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こんなんです。

番外編 「飯盒の中の戦争」テスト版-1

 

「飯盒の中の戦争」

 

 

 私には、身体の弱い娘がいた。家を空けてばかりの私は、娘にとって父親とは言えなかっただろう。一番辛いときに、電話に出ることさえ出来なかったのだから。

 ようやく帰った時には、いつも娘は病院のベッドの上にいた。青白い顔で、文句のひとつも言わずに。いつしか妻は怒ることさえやめ、私は家族の形を失った。その妻と娘を置き去りにして、私は異国の空を飛んでいる。

 …私は、何を守るべきだったのだろう。もうずっと、その疑問は私の脳裏から消えなかった。

 だから、その二十歳そこそこの兵士の姿を見た瞬間、無関心ではいられなかった。まだ大人になりきらない顔立ちの、兵士の少女。白いベッドの上で、病室のにおいに包まれた、その姿。そして彼女は、青白い顔で私に微笑み、囁いた。

 

「救ってくれて、ありがとう」と。

 

 私はきっと、少女の中に娘を見ていた。その笑顔に、自分がずっと求めていたものを見出した。この子を護ることができて本当に良かったと、痛切に思った。家族を守れなくても、それでも私は父親という生き物だった。

 

 だから、私は、きっと盾であろうと誓った。

 

 

 空軍小牧基地の門を出ると、道路を挟んだ向かいに喫茶店がある。流行から遅れたファミリーレストランのような店だが、とりあえず近場で食事を済ませたい兵にとっては丁度いい場所だった。

二等兵の誓もその例外ではなく、今日も野暮ったい内装に囲まれてコーヒーを飲んでいた。向かいでは同期の栗駒が、温泉卵を乗せたカレーを頬張っている。なぜか誓は、その姿にひどく懐かしさと、違和感を覚えた。

 ピラフやナポリタンという、いかにも昔の喫茶店らしいメニューの中で、ひときわ目を引くのがおでんだ。栗駒はいつもカレーかおでんを選ぶ。毎週土曜日の15時前後に、見慣れたいつもの光景だった。朝一番で格闘技の練習、それから廊下と教場にワックスがけをして、ようやく外出ができるのが昼過ぎだ。電車に乗る前に喫茶店に寄って、栗駒と課目の勉強をする。誓や栗駒はまだ一人前の兵ではなく、専門分野の技術や知識を勉強している、いわば「学生」の立場だ。栗駒と誓はさほど真面目ではないが、レーダー原理や電子工学を勉強せずに理解できるほど優秀ではなかった。絵に描いたような鬼教官を主任に持つ誓達には、撤退という選択肢さえなかった。いつもの土曜日。なにも変わらない。誓は思いなおす。何かを忘れているような感覚は、きっと錯覚だ。

 灰色の雲が低く空を覆って、夕暮れ前なのに外は薄暗い。名古屋の繁華街まで行って、美味しいものを食べようかと思っていたが、雨が降りそうな気配に迷い始める。喫茶店で勉強をして、出かけるのが17時以降だ。暗くて雨が降っていては、遊ぶ気も失せる。

「ご飯の材料買って帰ろうかなぁ」

「夕飯作んの?そういえば理香ちゃん、この間クッキー焼いたよね」

 「理香ちゃん」は同じ基地の、航空管制の同期だった。人目を引く可愛らしい顔立ちと、鈴が転がるような声が男共の心を鷲掴みにしている。軍隊に入ったばかりの新兵は、女でもかなり短く髪を切らなければならない憂き目に遭う。それでも理香は可愛らしい。女性兵舎の共用のキッチンは、彼女の手作りクッキーによって一気に存在が知れることとなった。栗駒も彼女の魅力に惹かれた人間のひとりで、こうして度々理香の話題を口にする。ふと、やめておけば、と言いそうになって誓は黙った。理香がかなり年上の教官と付き合っていたというのを、どこかで聞いた気がした。誰からどこで聞いたかも思い出せない噂を広げるのも憚られた。

理香の話をする栗駒は、兵といえども、年相応に青年だった。口の端に米をつけながらカレーを頬張る姿も、その辺の大学生と大差ない。

「私もカレー食べようかな」

あまりに美味しそうにカレーを食べる栗駒を見て、自分も空腹を意識する。たっぷりとしたルウの表面には細かなオレンジ色の油が浮き、豚肉のひだがその合間に見え隠れする。大きめに切った人参も、表面にスパイスのムラが残る馬鈴薯も、

