覚なんすよ…」
「へ、へえ……。あたしにはよくわかんない…」
「太一!ボディチェック!」
「えっ、りょ、了解っす!」
「ま、まだ抱き合ってなきゃなの…?」
「我慢しろッ。…太一、どうだ…?」
太一は真剣な表情で正文の身体をぽんぽん触る。
そして一通り確認を終えた所で大きく息を吐いた。
「…身体は火照ってるとも言えないし、心臓とか脈のリズムも乱れてるカンジはしないっすね…」
「正文のムスコはどうなんだ」
「…眠れる獅子っすね」
「じゃあ間違いないな…。愛、もういいぞ」
「ふはぁ、緊張したぁ…!」
こうして正文は本格的に悟りを開いてしまった事が明らかとなった。
「ごめんね。つい太一くんがかわいくて…」
「はっはっは。気にする事はありません」
両手を合わせて平謝りする愛に対して、正文はあくまで爽やかに応じる。
普段の彼であれば、太一ばかりずるいじゃないですかとごねる場面であるだけに、後輩として彼をよく知る太一にとってその応対は酷く不気味なものに思えた。
「や、やっぱりおかしいっすよ…」
「いや、まだわからん。愛、やっちまえ」
「ど、どきどきする…」
「太一にやったようにやればいいんだよ」
「だ、だって正文くんは今初めて会ったばっかりだし…。野球してるだけあっていかにも男の子ってカンジだし…」
逡巡する愛からぽろりと出た言葉に、太一は肩をすくめる。
「……確かに俺は男としてまだ頼りないっすよね…」
「てめっ、何落ち込ませてんだよ」
しょげ返る太一を見た進は鋭く愛を睨む。
心なしか背後に黒いオーラさえ見えるほどの殺気を感じた愛はほとんど反射的に謝った。
「わわわ、大丈夫だよ太一くん!きみはまだまだこれからだよ!」
「そうだといいんすけど…」
「こんな奴の言うことなんか気にすんな。太一はそのままでいればいいさ。ほら、お前はさっさと正文と抱き合え」
そうして進は愛の背中を押す。
「わわわっ、わ!」
「おおっと!」
急に押されてよろめく愛を正文はしっかりと抱き抱える。
それを見届けた進は素早く太一に指示を出した。
「ははは…。もう既にオカリナを投げられましたよ。あと僕自身も」
「ばっははは。なんだそりゃ」
「もー!そんな話で盛り上がらないでくださいよ!ほらっ、奥さんが待ってますよっ」
「はは、わかったわかった」
頬を膨らませるミルムに急かされ、おじさんは家に帰る支度を始める。
「そういえば前にどやされたばっかなんだよな…。…んじゃ、またな。兄ちゃんもあんまミルムちゃん怒らすなよー」
おじさんはそう言って足早に自分の家に向かっていった。
長い一本道がずっと続いているため、その後ろ姿は長い間消えることはなかった。
「いい人だね」
「ええ。いい人ですよ。ここの村の人たちは、みんな」
ハレイラの言葉に、ミルムは柔らかな笑顔と共に返事をする。
夕日を背に幸せそうに微笑むその姿はまるで一枚の絵画のようにハレイラには思えた。
「…ほんと、優しそうな顔だよなあ…」
「え?なにか言いました?」
「あ、ミルム姉ちゃんだ!おかえりー!」
「あら、ミルムちゃん。山菜は採れた?」
おじさんが見えなくなると、今度は親子と思われる二人がミルムの方を見ながら笑顔で話しかける。
「人気者だね。ミルムちゃん」
「ふふっ。みんな、あったかいんですよ」
「ミルムちゃんは一人暮らしなのかい?」
「ええ。ちょっと前にここに越してきたんです」
「へえ…。しっかりしてるんだなあ。山菜も自分で採ってるし…」
「そうなんですよ。そこでハレイラさんのお力を借りたいんです。…あ、つきました。ここです」
ミルムが指さす方向には、白く塗られた小綺麗な平屋があった。
やや小ぶりな庭には手入れの行き届いたいくつかの花が植えてあり、それが来客の心を和ませるミルムなりの気遣いなのだとうかがえる。
「きれいな家だね。オカリナ「お巡りさーん」
「吹きません」
「お願いしますね」
「お、ミルムちゃん。帰ってきてたのかい」
もはや様式美となりつつある会話を二人でしていると、道の向こうからおじさんが声をかけてきた。
