@AB


20 :極夜 ◆y1TBgQ3JzI:2007/02/09(金) 21:20:06

今日はどれぐらいの長さの奴を作るか…………

もう20pの庖丁……切れてきたな……補充するか……

普通に売れるのがそれくらいの長さしかないが…………

……商売は面白くねえよな………………

……新しい可能性に挑戦できる余裕が減ってくる…………



カンッ! カンッ! カンッ!

…………で、水に浸ける…………

あれ? 思ったほど蒸気が出ねえ…………温め損ねたか?…………

でも鉄は赤かったと思うんだが…………

??……そういえば何分ぐらい叩いてたんだ?

……おかしい…………俺がそんな失敗をするだなんて………………

これじゃだめだ…………商売上がったりだぜ…………



鉄を熔かしなおした。こんなんじゃ駄目だ。作り直さなきゃな。

融点1535℃。かまどの出力最大。

馬鹿みたいだ。

かまどの中を覗いた。

熱風。


赤熱した鉄が俺を睨みつけながら、ゆっくり熔けだした。

21 :極夜 ◆y1TBgQ3JzI:2007/02/09(金) 21:21:17

結局俺は庖丁を作れなかった。

絶不調だ。そんな言葉は存在しないが、そんな俺がまさに今存在している。


……………………何でかは考えたくねえ……


今日は活動するぞ………………憂さ晴らしといくか……

いつもの装備を用意する。覆面。全身タイツ。お気に入りの庖丁。その他何本か投げ庖丁……

これでもっと強力に皆を震え上がらせてやるぜ。



「ぎやあああああぁぁぁっぁぁぁっぁあああ!!!!」

逃げるあいつらの頭上を追い越す庖丁。

「ゎいわヵっぉゃあああああ!!!」


これでいい。これでいいんだ………………


憂さ晴らしにもならねえがな…………

22 :極夜 ◆y1TBgQ3JzI:2007/02/09(金) 21:22:26

憂さ晴らし………………





……憂さ晴らしで世界を平和に出来るわけが無えだろ!!!!


ふざけんなよ、俺!

