「ごめんなさいね。アルト君」

フロントミラーでシェリルの寝顔を確認して、グレイスが小声でアルトに話しかけて来た。
シェリルの意識のない今、狭い車内に年上の女性と二人きりという状況にアルトは少々とまどっていた。

シェリルレベルまでは行かなくてもグレイスは十分魅力的な大人の女性だ。

目をそらしながら
いえ別に
と、そっけなく答えた。
グレイスは気にする風でもなく、優しく微笑んだ。

「シェリルは…貴方が本当にお気に入りなのね」
「え!」
聞き慣れない言葉にアルトは過敏反応をしてしまう。
「今まで誰かに頼るとか、なかった子なの」
「…分かります」
「プライドが高いとか、わがままとか色々言われたけれど。それに見合う努力は惜しまないプロ意識の塊みたいな子だったわ」まだあどけない寝顔からはプライドやわがままと言った言葉は想像出来ないが。
「アルト君…貴方には感謝してるのよ」
「……え」
「貴方と出会う前のシェリルならその手を放していたわ」
抱き上げたシェリルを迎えに来たグレイスに託そうとしたのだが。シェリルがアルトの服を握って放さなかったのだ。
疲れた顔をして眠るシェリルを起こすのはかわいそうで、一緒にグレイスの車に乗り込んだのだ。
今も握りしめたままだ。アルトは優しく微笑んで、そっとピンクブロンドの頭をなでた。サラサラと柔らかな手触り。