首に掛かったタオルや、日焼けしたたくましい腕が何となく土木関係の職に携わっている事を思わせる姿をしている。
「ええ、ちょうど。仕事帰りですか?」
「おうよ。今日のぶんはもう終いってな。おや、そちらさんは?」
「はじめまして。僕は吟遊詩人の…」
「へっぽこですよ」
ミルムは穏やかに、しかし食い気味にハレイラを切り捨てる。
「そんなバッサリ言わなくても」
なんとか自力ではい上がってきたハレイラは息を切らしながらミルムに言うが、
「ハレイラさんが言う資格ないですっ。ほら、ちゃんとクリフさんにあやまってください」
にべもなくピシャリと言い切られてしまうのであった。
クリフはなんとか意識を取り戻していたが、腹を立てると言うよりかは、未だに状況が掴めていない様子でぼんやりとしていた。
しかし、ミルムが険しい顔をしてハレイラをにらみつけるため、ごまかす訳にもいかない。
「この度は私の軽率な行動により、貴方様に多大なるご迷惑をおかけした事を大変申し訳なく思っております…」
「あぁ、いえ。ただその、まさか吹けないとは思わなくて…」
「ええ。それはミルム様にも言われました」
「様ってなんですか!!!!」
「ミルム殿にも言われまして…」
「そういう事じゃなくて!!!!」
ここでクリフの惨状にようやく気付いたミルムは急いで彼のもとに駆け寄った。
「だ、だ、大丈夫ですか!?」
「クリフさんにも悪い事してしまったなあ…。彼にも僕のパンツを見せた方がいいんだろうか」
「ハレイラさん。ちょっとこっちに来て下さい」
ミルムは静かな声でハレイラを小川の浅瀬に誘う。
「え、小川ならここからでも見えるけど…」
「うら゛ぁッ!!!!!!」
ミルムはそんな言葉に聞く耳持たず、素早く後ろに回り込んでハレイラを思いっきり突き飛ばした。
そして彼は美しい放物線を描き、やがて小川に着水する。
あとは静かに流されていくのみであった。
「なッ、ちょっ、えーッ!!!!」
思わず声を荒げるハレイラであったが、クリフの介抱に夢中のミルムにその声は届かなかった。
けたたましい音が辺りに響きわたった。
クリフは「キャッ」と悲鳴をあげながら転倒し、たまたま転がっていた岩に頭をぶつけて完全に気絶してしまった。少し離れた所では忠告を聞かなかった子どもが吐き気をもよおし、家へと大急ぎで駆けていった。
「うーん。まただめだったか…」
「ハレイラさん?」
「うわッ」
ハレイラが声のした方を振り返ると、そこには目のすわった迫力のあるミルムの姿があった。
「なんでウソついてまで村の人たちに迷惑かけるんですかっ!」
「いやあ、なんかね。つい、今ならいけるんじゃないかなと毎回思ってしまうんだよね」
「いけるわけないじゃないですか!!!」
ミルムは頭から湯気が出るくらいの勢いで憤った。
「そろそろこのシンラツさにも慣れてきたなあ。…ところで、さっきの方はどなたなんだい?」
二人がテンポのいい会話を交わしていると、向こうから村の青年がミルムに声をかけてきた。
「あっ、クリフさん。お疲れ様です」
「どう?いい山菜あった?」
「どうなんでしょうね。けっこう見たことのない山菜が多くて…」
「うわ、こりゃすごいな。うかつに食べない方がいいかも…。ん?そちらの方は?」
クリフはようやく後ろにいるハレイラに気付いた。見知らぬ人間を久しぶりに見たために、その眼は少し丸くなっている。
「ああ。この方はハレイラさん」
「はじめまして。ハレイラと申します。吟遊詩人やってます」
「おおっ。それはすごい」
「イヤ、あの。クリフさん…」
ミルムは真実を話そうと口を開きかけたが、とてつもなく目を輝かせているクリフに話しかけるタイミングがなかなかつかめずにいた。
「あれですか。リュートとか弾くんですか」
「いえいえ。僕はこのオカリナを使うんです」
「おおーっ。いいですね、オカリナ」
二人の会話の流れが不穏になってきた事を感じたミルムは、大急ぎで村の人たちに呼びかける。
「みんなー!!耳ふさいでーーー!!!!!」