何のためにやってるんだ! お前は!……って………………



自己満足…………………………

俺の好きな平和な世界をつくるためだ……

他人のためじゃなかった…………


憂さ晴らしにすぎないじゃんか………………


23 :極夜 ◆y1TBgQ3JzI:2007/02/09(金) 21:23:28

家。

全く駄目。

そこにある問題をほったらかしにしたら俺はすぐに駄目になっちまう。

フサ……………………


………………俺は

お前に嫌われてまで世界を平和にしなくちゃならんのだろうか?………………

……フサ…………お前だけには……やっぱり嫌われたくないようだ………………

…………もうお先真っ暗だよ………………


何をしたいのか分からねえ………………ただ、確定してるのは


世界を平和にしたい。

フサに好かれたい。


これだけだ。


二律背反なのか?………………

明日、お前に聞きたい。


今日はもう寝る。



24 :極夜 ◆y1TBgQ3JzI:2007/02/09(金) 21:24:25


朝。今では太陽を綺麗だとは思わねえ。

今日は夢を見なかった。

どっちみち、夢で解決できる問題なんてこの世には無いだろ。

じゃあそれでいい。


今日は…………フサに会いたいんだが……

仕事休みなのか?…………

休みの日……聞いてなかった……

わずかな可能性に賭けて、行ってみることにするか…………


ギコの店。

今日は朝から開いてる日なんだよな。

( ,,゚Д゚)「いらっしゃい……あれ? つーさん? 今日はお仕事は?」

(*゚∀゚)「……あ……ああ、休みだ……休み……」

ミ,,゚Д゚彡「おはようだから」

フサ……いたのか……

……神様とか、信じちまいそうだぜ。

25 :極夜 ◆y1TBgQ3JzI:2007/02/09(金) 21:25:30

(*゚∀゚)「フサ……仕事は休みなのか?」

ミ,,゚Д゚彡「あ、……ああ……」

( ,,゚Д゚)「………………つーさん……フサさんね、あなたに会いに行こうとしてたんですよ」

Σ(*゚∀゚)「え?!」

ミ,,゚Д゚彡「いや、ね、この前ちょっとつーちゃん元気なかったでしょ?」

(*゚∀゚)「あ、ああ……」

フサがそんなこと気にかけてくれるだなんてな…………

(*゚∀゚)「…………俺もフサに用事があるんだ……偶然にもほどがあるよな……」

ミ,,゚Д゚彡「そうだったの。ちょうどいいから」



ギコの奴、また店の奥に俺達を入れやがった……

……めちゃくちゃ嬉しいが、な……

ミ,,゚Д゚彡「つーちゃんの用事って何?」

(;*゚∀゚)「あ、ああ…………」

言うぞ。大丈夫か? 俺。

26 :極夜 ◆y1TBgQ3JzI:2007/02/09(金) 21:26:30

(;*゚∀゚)「………………あのさ……世界平和のために嫌われ者は必要なのか?…………」

ミ,,゚Д゚彡「………………」


フサ…………黙らないでくれ…………

真剣にレスをくれるのは本当にありがたいんだがな…………

……お前に黙られると……何でだろう……不安になる……

……俺は強く生きれると思っていた……

…………俺はフサに依存しすぎだ……………………

それでも俺はいいと思う…………

……こんな気持ちになったのは人生で初めてだ………………


ミ,,゚Д゚彡「俺には分からないよ…………えらく難しい質問だから……」

(*゚∀゚)「…………そうk──

ミ,,゚Д゚彡「でも、必要なくても悪役を作れば、必要だと思うようになるかもね…………
需要に供給あり。供給に需要ありだから。
つーちゃんが欲しいんだったら俺にも必要になるかもね」


………………

(*゚∀゚)「そうか! そう思うか!!」

27 :極夜 ◆y1TBgQ3JzI:2007/02/09(金) 21:27:26

店を飛び出したくなった。

まあ待て、今飛び出したらフサの俺に対する用事が果たせなくなるぜ……

冷静になれよ、俺。

(*゚∀゚)「ありがとよ、俺の悩みは解決したからさ、ところでさ、お前の用事って何だったんだ?」

思いっきりテンパってるぜ。

ミ,,゚Д゚彡「……俺の用事か……つーちゃんの元気が戻ったならそれでいいから」

ちょ、……ちょっと待てよ……俺を放さないでくれ……フサ……

(;*゚∀゚)「そ、そうか…………でも、なんか話がしたいぜ……せっかく会ったのによ……」

……ちょっと大胆発言だったかもな…………

ミ,,゚Д゚彡「そうだね、俺ももう少し話がしたかったから」


アヒャーーーー!!!

