木吉に別れを告げてから、しばらくの時が経った。
相も変わらず「黒菊屋の弥雅」という娼妓の人気はとどまることを知らず、裏吉原で名を馳せていた。
黒菊屋はまた一人、千早という多少の問題児を加え、番付の上位をせしめ続けている。
あれから、木吉は一度も黒菊屋に姿を見せなくなった。
黒子はそれに気づいているのか、それとも気づかないふりをしているのか、弥雅には正直わかりかねたが。
(それでも、何も言わないでいてくれるのはありがたいな)
何も変わりはしない。
本当に、ただ木吉と出逢う前の頃に戻っただけのことだ。それなのに
(…こんなにもこの世界は、淡白で単調で…つまらないものだっただろうか)
あの頃はあんなにも、色がついたように鮮やかだったというのに。
廊下で弥雅は苦笑した。
そんなこと、わかりきっている。
木吉鉄平という男が、弥雅の全てを変えてしまったのだ。
だが、と弥雅はすぐさま首を振る。
(鉄平さんを救えるなら、あの人と過ごしたわずかな蜜月も…今更惜しくはない)
だからこそ、弥雅は別れを告げた。
赤司から遠ざけ、これ以上彼を傷つけないために。
しかしそれは、決して赤司の元へ戻るという意味ではない。
(奴のものにはもうならない…。赤司の所有物として保証された未来になんて、しがみつく価値もない)
ぼんやりと窓の外を眺め、思わず深く息を吐き出した。
「ため息とは感心しませんね弥雅君」
「くろ、こ…」
目の前の座敷からひょっこり顔だけを出したのは黒子だった。
驚きはするものの、弥雅は平然とした態度を崩さない。
「まあ君なら重々理解しているとは思いますが、見世やお客様の前では控えるようにしてくださいね」
「…わかっている」
ならよかった、と黒子は微笑んだ。
「ボクはこれから緋賀君に少し用があるので、しばらく奥に行きます。何かあれば呼んでもらって結構です」
そう言うと、黒子はようやく座敷から姿を現した。
「いてえ!」
「!?」
ごろん、と引きずられるようにして共に出てきたのは、先日この黒菊屋に加わった千早という少年だった。
「引っ張んなよテツ!だって仕方ねーだろ!こゆの苦手なんだって!」
「言い訳はもう結構です緋賀君。ボクは君が言うことを聞くまで折檻を続けるだけですから」
「せっ…!?ってこないだのアレかよ!や、やだって!ちゃんと着物とか紅のつけ方とか練習するから!」
「そうですか。なら折檻が終わった後がんばってください」
「ちょっ…嫌だぁあああ!」
では、と黒子は弥雅にいい笑顔で挨拶し、千早を引きずったまま奥へと引っ込んでいった。
「ぶっふ!千早の奴また折檻かよ!」
「緋賀っちがここに慣れるまで続きそうっスねー。黒子っち容赦ないっスから」
「千早も結構かわいー顔してんのに」
「ま、最初は誰だってあんなモンじゃないスかね。そのうち緋賀っちもわかってくるっスよ」
引きずられていく千早を眺める高尾、黄瀬とすれ違い、弥雅は変わらず窓の外を眺め続けた。
(騒がしくもあり…だがこれが、俺の日常……だった)
男を惑わし、誘い、手のひらで弄ぶように一夜の夢を与える。
(だがそれを俺の天職だと、最初に言ったのは…)
その時、黒菊屋の前を通る籠が弥雅の目に止まった。
豪奢な造りに特徴のある紋。
「あれは……まさか、赤司の籠…?」
赤司が町まで出てくるなんて珍しい、と思った。
さしずめ黒子に用があるのか、それとも自分に逢いに来たのか。
だがおかしい。
弥雅は黙ってその籠を見つめ続けた。
(黒菊屋の前を、素通り…?)
用がなくとも、赤司ならば黒子に声くらいはかけていくはずだ。
それを全くの無視とは、正直赤司らしくない。
(…それに)
籠の向かう先には大通りがある。
町の中心部だ。
弥雅はこの屋敷にある書物には全て目を通している。
当然町の地図もある。
行ったことがなくとも、弥雅にはどこに何があるのか全て頭に入ってしまっているのだ。
(問題は…その先に)
そう、問題は赤司が町の中心部に向かうことではない。
その先に、木吉屋があることだ。
(……いや、そうと決まったわけじゃない。どこか、他の店に用があるのかもしれないじゃないか)
心臓が激しく脈打つ。
手が震え、嫌な予感しかしない。
(だがもし、…もし木吉屋に向かったとしたら…!?俺がしてきたことが、全て無駄になるじゃないか…!)
