腕の中で震えるシェリル。過去の嫌な出来事を夢で見たのだと言う。ラストが見えなくて、思い出せなくて。怖いままで何度も目覚めるのだ…と。
俺のシャツを指先が白くなるほど握りしめて。カタカタ震える肩が痛々しくて。
ただ、慰めたかっただけなんだ。
ただ、シェリルを過去の柵から救い上げたかったんだ。

だから俺は、柔らかな髪を撫でながら、耳元で驚かさないように小さな声で

「思い出せなくていい事だから思い出さないんだろう?過去なんかに縛られるのは時間の無駄さ」

と囁いた。
笑って、肯定してくれると思ったのに。

その綺麗な青の瞳には悲しみだけが揺らめいて。いっそう俺を虚しくさせた。

「…それで……あの子は…納得したの?」
「シェリル……」
「馬鹿ね。過去があるから今の貴方が居るんじゃない。自分を否定しないで」
「違う…シェリル」

ただ、俺は

「傷を舐め合いたいだけなら……………あの子の所に」

行きなさい。

いつもの命令口調。でも、いつもと違ったのは俺を拒絶してる事。俺の中にランカを見てるのか?

「シェリル話しを聞け」

ただ、俺は

「もう帰りなさい。面会時間は終わりよ」

そう言うとベッドに潜り込んでしまった。
流れる沈黙に耐えきれず。重い足を引きずって、部屋の外に出た。
扉が閉まる寸前に声を抑えた声が聞こえて。
ただ、慰めたかっただけなのに…泣かせてしまった。

ズルズルと壁際に座り込んで。壁一枚の隔たりさえも今の俺にはどうする事も出来なかった。