スポンサーサイト



この広告は30日以上更新がないブログに表示されます。

秋葉原に集ったのだ

↑ルンルンな新年会の様子

明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願い致します。

先日はししょーと秋葉原でまったり新年会でござんした。
主だった話は「男は死ぬまで見栄」というテーマでした。
「身の丈に合わせて慎ましく程々」をモットーに生きる東的にはやっぱり共感はできない部分もありますが、理解は出来たような気はします。
しかも今日聞いたら母親も同じこと言ってた。男とは常にサムライなんじゃのう。大変でござる。
「なぜ兵士は戦場から逃げないのか」「納豆を練らずに食べるのはニライカナイの宗教」とか深かったり臭かったりする話を延々と夜更けまでやっておりました。
必ずしも創作の話をみっちりしているわけではないのですが、中身の詰まった飲み会でござんした。
どういう話がという訳ではないですが、色々印象に残る部分が多い飲み会でした。ししょーありがとうございました。

さっそく誓をちょっと可愛く書いてみましたよん(笑)

短編/『Pulse』

黒色に染色された包帯は素早く、しかしきちんと整って腕に巻かれていた。
手首よりやや上の創傷には、包帯の下のガーゼがぴったりと固定されている。
均一な厚さに重なった包帯はきつすぎず、滑り落ちもしない結び目でしっかりと縛られている。
包帯の重なりは隙間なく重なり、ガーゼの膨らみを外気から守っていた。
結び目の末端は包帯の重なりの中に折り込まれ、どこかに引っかからないようになっている。
整備員として一筋に生きてきた藤枝らしい、器用で端正な包帯の巻き方だった。
カンカン照りの駐機場の熱に、包帯の端が僅かに汗に触れている。
腕に包帯を巻かれたあやめを囲む整備員たちが、Tシャツの袖から伸びた長い腕を見つめる。
肘の内側に食い込んだゴム製の止血ベルトが血の流れを抑え、既に25度を越す夏の朝でも爪が白い。
太い脈が表皮近くを流れる肘の内側はとりわけ止血に適し、その効果はてきめんだった。

「これが、模範だなー!時間はこれで45秒!よく見ておけよ」

彦根が、はきはきとした声で叫んだ。
今週は朝礼前に救護の教育を行っており、あやめはそのモデルとなっている。
熟練した衛生兵のような藤枝の業は誓の目にも鮮やかで、まったく淀みやほつれが無かった。
いつものように淡々とした調子の藤枝は、自分の業を誉められたことよりも、後列から遠慮がちに頭を出す若い整備員を気にかけていた。
あやめの紺色のTシャツと、ほのかに焼けた色の肌が目の前にまぶしい。
人垣の端で、誓はぼんやりとそう考えていた。
浴場で見た、うっすらとビキニの跡の残る裸身を思い出す。
健康的な肌と、帽子の下の紅茶色に澄んだ瞳は、どうにも野戦用の包帯にそぐわなかった。

「じゃあ止血取るからな。脈が止まってるから、処置が終わったらすぐ外せよ」

彦根に促されて、助手の佐久が止血ベルトを外す。食い込んでいたゴムのベルトが緩むと共に、染めたように血の気が戻る。
白くなっていた爪が、再び赤みを取り戻した。
毟るように包帯を解くあやめが、やれやれと言った表情で息をついた。
包帯はあっというまにひらひらとしたただの布に戻っていく。
風のない夏の朝に、それはふわりと揺れただけだった。
佐久があやめの手首をそっと持ち上げた。節のある長い指が、その脈を探して這う。
くすぐったさを噛み殺すためか、一瞬あやめの唇は締まった。
親指の付け根の下の骨あたりに、佐久の親指が食い込んだ。
手首を包むように支えるその掌の温度を、不意に思い出す。

襟首を掴み、容赦のない張り手をし、そして一度だけ重ねたことのある掌の熱。
夏の夜のように湿って、夏の陽よりも熱い。
あの機械のように冷徹な佐久が、唯一持つ温度。
その熱さは、凍てついた心に残って、人を惑わせる。

誓は強く瞬いて、その幻影を追い払った。
頬に血の気が集まったのは、きっと日差しのせいだった。詰めていた息を唇から吐き出す。
そっと自らの脈を計る。のたうつように震えるその脈を伝い、熱は腕を這い上がろうとする。
誓は人知れず、強くその脈を締めた。
それが侵入しないようにと、歯を食いしばった。感じたものは、怒りに似ていた。
得体の知れないものが、心の裡に棲みつくような気がしていた。

負けるわけにはいかない。
私は、あなたを許さない。

誓は、声にせずに呟いた。
《完》
prev next