「あっちの方でミルムちゃんは何言ってるんだろう」
「さあ。さて、ではいきますよ」
そしてハレイラはおもむろに息をオカリナに吹き込んだ。
先を歩くミルムにハレイラは素朴な質問をする。村へと向かう道すがら、とりとめのない事を話すことで、二人の距離は自然と近づいていた。
「普段ですか?わたしは村の食堂でお料理をつくってます。まだまだ半人前ですけどね」
「美味しそうだ。村を発つ前に一度食べに行ってみようかな」
ハレイラは財布を見せながらミルムに言う。
「はい。ぜひいらしてください。それで…えっと」
「ああ。僕の名前はハレイラ。吟遊詩人をやってる」
「えっ。それはおこがましいような」
「冗談。ふつうのしがない旅人だよ。しかしけっこうシンラツだね、ミルムちゃん」
「正直あれを聞いたらみんなそう言うと思いますよ…。あ、見えてきました。あれがわたし達の村です」
ミルムが指差した方向には、なるほど村と呼ぶにふさわしい、緑に囲まれた素朴な集落があった。何人かの子供が楽しそうに走り回っている姿や、微笑みながら語らう老夫婦を夕日が優しく照らしている。
「いいところだね…自然に囲まれた村は好きだよ」
「ありがとうございますっ」
「気分が乗ってきたから、オカリナを吹いてもいいかな」
「やめてください」
「やっぱりシンラツだなあ」
「いい抱きごこちだ」
「ちょっ、長くないっすかっ」
「えっ、そんなにいい抱きごこちなの?あたしもあたしも〜」
愛はためらいなく太一に抱きつく。
「えっ、うひゃあああっ。お、俺じゃなくて正文先輩にっ…」
「太一、大丈夫だ。コイツはなんにもエロくないから。心配すんな」
「失礼な事言わないでよ!!!!!!それにしても確かにいいかんじだよ〜。抱きまくらにしたい〜」
「か、からかわないでほしいっす…!うわぁあ、ながっ、ながいっすよー!」
「oh。眼福過ぎる。愛、もっとやれ」
「わぁ〜い」
「や、やらなくていいんすよ!!!!あ、あたってるっすもん!!!!わっ、わー!!!!!!」
こうして本題をすっかり忘れてしばらく騒いでいた三人は、輪の中に入れず微妙に切ない表情をして佇む正文に気付くまで十数分の時間を要する事となるのであった。
「そのキャラだよ。優しくてかわいい太一がこういう風に動く事を見越して、あわよくば女にイイコトしてもらおうなんて考えてないか試す」
「あたしはそんな、イイコトなんてできないよ!」
愛は激しく首を振る。
「いや、方針を固めるために曲がりなりにも女であるお前に協力を頼みたい」
「やだ!あたしには隆が…!」
渋る愛に進はそっと一葉さんを渡す。
スーツを着ているため、その姿はまるで名刺を渡すビジネスマンにも見えた。
「お、お金なんて受け取れないよ…」
「いいからとっとけ。あとは、一つくらいならお前の言うこと何でも聞いてやるから」
あの進にそうまで言われてしまうと、さすがの愛も無下にはできない。
それに、僅かながら進が自分に何でもしてくれるという部分が愛の好奇心を動かした。
「………わ、わかった。あたしは何をすればいいの」
「大した事はねぇ。太一、ちょっといいか」
「え、俺っすか」
「うん。…こうやって、熱い抱擁をかましてやれ」
進はお手本を見せるという大義名分を利用して、太一にハグをしてみせる。
こんな事を咄嗟に思いつく悪魔的発想力はどこからくるのだろうか。
「今の先輩には女の人との触れ合いが大事だと思うんすよ…!」
「やや、これはこれは素敵な女性が。お初にお目にかかります、私は加藤正文と申します…」
「ちょちょちょちょ。話の流れに全くついていけないんだけど…。あたしは何をしたらいいの…?」
突然の申し出に、愛はすっかり狐につままれていたが、余程の人間でない限りこうなるだろうと思われる。
これまで、太一が白石家に訪れる時は何かしらの騒動が起きる事が多かったが、今回も面倒な事になりそうな気配を醸し出していた。
「と、とりあえず手でも握って…」
「待ちな」
と、ここで唐突に流れを制止する声が現れた。
