「シェリルさん?」

立ち止まったまま動かないシェリル。ランカは不思議そうにタクシーの車内からシェリルを見上げた。

「…あたしまだ行きたいとこあるから先帰ってて」
「お前な…グレイスさん心配してるぞ」

わがままを聞いて、シェリルを連れ出したアルト。ランカが不安そうに瞳を揺らすのを無視して。

静かなのは調子が狂う……痩せた頬や華奢な肩を見てしまうと、気分転換がしたい。シェリルの必死なお願いをアルトは無視出来なかったのだ。

「すぐ帰るから」
「ダメだ」

タクシーの運転がいぶかしげにシェリルとアルトのやり取りを見ている。
あまり目立つのはマズイ。アルトが連れているのは、銀河の妖精シェリル・ノームと超時空シンデレラランカ・リーなのだ。

「わがままもいい加減にしろ」
華奢な手首を掴み車内に押し込もうとするが、シェリルがアルトの手を振り払って拒絶する。

「…分かった。勝手にしろ」
「勝手にするわよ!」
売り言葉に買い言葉。二人は良くも悪くも似た者同士だ。こうとなったらテコでも動かない。分かってるからこそアルトは車内に1人戻った。

「…え?アルト君」
「すみません。目的地変えて下さい」

シェリルの病院からランカの家の住所に変更する。

「いいんですかい?お客さん」
「ええ。1人で帰るそうなので」

パタン

シェリルの前でドアが閉まり。車が静かに走り去る。


どのくらい動けずに居ただろう。

いつものわがままでごまかせた?ランカの前で醜態は晒したくなかった。

何でこんな時に

「動かないのよぉ」

太ももを平手打ちしてズルズルと地べたに崩れ落ちる。
悔し涙が零れ落ちシェリルのすべらかな頬を濡らした。


「…………はぁ」

背後から盛大なため息が聞こえる。

「アルト?」
それは帰ったハズのアルトだった。
「動けないならお前らしく命令すれば良いだろう?あたしを抱き上げなさい…ってさ」
「アルト…アルト…」
アルトが戻って来た。嬉しさと恥ずかしさと情けなさと。ごちゃごちゃな感情を押さえきれずに。アルトの胸の中で泣き続けた。
「あ〜ハイハイ」
全身で甘えて来るこの 可愛いピンクの物体は本当にあのシェリルなのか?アルトは戸惑いながらもその両手で華奢な背中を抱き締めた。