頭のネジがぶっ飛びそうだぜ。イヤ、ぶっ飛んだに違いねえ。

フサ、お前ってホントに…………

なんでもいい。今日は喋り倒すぜ。

28 :極夜 ◆y1TBgQ3JzI:2007/02/09(金) 21:28:41


…………誰にも言えなかった無駄な技術………………

(*゚∀゚)「でな、でな、庖丁を投げるときのコツは…………」

……………………俺の知らない、フサの友達の話…………

ミ,,゚Д゚彡「あのショボンって奴はね、内藤が…………」

お互いが共有できなかった情報。何でも喋った。


さすがのギコも少し困った顔をしていた。

そりゃそうだろ。12時間近く喋ってたんだ。

それなのに飯も奢ってくれた。昼と夜。

ギコはいい奴だ。本当に。

それにしてもフサもよく俺とこんなに喋れたよな…………


フサ……ありがとうな……お前のおかげでようやく本当に決心がついたぜ……



俺は、

悪役を買って出て、世界を平和にする。

そして、そのことを気づかれないようにしながら、お前にアタックするんだ。

本物のスパイさながらに。



いつかお前に気づかれるかもしれない。

いや、すぐに気づかれるだろう。

最悪の場合、逮捕されるかも知れない。

でも、お前は俺のことを嫌いにならないでくれるだろう。

お前は頭も良くて優しいから、俺のことを分かってくれるだろう。

29 :極夜 ◆y1TBgQ3JzI:2007/02/09(金) 21:29:41

慢心かも知れないが、大丈夫だと思う。


だって

ミ,,^Д^彡「つーちゃん、今日はありがとうだから、つーちゃんが夢を語ってくれたおかげで
俺ももう少し夢を持つ自信がついたから」

って言ってくれたもんな。あの笑顔で。



(*゚∀゚)「じゃあな、今日は楽しかったぜ」

楽しいなんてもんじゃねえ。

最高だぜ。

ミ,,゚Д゚彡「じゃあね、俺も楽しかったから」

……そうか…………すぐに家に帰って支度するぜ。


そういえば…………

……フサの夢ってなんだったんだろな…………

聞いときゃよかった。

また、いつでも聞けるよな。

メールアドレス、電話番号、その他諸々情報交換したし。

30 :極夜 ◆y1TBgQ3JzI:2007/02/09(金) 21:30:49


家。


外。

数分で悪の化身に変身だ。

慣れると早くなる。まだ活動初めて三回目にしかならないのに。

何か……大きな力で動かされているみたいだ…………

そういえば、昨日のことは報道されたのか?

ニュース見てねえや…………

まあいいや。あんなことしてニュースにならねえわけがねえ。

どっちにしろ、街も警戒を強めてきただろう。



…………なんでだよ……誰もいねえ

見回りも無しかよ………………


……………………誤算……だったのか?!

……皆……何のんびりしてんだよ!!…………

31 :極夜 ◆y1TBgQ3JzI:2007/02/09(金) 21:33:22

お前ら…………誰かが死んでもいいのか?!

いや、殺すつもりはないけどさ、おかしいだろ?

この街にいた……お前らの大切な人が、死んでもいいのかよ!!

ふざけんなよ!! 

俺は……フサが死ぬなんて考えられねえぞ!!!

お前らもそうだろ! 早く俺を捕まえに来いよ!!!

ここに殺人鬼がいるんだぞ!!!!


……く、くそぉ……!!


こうなったら本物の死の恐怖を誰か一人でもいい! 味わってもらうぜ!!


誰か、誰かいないか? 誰でもいいんだ!!!

少しの間だけ俺に付き合ってくれればいいから!!!!




………………いた!!!

行くぜ!!!

32 :極夜 ◆y1TBgQ3JzI:2007/02/09(金) 21:34:21




………………………………

(#゚∀゚)「死ねええええ!!!!」

「……うわわあああああっぁぁああああぁぁあぁああああ!!!!!!」

対象が腰を抜かす。

対象の腹に俺の宝物の先が触れる。


そんな…………………………








…………………………………………フサ

Σミ;゚Д゚彡






俺は逃げた。


宝物を無くした音が何度も反響していたような気がする。

34 :投下再開 ◆y1TBgQ3JzI:2007/02/10(土) 13:48:00


……うわああぁぁぁあああぁあああ!!!!!!!!!!!!!!!!


(*;∀;)


フサあああ!!!


フサああああぁああぁああ!!!!!!


許してくれええええぇぇぇえ!!!


襲うつもりなんて無かったんだあああ!!!!!!!




つ∀;)


