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載せられなくて ごめんなさい

物語の展開上入れられなかったシーン。ししょー、すみません。
せっかくなので貼ります。

午後7時を過ぎても、尚もじっとりと汗ばむような蒸し暑さは続いていた。
開放した窓から、ぬるい不快な風が抜けていく。
虫が入らないように閉められたカーテンがふわ、と動くのを首筋で感じながら、佐久はパソコンに向かっていた。
男性アナウンサーが発音正しく読み上げるニュースを聞き流す。
窓から見える他の部隊の事務室にも、明かりが灯っている。彼らもきっと、書類の期限に追われているのであろう。
テスト・パイロットとしての仕事のみならず、当然部隊の士官としての仕事も佐久にはある。
小さな部隊でも書類仕事だけは膨大で、しかもそれは火山灰のようにとどまることなく積もっていく。
夜間の緊急時対応のために設けられた当直勤務は、それをこなすにはいい機会だった。
迷彩服の上着を椅子にかけ、時折アイス・コーヒーを口にしながら書類の始末に打ち込む。
この書類も、脳接続で考えるだけでイメージ通りに組み立てられれば楽なのだが、とふと考える。
だが現実は、未だに二十世紀から変わらないアルファ・ニューメリックのキーボード入力なのだった。

合理的でない。

そう溜息をつき、再び作業に没頭する。
じわりと浮かんだ汗が、Tシャツの胸元に濃い影を作った。
クーラーを点けたいのは山々だが、まだ基地では冷房の運用が始まっていないのだ。
コンバット・ブーツのサイドファスナーを下げ、心ばかりの換気をする。
それでも、靴下の中を幾許かの風が通り、人心地ついた。
そのうちにニュースが終わり、クラシック音楽が流れ出した。物悲しいヴァイオリンの音色が、窓の外の夜陰に消えていく。
クラシック音楽が好きなわけではないが、思考の邪魔をしない音色は好きだった。
無音でもなく騒音でもない。それが必要なのだ。
集中が始まると、時計の針が回るのが早い。
佐久はしばらく、喉が乾くのも忘れて書類をこなしていた。
暫くの後、ふと顔をあげてそこに人影を認めたのは8時半を回ってからだった。

「谷川」

湿り気のある夜気にも関わらず、折り目を保ったまま迷彩服を着こなした姿はオフタイムらしくない。
いつもの無表情で、誓は黙って佐久を見ていた。
大して変わらない素顔と、わずかに湿りを残した髪の毛だけが、湯上がりの気配を感じさせる。
何しにきた、と問うと、忘れ物を取りにきたのだという。
そして、その手に持った缶コーヒーを差し入れにと差し出した。

「声くらい掛けろ」
「大して待っていませんから」

机に置かれたコーヒーからは、汗がたっぷりと滴っていた。
それでは、と踵を返そうとする後ろ姿に、佐久はふっと用事を思い出す。
机の上のニュース雑誌を取り上げ、誓を呼び止めた。

「何でしょうか」
「これ、お前じゃないか」

怪訝な顔をした誓が、その雑誌を捲る。
待機室で何時の間にか山積みになっていた雑誌に埋れていたうちの一冊だ。
汗がしみた手袋を洗濯して、乾かす時に敷こうとしていた彦根が発見したものだった。日光に焼けて、ページの隅は黄色く変色している。
絶滅危惧種であるイリオモテヤマネコの特集カラーページの次に、その記事は載っていた。
写真を認めた瞬間、誓の顔色がさっと変わる。

本誌独占 問われる「砂漠の夜明け作戦」、ヘンドリクセン基地襲撃事件、悲しみの現場を撮った

混迷する中東情勢に、またしても暗雲がーー。多国籍軍・現地人・テロリストに多くの死傷者を出したヘンドリクセン基地襲撃事件。
直後に取材した本誌記者が見たのは、生々しい交戦の爪痕、そして傷付いた兵士たち、そして無数の物言わぬ遺体だった。
現場には血痕や爆発の煤、そして弾痕が残り、また銃を手にした兵士たちの眼もいつもにまして険しい。
ひとときのリラックスをしていた兵士たちの姿は消え、ここもまた最前線に変わっている。
この事件は、安全な後方拠点と言われていた同基地の襲撃により軍部のみならず、国民感情にも大きな打撃を与えた。
大統領は即日生命を発表し、「アメリカに対する攻撃には、力をもって断固たる意志を示さなければならない」と述べた。
だが、何よりも記者の記憶に焼き付いたのは、仲間の死に沈む兵士たちの姿である。
記者が遭遇した、幼ささえ残す若い兵士が目を腫らして遺体袋に伏せる姿ーー。 その瞳の抱える悲しみは、深い。
「砂漠の夜明け作戦」開始以降の死者は、既に3千人を超えている。
撤退か、継続か。今、その決断を迫られる時期が来ている。(写真・文=重光 衛)

誓の瞳が泳ぎ、手はページを握り潰した。
重大な過失を暴かれた子供のように、初めて誓は逃げるように俯く。
そこに写っていたのは、過去の誓の姿だった。心音を聞くように、遺体袋に伏せている。
写真を見つめる誓の顔は真っ白くなり、唇からも血色が失せていた。外気温は熱を帯びていても、袖を捲った誓の腕には鳥肌が立っている。
どうして。
紫色の唇が動き、誰に聞くでもなく問うた。