だからとて、弥雅にできることなどない。
弥雅は籠の鳥だ。
黒菊屋という名の大きな籠に囲われた、美しい鳥でしかない。
出ることなど許されないのだ。
先日赤司の屋敷に出かけた時に祝儀は使ってしまっている。
抜け出せば並みの折檻では済まない。
(…どう、する……!)
「弥雅、くん…?」
「っ!?あ…葉佑…」
「どうか、したの?顔色が悪いよ…?」
「いや……」
心配そうに近寄る葉佑に、弥雅はふと思い出した。
『大我、に…逢いたいぃ……っ!』
「…葉佑」
「え…?」
「お前は、あの男のことが好きか?あの男のために、お前は一体何ができる。あの男のためにお前は…何を捨てられる」
「弥雅くん……」
突然の質問に、またいつもと様子の違う弥雅に、葉佑は一瞬戸惑ったようだった。
だが、すぐさまいつもの控えめな視線は光を帯び、葉佑はまっすぐに弥雅を見た。
「僕は、大我が好き…だよ。大我のためなら、なんでもできる。この命だって…惜しくない」
言い切る葉佑は眩しかった。
そして、あの弥雅が見惚れるほどに美しかった。
「………」
「で、でも…なんで急、に…」
「葉佑」
「え」
弥雅は見るからに重そうな打掛、帯、かんざしを次々落とし、窓に足をかけた。
「礼を言う」
「や、弥雅くん…!?何を…」
その口元はいつもの弧を描いていた。
窓の外から注ぐ陽に照らされ、弥雅は不敵とも取れる笑みを見せた。
それはたいそう美しく、まるでこの世の全てが彼に味方しているとでも言うように。
「黒子には何も知らないとだけ答えろ!」
「弥雅くんっ!?」
弥雅は窓から飛び出した。
続
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甘い過去の記憶なんて、私は惜しくない
形のある未来なんか、しがみつきたくはない
「こ/の/夜/を/止/め/て/よ/J/U/J/U」
相変わらず弥雅くんにむちゃくちゃさせてますサーセン。
今回はまさかの黒菊屋オールスターです。
このタイミングでようやく千早も仲間入り。
これで時系列の心配はあらかたなくなる…ふへえ(疲)
というわけで、せっかく木吉さんとお別れしたのに弥雅くんは町中に向かう赤司様の籠を発見してしまいます。
どうしようと一瞬悩みますが、うまい具合に葉佑くん登場。
きっと弥雅くんも自分の中で答えは出てたと思います。
でも背中を押してほしかったんです。
火神さんのことを好きだと言い切る葉佑くんは本当にまっすぐな目をしていて凛々しく美しいと思います。
そして窓から飛び出す瞬間の弥雅くんの半ば晴れ晴れとした表情も至極美しいと思うのですよ。
しかーし千早久しぶりーーーー。
でもダメな子っぷりしか見れなくて残念だよ(笑)
さて終盤です。
ゐ子ちゃんありがとうございました。
おそまつさまです。
つか可愛いちーくん…ごめんねわたしのお子が
お世話になってたばかり!!
黒千ぷまい!!!!!!\(^o^)/wwww
なんかうわーうわー葉佑もよいしょしてくれて
嬉しいよ…うう、そんな綺麗に描きたいものだ←
ほいでー!!!弥雅がー!飛び出したああー!
かっこいいぞ!!そうゆう自分の利益顧みずな
彼がずっと書きたかったんだ!!!
実現ありがとう…ぶわあああきよししゃんいま行くよおー!!!!\(^o^)/←
荒ぶるテンションで申し訳ない…!!!
続き!完結!ぷりーずー!!!
全裸待機でお待ちもうしておりますえー!!!☆*:.。. o(≧▽≦)o .。.:*☆
ふへへへへへもうここぞとばかりに千早を出してやったぞな!!!
結構加入当初なのでまだまだ遊廓には慣れない新参者でござんすー(´ω`*)
いやいやしかし弥雅くんも葉佑くんも美しすぎて表現できなくて困るよほんと…
葉佑くんは火神さんを想っている時が一番美しいのですまる←
いつも自信なさげな彼がきっぱり言い切るところがミソなのだよねきっと。
そしてそして弥雅くん飛び出しました\(^o^)/
さしずめ「告白」の二番サビの「走れ、君のもとへ。僕は何度だって転んでやる迷ってやる。待ってて今すぐに行くから。どんな困難がそこにあっても」ですよ!
てなわけでもう少し続きます!
お付き合いいただけると幸いです!
ゐ子ちゃんが読んで反応してくれるから書けるよこれ(笑)