「シェリル…好き嫌いしてたら良くならないわよ」

グレイスが飽きれぎみにため息を付く。

「食欲がないのよ」
「……そう?」

1人で食べる病院食は味気なく不味い。アルト達とワイワイ学園で食べた食事はおにぎり1個でも美味しいく感じたのに。

しかも…今日はシェリルの嫌いな人参がたんまり入ったスープだ。食欲も失せる。スープだけ飲んで人参だけが打ち上げられた魚の如く乾いていた。
パンもデザートも手付かずだから食欲が無いのは確かなのだろう。

コンコン
「シェリル入るぞ」

ノックと共に男の子の声がする。シェリルは途端に瞳を煌めかせ鏡で身だしなみをチェックする。
分かりやすい。

「入りなさいよ」

恋する女の子だわね。もう少し可愛いくなれないのかしら?シェリルらしいと言えばシェリルらしい。
マネージャーとしては当然注意すべき事だが、早乙女アルトと言う存在がシェリルにとってマイナスになるとは思えなかった。

「…あっ。わりい昼飯中だったか?」
「大丈夫よもう食べないから」
「もうってほとんど食ってないじゃないか?……お前、ニンジン嫌いなわけ?」
アルトがバカにしたように鼻で笑う。
「なっ…そんなわけないじゃない」
シェリルがカッとなって反論する。
グレイスは微笑みながら見守っている。
「ふーん。じゃニンジン食ってみせろよ」
いつもの逆襲とばかりにアルトが突っ込む。シェリルがどうにか回避したいと青くなったり赤くなったりして、
「ホークが重いのよ!!!」

とわめいた。
どう聞いても苦し紛れだ。
アルトはきょとんとして次に獲物を発見した顔になった。
グレイスはクスクスと笑っている。
1人シェリルだけが不機嫌にむくれていた。
「…アルト?」

アルトがホークを持ち上げて、柔らかいニンジンを突き刺す。
「ガギじゃないもんな。嫌いじゃないんだろ?」
「…も……もちろん…よ」
声が震えピンクの唇が一向に開く気配がない。アルトはため息をついて、シェリルの下顎を引いた。
ピンクの舌が見える。なんとなく変な気分になり赤面しつつもホークのニンジンを口内に押し込んだ。

「!!!」

アルト覚えてなさいよ!!!