二人はわざわざ振り返らずとも声の主が誰なのかを悟る。
「に、兄ちゃん。いつからいたのっ」
「さっきから」
「あっ、就活っすか。大変すね…」
太一が少し改まって気遣うように呟く。
進はまたしてもスーツに身を包んでいたのだった。
スーツとは恐ろしいもので、それを着ているだけで人は普段より善良で真面目な社会人に見えてしまう。
進もその例に漏れず、爽やかにキメているが、企業に赴いている時以外はぞんざいなもので、現に彼はその姿のまま男の子を連れ去った前科がある。
着る服を変えたところで、性癖は変わらないのだ。
「ありがとう太一。マジで励みになるよ。ほんとかわいい。………んで、本題いくけど、手を繋ぐくらいじゃ刺激としては微妙だよ。それに、正文の自作自演っていうセンを消したい」
「か、返してあげたんすか…?」
「いや…。次に顔を出した時、あいつは虚ろな眼をしながら小声で何かぶつぶつ呟いていて…。流石の俺も引いてしまうくらいの鬼気を感じた。声なんかかけらんねぇよあれは」
「それで……?」
「それでそのまま放っといてたら…。あいつは……悟りを開いていたんだ………」
「さ、悟り…?」
「欲求を絶たれたあいつは、どうやら無我の境地に達したらしくてな…。何を言ってもあんな感じなんだ…」
「先輩……。そんなのって……」
「どうしたんだ太一君。辛い事でもあったのかい。よければ力になるよ」
悟りを開いた正文は優しく声をかける。
その姿が太一の涙を誘った。
「先輩は…、グスッ…、明るくて、甘い物が好きで…、女の人も大好きな…普通の男子だったのに…っ!…こんなの先輩じゃないっす…!ううっ…」
「…俺はあいつの為に何をしてやれるのか分からねぇ。君なら何かできるかも知れないと思ってるんだが…。頼めるか…?」
「はいっ…!俺…、正文先輩のために、いろいろやってみるっす…!」
そして太一はその足で頼みの綱のもとへ向かった。
「という訳で愛さん…。なんとか先輩を普通の男の子に戻してやって欲しいんす……」
「なんであたしなの!?!?!?」
「…正文が野球部に入ってるのは知ってるよな。俺はそこの部長だ。君と、普段ここでしている会合の事は正文本人や、あいつの携帯で知った」
「あ、部長さんっすか。はじめまして…。あの、それで、正文先輩は…」
部長はその言葉を聞くと、苦々しく顔をしかめ、やがて静かに呟いた。
「……やり過ぎた」
「やり過ぎた…?ま、まさか、いじめっすか!!!!!!」
「やはりいじめになるんだろうか…。俺達はそんなつもりじゃなかったんだが…」
「何すか!!!!なにやったんすか!!!!あんなにいい人に…!」
憤る太一が部長に詰めよろうとする。
と、その時、ソイツは現れた。
「やあ、太一君。久しいね。元気にしていたかい」
「え…、正…文…先輩…?」
聞き覚えのある声に、太一は思わず振り向く。
そこには姿勢の正しい、紳士的な好青年の姿があった。
「ど、どういう……」
困惑する太一を見て、部長は重々しく口を開く。
「…練習試合の大事な場面で正文は三振をした。そして俺達は罰として、あいつからエロいもんを取り上げた…」
「そ、そんな…」
「とは言っても俺達だって鬼じゃねぇ。そもそも本気で怒ってた訳じゃなくてノリでやった事だ。少し様子を見た後で、ちゃんと返してやるつもりだった…」
次はどんなシロモノが来るのか期待を膨らませる太一であったが、そんな彼のもとに一人の男が現れた。
「前島太一くんって、君?」
「そ、そうっすけど……どちらさんっすか」
正文と同じ制服を着ている事から、その男が彼の高校の仲間である事は推測できる。
大人びた顔付きや、すらりと伸びた背丈から察するに、この人は正文の先輩なのかもしれない。
太一は何となくそう考えていたが、どうやらそれは正解らしかった。
忘れている人もいると思われるので軽く説明しておくと、正文とはファミレスや野球の試合で色々とやらかしたアイツのことである。
正文と太一は年は違えど仲のいい同士として、親交を深めていた。