何も思い出したことはありません。

自らの「砂漠の夜明け作戦」の記憶についてそう語った誓の言葉の虚が、露呈する。
佐久はその表情を静かに見つめた。
二つの奈落が、やがて佐久を見る。

「・・・仲間を死なせた私を、辞めさせたいのですか」

その声は渇いた。しかし、震える歯と唇に細切れにされ、歪んでいた。
視線から逃れるように、誓はやがて小さな背を向けた。
佐久は、ラジオを切り、沈黙する。
生き残った者が背負う負い目が、足元に濃い影を落としていた。ーー誓にも、そして佐久にも。

「谷川」

触れられることを拒む傷を守るように、誓は腕を抱いている。
息をするたびに震える肩の向こうに、写真の中から時間が止まったままの素顔が覗いた。
誓がその戦歴を一切を語らなかったのは、そこにある致命傷のためだったと佐久は悟る。
それでも、仮面を保とうとするかのように誓は口許を抑え、平静を取り戻そうとしていた。
その仮面が、圧壊しそうな危うさが、佐久を苛立たせてきた。
利口なふりをし、一切を封じて生きるには、誓は若すぎる。

「あなたまで、過去から追いかけてくるのですね」
ぽつりと吐いた、誓の言葉がなぜかハッキリと聞こえた。
保ってきた冷静の奥にチラついていた感情は、あらゆる色を帯びている。
向けられた背は、群馬の夕と同じく頑なだった。佐久はその小さな肩に、上着を掛ける。湿った髪に残った甘い香りが、鼻腔をくすぐった。
その背を救うことは、過去の佐久を救うことだと、何故かそう信じていた。
紺色の迷彩服を羽織った誓が、驚いて振り向く。

「勘違いするな。おれに過去を裁く資格はない」

佐久は茶器棚に歩み寄って、コーヒーメーカーの濾紙を折りながら言った。
濾紙をセットすると、粗挽きの粉コーヒーを匙に擦り切り、その中に入れて均す。
コーヒーメーカーのスイッチを入れ、誓の目を見る。

「おれはパイロット学生時代、事故に遭って教官の命と引き換えに生き残った。それを、思い出さない日はない」

ポコポコと沸騰し、一滴一滴落ちる湯が、コーヒーの粉末に沁みる。
呆然として佐久を見る誓の瞳が、瞬いた。そしてその表情に、初めて疲弊と後悔とを見た。
恐らくは、それは禁じてきた感情だった。
「・・・それだけだ」

何故か佐久は、それだけは言わなければならないと思っていた。
あの写真を見た瞬間、誓が負ったものを理解した時から、そう思っていた。
佐久はそれきり口を噤んだ。事務室には、コーヒーが落ちる音だけが響く。
やがてコーヒーが出来ると、佐久はそれをカップに注ぎ、誓に差し出した。
かすれた声で礼を言った誓が、それを両手で包み込む。佐久は、ぐるりと周囲を見渡した。
部屋には、過去と、死者と、コーヒーの香りが満ちていた。
死者の影は誓に重なりながらぶれ、明確な輪郭を見出そうとした瞬間、コーヒーの湯気に霧散してしまう。
そして、自らの内にもまた、死者の気配が満ちる。先ほどまで生ぬるかった気温が、急に冷えたように感じた。
部屋に満ちるものたちと同じように、佐久も、誓も、無言だった。
やがて、地の底から響くような独白が、誓の吐息に混じる。

後悔してはいけない。少佐が命を賭して守った命を、後悔してはならないのです。
少佐の命が守ったものが貶められてはならないし、貶められるような命であってはいけない。
そう信じているのです。

誓の手は震えていた。心の奥底の温度が身体中を凍てつかせ、瞳だけが温度に溢れている。
そして、押し殺していた最も重い言葉が、その唇から漏れた。

それでも。
私は少佐の代わりに生き延びた自分を許すことはできない。

一切を拒絶するその告白が、初夏の夜を緊張させる。
それは、いくさ場ではありふれた出来事だったに違いない。
しかし、「少佐」という言葉を口にする時、讃美歌を口ずさむように大事に発音する誓の中では、それは認められないことだった。

猫のωで気付いた大事なこと

休み時間にねこのω(リヤのほう)をリアルに描いてたら後輩に頭がおかしいと言われました。
しゃーないじゃん。しっぽと*の下に付いてんだから。
んで、後輩は整備出身なので、ふとロクマルのパイロットってどっちがメインパイロットでどっちがコパイだっけって聞いたら左側がメインパイロットと答えられたので、左の玉にPIC 左の玉にCOPって書いたらおかしいと言われました。
仕方ないので玉に吹き出しを付けて「ケ・セラ・セラ」と喋らせてみました。頭がおかしい。
小学生レベルの下ネタですね。しかもカオス。救い様がない。
んで、ロクマルのコックピットの話で思い出したのですが、バーティゴのロクマル墜落シーンを左右反対で書いていたかも。機首の方向から右がメインパイロットの想定で書いていたので。あーあ。
あとカラーページのページ番号間違ってたwww

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