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ツイからさるべーじ
多分次の短編はタイトル「アップル・ジャック」で決まりだとおもう。
定刻よりも5分遅れて空軍入間基地を離陸した空軍定期便53便(エアフォース・スケジュール53)は、14時13分にフライト・レベル200(高度6千メートル)に到達し水平飛行(レベル・フライト)へ移行した。
様々な航空交通が複雑に交錯する関東の上空で、管制官から許可された高度に上昇した灰色の輸送機C―130は、その高度を保ちながら中部の小牧基地へと針路を変える。
二階建てのコックピットを備えた巨躯の内部は、布張りの内壁とむき出しのパイプ類が生き物の消化器官を思わせる。左右の壁沿いに延びるキャンバス地の簡易な席には、空軍と海兵隊の人間が隙間なく座り、灰色と紺色の列を作っていた。
最後部のハッチ近くの席には、腕を組んだ乗組員が座っている。彼らは積載物の重量や配置、機内の管理を行うロード・マスターだった。
機内中央部には、コンテナボックスやダンボール、それに「乗客」の荷物までもがきちんと一列に隙間なく、整理して積載されている。
今日の便には、とりわけダッフルバッグやナイロンのボストンが目立った。いつもは制服や戦闘服の空軍軍人が10人か20人乗るくらいだが、この便には戦闘服姿の海兵隊員が30人ほど乗っている。
彼らの黒いコンバット・ブーツの爪先が、おもいおもいの向きにずらりと並んでいる。紺色の濃淡の迷彩服は、機内の空気を少しだけ変化させた。
与圧されている機内は寒さを感じることもなく、わずかに起こる鼓膜の痛みだけが高度を感じさせる。
ジェット・エンジンとプロペラを組み合わせたターボ・プロップエンジンは長距離の航続性能を獲得したが、反面プロペラの低い地鳴りとエンジンの甲高い音が音感に鈍痛を感じさせる。
誓――谷川軍曹は、両側から海兵隊員の中に挟まれながら眠気の訪れを待っていた。
分厚いガラスの填まった丸窓は、鏡ほどの大きさしかなく、この混み具合では背面側の窓を見ることも憚られた。両隣の、曹長と伍長は既にうつらうつらと舟を漕ぎ、その肘が誓を押してくる。
体格の小さい誓は、黙って両側からの圧力に耐えるしかない。海兵隊員の中にぽつんと座る、灰色の迷彩服の誓には眠りの中にしか逃げ場所がなかった。
目を向けた向かいの窓に映るのはひたすら、晩夏の青磁色の空だけだ。いくつも微妙な青を重ね塗りしたようなその色は、宇宙の複雑な色素をごく淡く溶かしだしたかのようだった。
機内を占拠する海兵隊員は、そんな景色に目も向けず大体が眠っている。特殊な飛行任務と、書類仕事の多い実験飛行隊に勤務する彼ら整備員は忙しく、慢性的に疲労しているのを誓は知っていた。
冴えてしまって眠れそうにない誓は、機内を見回した。向かいの席、荷物の塊の向こうに、赤っぽい、さらりとしたボブヘアーが見え隠れする。歳の近く、個人的にも親交のある相模あやめだった。
職 業 | ニート |
血液型 | O型 |