そんな太一が正文を待っているのは、もちろん、いやらし本のトレードのためである。
ふつう、そういった濃い話題は友達同士でもあえて触れないことが多く、「っていうか勝手にやれよ。俺も勝手にやるから」といった紳士協定が結ばれているのが基本であるが、この二人はあえてその垣根を破っていた。
なんか、青春っぽくていいじゃないか。
二人はそんなフワっとした理由で、この会合を楽しんでいたのだった。
そんな愛を無視して進は純の方に向き直る。
「はいっ。白石さん、なんか調子くずしてたみたいで、キザな事言って励ましたんですけど…、ま、まだドキドキしてます」
「悠花ちゃんでもやっぱ緊張するのかな〜」
ファンのお兄さんは朗らかに言うが、愛と進はまた違った感慨を持って、初々しい少年の青春を見つめていた。
((この子に悠花の素の姿は見せられないな………))
しかし、目の前にいるこの少年こそ、うんこメールを通して愛や進とやりとりした雫石純その人で、悠花の下品さを承知でファンをやっている事を二人が知るのはもう少し先の話なのであった。
その頃、悠花の所には、母親である花奈の姿があった。
「お〜、かわいいじゃ〜ん」
「お母さんまで…。ホントに恥ずかしい…。なんだこれ…」
「これでお父さんが会社休めれば最高だったんだけどねえ」
「最高じゃないよっ」
その頃…。
「そんくらい自分で考えろ!!!!ガキじゃねぇんだから!!!!」
「な、なんか今日の白石さん荒れてるな…」
「なんでも、アイドルやってる娘の握手会に行けなかったとか…」
「クソッタレええええ!!!!!!」
ここでなかなか悠花の話にならない事にしびれを切らした愛が間に入った。
「中学生組とかは?」
「ああ、あの三人はキャラ立ってるなあ。明るくて無邪気な檸檬ちゃんに、おもしろい話ができてちょっと毒のある悠花ちゃんに、勢いで突っ走る美穂ちゃんだもんなあ」
「皆人気ですかね」
「そうだね。でも、話がうまい悠花ちゃんがちょっと抜けてるかなあ。もしかしたらこれからバラエティーとかあるかもね」
(やるじゃん)
(うおおっ、スゴイよ悠花ぁっ…!)
と、ここで先程の興奮さめやらぬ純が割って入ってきた。
「そうですよねッ!!やっぱ白石さんは将来がたのしみですッ」
「おおっ、ショタだとっ」
進はいつもの如く少年に食いつく。
それをたしなめるのはこれまたいつもの如く愛である。
「恥ずかしいからそういう事言わないのっ」
その頃、進と愛はその辺を歩いていたココロンのファンをつかまえて軽い挨拶をしていた。
「俺達きょうだいで来てるんすよ」
「そうなんです〜」
「へえーっ。なかなかないですよねそういうの」
三人はそうしてしばらく談笑するが、やがて進が静かに質問をする。
わざわざファンを引き止めて話をしたのは、実はこれが聞きたいからであった。
「ここだけの話、ココロンって誰が一番人気なんですか?」
自分の妹はどんな立ち位置にいるのか。
兄として聞いてみたい気持ちはあの進にもある。
それは愛も勿論そうであった。
「やっぱり一番人気はリーダーの心ちゃんじゃないかなぁ」
(まぁそこはそうか)
(それは仕方ないね)
進と愛は頷きながら納得する。
憎たらしく笑う愛に怒鳴りつけたい気持ちを必死に抑えて、悠花はそっと耳打ちする。
「そういうのやめろ…!なんだこの接客のバイト始めたら家族が茶化しに来たみたいなカンジ…!!」
「ほ、本当に仕事はちゃんとするんだね。あははは、おか、おかしっ。あははははっ」
愛は散々笑いながらその場を後にした。
「どんだけ身内来るんだよ本当…」
「あっ、白石さんっ。久しぶりっす」
「おっ」
愚痴をこぼす悠花に声をかけてきたのは、白石家の人間にとっては最早すっかり顔なじみの少年、太一であった。
「なんかずいぶん久しぶりな気がするっすよ…」
「そうだね。まともに話すのはチ●コ事件の時以来かなあ」
その瞬間、周りがザワついた。
「「「今悠花ちゃんチ●コ事件って言わなかった!?!?!?」」」
(うおおおおーッ、ついいつものノリでーッ!!!!!!)
