ビースターズ63話ノベライズSS 落書き中 1 (「モラルなんてものは」)
「モラルなんてものは、僕らに何も与えてくれないじゃないですか」
放埒という言葉に血肉と美しい容貌を与えたらこうなるだろうというような、
見事な巻き角を生やした大羊《ドールビッグホーン》の少年――ピナが微笑む。
「だから……もし僕が」
言いながらピナは眼前のハイイロオオカミ――レゴシに歩み寄る。
「レゴシ先輩にパクッて食べられちゃったら、
その時だって、僕……先輩のことを責めませんよ」
大羊の少年はレゴシのすぐ前に立つと、
鋭い牙が並んだ彼の口に手を差し入れて、長い犬歯に触れた。.
草食獣の柔らかな白い巻き毛が、窓から入る日の光を受けてきらめき、レゴシの鼻先で揺れている。
肉食獣であるレゴシにその気がありさえすれば、一瞬で喉笛に咬みついて命を奪うことができる距離だ。
骨をも噛み砕く強靭な顎の間、肉をたやすく引き裂く鋭い犬歯に、ピナの長く繊細な指が触れている。
レゴシは言葉を失った。
この後輩は、一体どういうつもりなのか――。