青空にぽつり、取り残されたような小さく白い雲。
きみが消えてしまった理由、ぼくは知ってる。
いつも、少ない言葉で伝わるものが世界の中心だった。
簡単に伝わらないものは異物で、道の端を歩いて渡る。
歩道橋の手すりをカンカンと叩いて、きみは歌を歌った。
空の青さを讃える歌だった。
「世界と世界の間を区切る河川のように、人と人の間にも、境界線があってね。」
マフラーを頬のところまで上げて、冷たい空気を遮断する。
「事前の合意なしでは、決して入ってはいけない領域があるんだ。その全てを初めから理解しているひとと、概念すら持ち合わせないひとがいて、」
振り返らずに先を歩く後ろ姿を、目で追う。
「そこにも当然河川は流れている。お互いを知っている部分なんて、表面のほんの少しでしかない。」
きみが傷付いていること、ぼくは知っている。
けれど、きみのために何かを失うだけの勇気が、ぼくにはない。
「変化に対応できる生き物だけが生き残ると言うけれど、絶滅しないっていうことがそんなに大事なことなのか、正直ぼくは自信がないな。」
この先、大きなものに轢かれませんように。
端でもいいから、ずっと道を歩いていけますように。
きみが、この世界でずっと、安全に生きていけますように。
誰も指摘しない、たくさんの小さな矛盾。
全て、優しさでできたものだから
石を投げる権利は誰にもない。
気持ちがいくら分かっても
できる仕事というのは、あまりに少ない。
寂しいけれど。
冬の棘、光、悪気はないんだぜ。
息を吐いて束の間、白く変わる空気。
青空/仕事/盾