悠花はすました顔をキープしつつも汗をダラッダラかき始めていた。
「あっ、はいっ!すみませんね〜長丁場なもんですから゛ッ」
悠花が顔を上げた瞬間、目の前には笑いをこらえる進の姿があった。
「な、な、なにそのフリフリの服。ぶっくくくく」
「えっ!?ちょっ、なにしにきた…!」
「冷やかし冷やかし。わっははは」
「アホかっ、早く行ってッ」
「いやあ傑作傑作…」
進はそう言い残してどこかへ去っていった。
「まったく、何考えてんのッ」
「あの、さっきの方は…」
「ああ、すみません。あれはウチの゛っ」
悠花が声をかけてきた人の方に顔を向けると、今度はそこに愛の姿があった。
「白石さんのトークは聞いててスカッとします!」
「ありがと!でも、あれでも意外と言葉選んだりしてるんだよねー」
「おー、そうなんですかぁ。じゃあできる範囲で頑張ってください!」
「うんっ。ありがとねー!」
ココロン史上初となる握手会イベントはそれなりにファンも集まり、特に目立ったハプニングもなく順調に進んでいた。
悠花は次々とやってくるファンに笑顔を振りまきながら、意外と普通のあんちゃんが多いんだなあとぼんやり考え始める。
そして、自分には特別なファンがいた事を今更ながら思い出す。
(純くんは来てるのかな……)
心の中でそう呟いた後、悠花は思わず苦笑してしまう。
大人相手にさんざん夜遊びをしてきたアタシが、今更一人の男の子を気にかけるなんて。
ひょっとすると自分の心には何か大きな動きが起きているのかもしれない…。
そんな事を考えている間、悠花はほんの少し気を抜いてしまった。
そのため、一人の男に気付くのに遅れた。
悠花はニヤつきながら言う。
「なんかいやらしいイベントに聞こえてくるんだけど!」
「美穂ー。せっかくだし、いやらしいイベントを楽しもうよ!」
「檸檬まで何言ってんの!!今日のはただの握手会でしょ!!!!」
「たかが握手会。されど握手会!」
「そこには恐ろしい欲望の渦が…」
檸檬と悠花は手をわきわきさせながら美穂に近寄る。
「行く気なくすからやめてー!!!!」
「なんだなんだ。突然の体調不良で休む?某巨大アイドルグループのように」
「うっ、や、休まないよ!!!!」
「じゃあ張り切って行こうか」
「おー!」
「載ってるんだあ!!!!」
檸檬は目を輝かせて悠花の携帯を覗き込む。
美穂もお菓子を食べる手を止めてはいたが、ライバルである悠花に接近するような事はしなかった。
「由来まで載ってるね。全メンバーの名前に心がつくから!」
「敬称略で、真鍋 心。伊藤 忍。倉持 想。木村 加恋。進藤 慧。西村 憩。そんでアタシ、白石 悠花と片瀬 美穂と藤沢 檸檬っと」
「よく集まったモンだ」
全員の名前を改めて聞いた美穂は思わず呟く。
「そんな私たちも、ついにこの日を迎える事になったわけですよ!」
檸檬は唐突に、選手宣誓を始めるといわんばかりに右手を高く上げながら芝居がかった大声をあげた。
とある日曜日、悠花は自分の所属するアイドルグループのメンバーとして、来たるイベントに備えていた。
イベントが始まるまでは同じ中学生組の美穂と檸檬と共に楽屋にて待機する事となっており、
三人はしばらく携帯をいじったり、テーブルに用意されているお菓子をつまんでみたりと思い思いの行動をしていたが、そんな中檸檬が出し抜けに二人に問い掛けた。
「そういえば、私たちの事ってdikipewiaに載ってるのかなぁ」
「ディキペかぁ。そういや調べた事なかったなあ」
美穂はお菓子を食べながら相槌を打つ。
ちなみにディキペウィアとは、いわゆるインターネット百科事典の一つであり、掲載されている情報の範囲も非常に広い。
惜しむらくは、この妙に悪い語呂であるが、これにはどうやら大人の都合があるらしい。
どんな都合なのかは全く不明である。
「悠花、調べてみてっ」
檸檬はちょうど携帯をいじっていた悠花にお願いをする。
そして出すものを出してすっきりした隆は愛と二人で公園のベンチに腰掛けていた。
「ふう、何かごめんね。……白石さん」
「いやあ、気にしてないよ。……西村くん」
そう言った後、二人は見つめ合ってお互いに吹き出した。
「あははは!!何か急によそよそしいね!!さっき思いっきり呼び捨てにしたのに!!隆ーって…、あははっ」
「俺もつい呼び捨てにしちゃったよ。あははっ」
「ねぇ。…これからも、よ、呼び捨てにしちゃっていいかな?」
愛は伏し目がちに隆を見ながらおずおずと言った。
そんな愛に隆は微笑んで答える。
「いいよ」
「ありがとう。…隆っ」
「うん。…俺も呼んでいいかな」
「もちろんだよっ」
「…ありがとう。愛」
〜回想終了〜
「っていう……」
「バカだろお前ら」
そして二人は公衆トイレに着いた。
「えっ。なんだよ隆くん。結局きみ、バイなのか」
進は手をわきわきさせて隆に近付く。
「ち、違います。ただ、初めてデートした時に俺が緊張しすぎて何か腹おかしくして…」
「で?」
〜回想〜
「う、うおおおっ…」
「隆くんがんばって!!!!」
愛は勢いあまって男子トイレの中に入り、隆を応援していた。
「ご、ごめん。初デートでこんな…うおおっ!!!!」
「いけるぞー!!!!隆ー!!!!」ピッピッ
「おりゃー!!!!」
愛はたまたま持っていたホイッスルを吹きながら隆の応援をヒートアップさせた。
それに呼応するかのように隆も精一杯いきむ。
そこは完全に二人だけの世界であり、人が来てもお構いなしであった。
「あの…トイレ使いたいんですが…」
「隆ー!!!!」ピッピッ
「愛ー!!!!」ンゴゴ
!!
