「………お前、本当に大丈夫か?」

フルフルふるえるシェリルの手元を見て、アルトは青ざめながら何度目かの同じ質問をした。
「誰に言ってるの!!!あたしはシェリル・ノームよ(-"-;)」
何度も言わせないで!
ハサミを持った手を振り上げて、力説する。アルトは仰け反り己の前を通り過ぎたハサミを回避した。

ハラリ

と、数本舞うアルトの前髪。

「(°д°;;)お前っ!殺す気か!!!」

「あら。ごめんなさい」
悪びれる様子も無く、ニッコリと微笑むシェリル。
アルトは観念して、再度目を閉じた。


事の発端は、前髪の長さを気にかけていたのをシェリルが目ざとく見つけた事なのだが。
自前で、ヘアカットのハサミ持ってるくせに何でこいつはこんなにフルフル震えてんだ?

この時のアルトは、まだシェリルの体調の変化を知らない。


何で、こんなに震えるのよ!?

大丈夫と大見得を切ったは良いが、シェリルは内心青ざめていた。
止まりなさいよ!
アルトの綺麗な顔に傷付けちゃう!

アルトのパパに
「お嬢さんを僕に下さい!」
って、言いに行かなきゃならなくなる〜

気が動転して、微妙な思考の間違いにさえ気が付かない始末だ。

何とか誤魔化さないと!
何とか
何とか!!!

瞬間。
シェリルの瞳に入るのはアルトの薄く赤い唇。

えぇい
ままよ!!!

シェリルは気合いを入れて、アルトの唇に己の唇を押し当てた。

「んぅ!?」

アルトの唇は意外に柔らかく、心地が良い。誤魔化しのキスがいつの間にか、貪るキスになっていた。

アルトは赤面して、抵抗する素振りもない。
あまりの展開に思考停止…そんな所だろう。

思う存分味わって。シェリルはアルトを解放した。
「なっ!」
「なっ?」
「何しやがる!」
「何しやがるですって?そこに……あっ」

唇があるからよ!

そう決めるつもりで振り上げた手からハサミが離れて、弧を描いてアルトの後方に飛んで行く。


「うわぁ」


ザクリ
ハサミは室内に入ろうとしたミシェルの頬をかすめて、ドアに突き刺さった。
さすがのミシェルも恐怖に目を見開き、青ざめた。

かくして、シェリルは上手く誤魔化せた。…のだが、アルト共々正座でミシェルの説教を聞くハメに陥った。