行かないで、と言えなくなったのは、大人になったからだよ。
「家に帰ろう。」
やさしくわらうひとだということ、ぼくだけが知っていた。

初めて出会った夜も、こんな風に雨が降っていたよね。

傷付いたことにも気付かないような、不器用なひと。
心臓が冷たくても、温かい手のひら。
例えどんなに弱くても生きていけるんだって、どういう意味かな。
ぼくらはまだ、どこにも行けない。
心臓が冷たくても、やさしくわらうひと。

だいじょうぶ、悲しくて泣いた夜も、生きていればいつか、忘れることができるからね。
触れてもこわくないこと、ぼくだけが知っていた。


#ヘキライ 我が主