「漏れるんですがー!!!!!!」
「隆が兄ちゃんにさらわれた…」
電話が切れた後、愛はぽつりと今の状況を口に出してみた。
そして数秒固まった後にとてつもない速度で走り出す。
「やばいよ!!!!隆が!!キスとかやっちゃうかも!!そ、そしていけないトコさわったり公衆トイレで……いやぁああー!!!!!!」
想像力の豊かな愛はこの上なく暑苦しい光景を思い浮かべながら街を駆け抜けていく。
だが、走り出したはいいものの目的地が分からない事に気付くまでしばらくの時間を費やす事になる。
「待っててね隆ー!!!!」
「さて、隆くん」
依然として自らの腕の中にいる隆に進はそっと話しかける。
その声を聞いた隆は身構えるように固く瞳を閉じた。
その反応にさすがの進も思わずたじろぐ。
「お、おう。大丈夫だよそんなんしなくて」
「し、信じていいですか」
「ああ。俺はあいつがどれだけ君を愛してるのか試したいだけだ。そして…」
進はそこまで言い、やがて静かに隆を降ろす。
「そして隆くんがあいつをどんだけ愛してるかもな。…そうだな。案内して貰おうか」
「え、どこに…?」
「君らの大切な場所にだよ」
進は僅かに笑みを浮かべて隆の方に向き直った。
その表情を見て隆はまた緊張をあらわにする。
どうやら危害を加えるような事はしないようだが、進が何か試そうとしている事が隆にも嫌というほど伝わってくる。
そして隆は意を決したように大きく深呼吸し、歩き始めた。
「…分かりました。こっちです」
「素のお前らを見とこうと思ってちょっと張り込みしてた。スーツは就活帰りだからだけど」
「妹の張り込みするような男が社会人になろうとしてんの!?!?」
「面接官の機嫌がとれればあとは何しててもいいんだよ」
「考えが汚いよ!!!!」
「ちょっと、愛。ちゃんと挨拶させて」
興奮する愛の肩をそっと叩きながら隆が優しい声で言った。
「あっ、ごめん…」
その一声であの愛がすぐおとなしくなるのだから、恋人の力とは恐ろしいものである。
「改めまして、愛さんとお付き合いさせて貰ってます、西村隆と申します」
「隆くんいい体してんねえ。部活は?」
「水泳やってます」
「ほほう…。これはなかなかの…」
「ちょっと。人の彼氏をやらしい目でみないでよっ」
「やらしい目といえば隆くん。きみ、愛とどこまでいったんだ」
進は隆を肘でつつきながらニヤニヤと笑う。
それをスーツ姿の青年がやっているのだから可笑しい。
「そんなには…」
「慎重派か。にしてもすごいな君。あいつのどこに興奮できるんだ。何もエロくないと思うけど」
「いや、愛は意外と…」
「ちょっと!!!!本人の前でそーいうのやめてよ!!!!」
「意外となんだ。どこにそそられるのか言ってみな」
「そうですね…」
「やめろっつってんだろー!!!!!!」ゲシッゲシッ
「「おうっふ!!!!」」
うんこメールの時に猛威を振るった愛の金的攻撃がまたしても炸裂した。
その翌日、愛は隆と一緒に仲良く下校していた。
そしておずおずと自分の父親が隆とは一体どんな人なのか知りたがっているという旨を伝えた。
不安だからとにかく一度その隆くんを連れてきなさいという鬼気迫る龍の勢いを愛は無視する事ができなかったのである。
「うちの親もおおげさだよねえ。これじゃあまるで結婚の挨拶みたいだよ」
「結婚」
隆はぽつりと言った。
彼はもともと口数の少ない男であるために、今のようにただ単語を呟くだけという事がままある。
「なーんかあたしまで緊張しちゃうよ」
「俺もだ。吐くかもしれない」
「だ、大丈夫大丈夫。うちのお父さん結構フレンドリーだから」
「そうか…。分かった。俺、行くよ」