何の変哲もないのに食欲をそそった。白くツヤツヤとした米に絡まるルウの光沢が、やたらと眩しい。急に胃が寂しさを訴え始め、きゅうきゅうと音をたてる。

「すみませーん」

店の奥に呼びかける。すると、栗駒が水を飲みながら笑った。

「何やってんの、英語じゃなきゃ通じないってば」

 栗駒を見る。今まで、疑いもなく、よく知った同期と話していた。それなのに、急にその顔が見知らぬ人間に見える。ふと不安が芽生え、誓は黙り込んだ。カレーのにおいがひどく懐かしく、妙に切ない。まるで、子供の頃に食べた懐かしい料理のように感じる。いまではそれが、決して食べられない貴重なもののような気さえしていた。ひとくちだけでもいい、その味を確かめたい、と思った。唾液が勝手に口の奥から溢れてくる。

「カレー、ちょっとちょうだい?」

 栗駒のようなものに、話しかける。テーブルの上のスプーンに手を伸ばしたその瞬間、急に世界が暗くなった。それでも手を伸ばす。しかし、どうやっても指先にスプーンを掴むことが出来なかった。身体が鉛のように重い。視界は完全な闇に閉ざされる。それに抗い、誓は筋肉に力を入れた。闇の天井が割れる。そこから、白い光が差し込んでくる。ぼやけた世界が、急速にシャープになり始めた。誰かが、誓を呼んでいる。

「…伍長。谷川伍長!」

伍長。そうだ、私は伍長だ。誓は、力ずくで目を開いた。白い天井と、顔を覗き込む人影が視界に映る。過ぎ去った夢と、目の前の光景の潮目に、眩暈を覚える。ソファに座って居眠りをしていたせいで、身体のそこかしこが痛い。

ゆっくりと回るシーリングファンと、垂れ流しにされた共用TVのニュース音声が、ここが何処なのかを思い出させる。一年前には、ニュースの中に存在する国だった。その国の、砂漠の中心に位置する航空基地、キャンプ・ヘンドリクセン。そこに駐在するようになってから、もう随分経つ。その現実が、五感から誓に浸透した。男は、ソファの背もたれの後ろに立って、誓を見下ろし、笑っている。

「谷川伍長、唸ってたよ」

 腕まくりした飛行服が妙にしっくり来るのは、その体格と年季ゆえだろう。砂の異国で戦争を続けていても、その表情から余裕が途絶えたことはなかった。精悍な表情には年齢が刻まれていたが、それはまだ老いではなかった。しっかりした鼻梁と眉に比して、やや淡いハシバミ色の瞳は優しさを感じさせる。

「・・・守谷少佐」

「カレーか、確かに食べたくなるな」

 守谷が、笑いながら呟いた。

梨んまい

残業祭りである。残業代はない。
ま、仕方ねーか。仕事遅いだけだしな。

ゆっくり風呂入りたいです。

短編プロローグ。

なぜかこれ書くだけなのに2時間・・・。
日本語タイトルなのもですが、いつもと系統変えた感じです。


「飯盒の中の戦争」

 私には、身体の弱い娘がいた。家を空けてばかりの私は、娘にとって父親とは言えなかっただろう。一番辛いときに、電話に出ることさえ出来なかったのだから。
 ようやく帰った時には、いつも娘は病院のベッドの上にいた。青白い顔で、文句のひとつも言わずに。いつしか妻は怒ることさえやめ、私は家族の形を失った。その妻と娘を置き去りにして、私は異国の空を飛んでいる。
 …私は、何を守るべきだったのだろう。もうずっと、その疑問は私の脳裏から消えなかった。
 だから、その二十歳そこそこの兵士の姿を見た瞬間、無関心ではいられなかった。まだ大人になりきらない顔立ちの、兵士の少女。白いベッドの上で、病室のにおいに包まれた、その姿。そして彼女は、青白い顔で私に微笑み、囁いた。

「救ってくれて、ありがとう」と。

 私はきっと、少女の中に娘を見ていた。その笑顔に、自分がずっと求めていたものを見出した。この子を護ることができて本当に良かったと、痛切に思った。家族を守れなくても、それでも私は父親という生き物だった。

 だから、私はきっと盾であろうと誓った。

 

ファッ!?

ごめんなさいメルマガ間違って転送してました!!アフィリエイトじゃなくて素で間違いました!!

次をどうするかね

話の筋が全く決まってません。

とりあえずあのラストシーンの続きから入るべきか。
佐久と谷川はどうなるのでしょうか。どうなるのかな?うーん。どうしよう。
なんか自分もちょっとネタが空っぽかもしれないですね。
日高の話でも入れようかな。日高の知っている守谷と、誓の知っている守谷って違うと思うのですよ。

ただ、組織の動きは個人の思いと別なものなので、次はそちらに傾きすぎないようにしたいです。