長く浸っていると、それが温かいのか冷たいのか、分からなくなるときがあるよね。
そっと微笑む。否定でも肯定でもないよ、という風に。

「大丈夫。」

いつもの口癖。
大丈夫じゃないときも、同じようにそう言う。

「氷だったものが溶けている、と考えれば、この冷たさだって、春の温度と言えるよ。」

ピシャリ、薄氷が割れ、水が滲み出す。

「春の水温だ。」

きみの夜を、ぼくは知りたい。


澄み渡る空の青さ。
最後まで上手くならなかったギターベース。

「未来のことが怖いのは、人間なら仕方のないことだよ。」

氷を溶かした指先は、赤く冷たかった。
いつも誰かを温めたぶんだけ、きっと、こんな風に。


変わり映えのしない町並みが嫌いだった。
ボストンバックを背負ったまま、重すぎる上り坂も。
優しいふりをしないと生き残れない教室も、
汚い大人も、全部全部。


きみの夜を教えて。
ぼくは春を教えてあげる。

道端には、過去になった記憶の欠片。
薔薇の花はいつも誰かを待っている。



薔薇/青/水温