「うん。来て来て」
そこで会話は一旦止まる。
お互いに無言のまま歩き続けるが、そこに張り詰めた緊張感のようなものはない。
やがて愛は静かに隆に肩を寄せる。
言葉を交わさずとも、そこには二人だけの満たされた世界が「ごきげんよーーーーお」
スーツ姿で気合いの入った進によって破壊された。
「わっ!!!!!!」
「君がタカシくんか。愛の兄の進ですよどーも」
「あっ、どうも…。あなたが例のお兄さん…」
「なんだお前。俺の事ネタにしてんのか。悪口じゃねーだろうな」
「ちょっ、ちょっと待って!!!!」
幸せな時間に水を差された愛はいつもより激しく進に詰め寄る。
試合は九回ウラを迎えており、正文達は4点のビハインドを追うという形になっていた。先にも述べたように、この状況はほとんど負けに等しい。
しかし、前の先頭打者が四球で塁に出ていて、正文の活躍次第で試合が大きく動く可能性を秘めているのも事実であった。
それに、相手側のバッテリーの様子がなにやらおかしい。
何に気を取られているかは知らないが、これは僥倖である。
(絶対に塁に出てやる…!)
正文はそう固く心に誓う。そしてそれに呼応するかのようにジュニアもテンションを上げる。
彼はいたって真面目であり、ふざけているのは正文ジュニアである。
(クソッ。とりあえず一回牽制して間をとろう)
そうしてピッチャーは一塁の方に体を向け、ファーストに球を投げようとした。
その刹那、一塁ランナーのコカンに思わず視線が行き、そして我が目を疑った。
ランナージュニアも元気だった。
「お前もかーーーー!!!!?」
ツッコミに全力を注いだ結果、ピッチャーは大暴投した。
「どうしたんだよ。らしくないぞ」
チームきってのエースの乱調に危機感を感じた高沢高校(相手校)ナインは守備のタイムをとった。
この時間は試合中であろうとナインが集まって話し合いができる。
「何か音楽でもかけるか?」
進はCDの収納スペースに手を伸ばした。
「AKBはもういいや…。ってか、兄ちゃんって今はオトコ好きなのにAKBは聴くよね」
「恋愛対象じゃなくても曲が気に入れば聴くだろ。…じゃあパンクでも」
そう言って違うCDを手に取ろうとする進を愛は制した。
愛には今聴きたい音楽があったのである。
「あのー。あたし、悠花の曲聴きたいな」
「悠花の?」
進は意外だというニュアンスを込めて聞き返した。
悠花は普段からリビングや自分の部屋にて散々歌の練習をしているため、わざわざ完成品を聴かずとも覚えてしまっている事が多い。
だから進にはあまり悠花のCDを聴く習慣がなかったのだった。
「お前、悠花のCD聴いたりすんの?」
「そりゃするよ。まあ、なんかムカつくから家ではあんまり聴かないようにしてるけど」
「なんか調子こいてきそうだしな。うぜえ」
憎まれ口を叩きつつも、進は悠花のCDを知り合いにも聴いてもらうために車に常備していた。
CDをプレイヤーに入れてスイッチを入れると、やがて重厚なバンドサウンドが流れ始める。
「悠花の曲はかっこいいのが多いねー」
「まあ、毒舌キャラで売ってるからだろうな」
そんなかっこいい曲の歌詞は、恋する女の子が勇気を出して意中の相手に思いを伝えるという、いかにもアイドル然とした内容であった。
しかしこの歌詞の女の子はどこか男らしい意思の強さを持って
怖いね。何の用意もしてないよ、俺´`
とりあえずゲーム機は全部持ち出したいんだけどどうすれば全部持ってけるかな…!(←】
11/03/10 15:29
by 黒須騎壱さん
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