(FRLG)今も昔も遠い未来もすぐ側に

小さい頃は、置いて行かれそうになったら戻ってきてくれた。
今より少し昔は、置いて行かれそうになったら待っていてくれた。
この間までは、置いて行かれてしまったから、必死に追いかけた気がする。
そして今は――。

「なんだよ、なんでお前がここに……!」
マサラタウンのおとなりさんの家でのんびりとお茶していた私を見て驚いたのは、どこに行っていたのかわからないけどこの家の住人のひとりだった。
本当なら、私はこの家の人じゃないから彼の反応は正しいのだけれど、
「ナナミさんにお留守番頼まれたの」
「姉ちゃんに?」
ものすごくうさんくさそうな顔をされてしまった。でも、本当のことだもの。テレビの前のラグマットの上では、この間孵ったばかりのピチューがうとうとと昼寝をしている。たしかに我が家って感じがするなぁと思った。
「お茶淹れるよ?」
「あ、ああ」
てっきり「いらない」と言われちゃうのかと思ったら、幼なじみはおとなしくテーブルの向かい側に座った。私は教えて貰っていたティーセット置き場から茶葉を取り出す。温めたポットに茶葉を入れてお湯を入れて、白いカップに注ぐ。幼なじみはずっと私の手元を見てくるから、なんだか気まずい。
「何?」
視線から逃れようと尋ねると、幼なじみは「別に」とぷいと顔を逸らしてしまった。

……視線から逃れたかったけど、顔を背けられてしまうのが、すこし寂しく思える。

「紅茶、冷めないうちに飲んでね。私帰るから」
家の住人が帰ってきたのなら、私がここにいる理由はない。まるで帰れと言われているようで寂しさも相まってここに居づらくなってしまった。
帰るよ、と声をかけても、ピチューはまだ起きる気配がなくて、仕方なくボールを取り出した私の手が、ぐいっと掴まれた。
「ちょっと!」
ここには私と幼なじみしかいないんだから、手を掴んだのは幼なじみだ。
「別に、帰れとは言ってないだろう。座れよ」
そして、顔を逸らしたままこんなことを言ってくる。
「でも迷惑でしょう」
「迷惑じゃない。ここにいろよ」

やっとで、こっちを向いてくれた。

おとなしくうなずいて、元の椅子に座る。
「紅茶、冷めないうちに飲んで?」
「ああ」
幼なじみが、私の淹れた紅茶を口につけて、
「……うまいな」
って、うすく笑う。なんだかそれが嬉しくて、私の口元にも笑みが浮かんだ。

今も昔も、そして遠い未来も、こんな風にすぐ側にいられたらいいのにね。
なんて言ったら、怒られてしまうかもしれないけれど。
「もう1杯飲む?」
「ああ」
短い返事と共に渡されるカップを受け取って、もう一度お茶を淹れることが、なんとなく幸せだなぁと思ってしまうのだった。

from 恋したくなるお題



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