あっ

時々あたしの体は、あたしの体なのにあたしの命令を聞かなくなる。
でも
何でこんな時に

足が動かなくなり自分の体を支えきれなくなる。階段の手すりに指先が届いたが、腕の力さえも入らない。

シェリルは覚悟を決めて身を固くし落下の衝撃に備えた。

後ろを振り向いたランカと目が合う。大きな瞳が驚愕に見開かれる。
「シェリル!」
ランカの隣に居たアルトがとっさに反応して、手を伸ばす。
触れそうになる指先。しかし、虚しく空を掴み広がる距離。
こんな時だというのにまるで自分とアルトを暗示してるようで、シェリルは胸を痛めた。
衝撃を覚悟するシェリル。
アルトはためらいなく飛んで、シェリルを己の体で包んだ。
「アルト君!」
ランカの悲鳴が響き取り巻く世界がざわつくが、シェリルには何も聞こえない。何も

アルトの呼吸意外は。
かなりの段差を転がったのに痛みは感じない。恐怖と興奮で分からなかった?

いや、アルトが全身でシェリルを守ったからだろう。

ピクリともしないアルトに不安はつのる。動きたくてもシェリルには指先一つ動かせない。

どうしちゃったの?あたしの体は!

パニックで騒ぐランカの甲高い声を耳障りに感じながら、ただアルトの瞳が開くのを待つしかなかった。

「……大丈夫だ。ランカ…心配ない」
「アルト…」
「大丈夫か?シェリル?」

優しく力強い瞳。

あたしより自分の心配しなさいよ!

「大丈夫…放して」
全く力の入らない指先で、アルトの意外に逞しい胸板を押す。

アルトは盛大に溜め息を付いて、シェリルの華奢な体を持ち上げた。

「ランカ、グレイスさんに連絡してくれ」
「え!あっ…はい!」パタパタと足音を響かせて、ランカは慌てて駆けて行った。

「余計な事しないでよ!放しなさいよ」
美形なアルトに姫抱きされる銀河の妖精。無駄に目立って居たたまれない。
「うるさい!たまには俺の言う事聞け」

普段とは違う強い口調。
怒らせた?
さすがのシェリルも萎縮して、アルトの不機嫌な顔を見ないように瞳を閉じた。

ユラユラと揺れる感覚。心地よい心音。
シェリルはいつの間にか、眠ってしまった。
「まったく心配させやがって。1人で頑張りすぎなんだよ」
アルトの呟きがシェリルの髪を滑り落ちた。