怖い思いさせちまったああああ…………許してくれえええええ…………




お前にだけは見られたくなかったあ…………あああ…………


覆面してるけど……お…お……お……お前なら気づいちまったかも知れねえ……え……え…………

35 :極夜 ◆y1TBgQ3JzI:2007/02/10(土) 13:48:58




家。

もう着いた。

全速力だった。

フサ。

お前にだけは見られたくなかった。

襲ってしまうなんて思ってもみなかった。

か、体の震えが止まらねえ………よお………


フサ………………………………

…………寒いよ…………………………

襲っちまったけどよお…………

助けてくれよお……………………

…………こ、殺してくれても……いいからよお……

……恐い思いさせちまったけどよお………………

……お、…………お、俺を…………

…………た、…………助け……助けて………………くれ………………

36 :極夜 ◆y1TBgQ3JzI:2007/02/10(土) 13:49:30


体が動かない。

助けてくれ。

まだ冬なんだぜ。

寒いよ。

死にそうだよ。

フサ…………

俺、死にそうだよ……

ご、ごめん……この期に及んで…………

布団も出す力がねえよ…………

このまま寝ちまおう……………………

寝ちまおう…………

死んでしまうなら……それでいい……

絶えねば絶えね、だぜ……

使い方……ちょっと違うか?…………もうねむ…………い…………

37 :極夜 ◆y1TBgQ3JzI:2007/02/10(土) 13:50:19


朝。曇ってる。

今日は夢を見なかった。

見なくて良かった。

見ていたとすれば、恐らく精神がやられるような夢だったに違いない。

──つーちゃんがそんな奴だったとは思わなかったから

よりによって俺を襲うだなんて最t──

なんて言ってるフサが俺の目の前に現れていたら、俺は発狂していただろう。

フサが守ってくれたのかもしれない。なんて思う。

朝。まずはニュースを見る。テレビをつける。

手が震えるが。

……………………


フサを襲ったことが報道されていない。

……………………もしかして……俺だってことに気づいたから?…………

……フサの奴…………もしそうだとしたら…………

……どっちにしろ俺はまた悩まなくちゃいけねえんだな………………

38 :極夜 ◆y1TBgQ3JzI:2007/02/10(土) 13:51:01

……昨日俺はメールアドレスをフサに教えた……

…………恐くて携帯は当分触れないな…………

……でも、…………素無視はさすがに……………………

携帯を手に取る。

………………駄目だ……手が震える……

……だが……!


俺は意を決してメールをチェックした。


新着メールは無かった。


幸か不幸か……分かったもんじゃねえ…………


フサ…………ハッキリしてくれよ…………

……ハッキリしねえ俺のセリフじゃねえか?…………

なんかさぁ…………

……逆さに吊るし上げられてみたいなんだよ…………フサ……

39 :極夜 ◆y1TBgQ3JzI:2007/02/10(土) 13:51:34

…………今日は店を開けよう。今の俺に庖丁が作れるだろうか……

どっちにしろ、残った庖丁は売らないとな…………

……………………そういえば……なんか見慣れねえ奴がいるな……


なんだよあれ!! 警察じゃねえか!!!

もうさすがに警察も動き出したか?!

まあ、そりゃ三回も活動を続けりゃ動かねえほうがおかしいんだがよ…………


…………ゲッ…………こっちに来た……

川 ゚ -゚)「すみません。警察のものですが」

(;*゚∀゚)「は、はいっ!」

ξ゚听)ξ「どうしたんですか? 気を楽にしてくださいよ?」

む、無理に決まってるだろ…………

川 ゚ -゚)「最近ここで大量に庖丁を買っていった人間がいませんでしたか?」

……やっぱりか……

(;*゚∀゚)「……い、いねえな……」

嘘じゃねえな。嘘をついてるのとさほど変わらないが……

ξ゚听)ξ「そうですか…………………………………………ありがとうございました」

川 ゚ -゚)「捜査協力ありがとうございました」

なんだよ、その間は…………


…………もしかして……もう俺だっていう目星がついているのか?……

40 :極夜 ◆y1TBgQ3JzI:2007/02/10(土) 13:52:37

……どうやって隠し通す?

俺は庖丁を買っていった人間はいないと、正直に答えた。

そうすれば、俺は嘘をついていないからそういう意味では疑われない。

しかし、庖丁を大量に使うことの出来る犯人は…………庖丁屋…………

だが、ここで活動するからといって、

このあたりにある唯一の庖丁屋がそのまま犯人になるわけじゃあねえ。

他の地域から遠征なんてものは簡単に出来るしな…………

まだ当分は捕まらねえだろう…………実際、躍起になって探されるほどのことはしてねえしな……

………………どうしようか……


( ,,゚Д゚)「つーさん?」

Σ(*゚∀゚)「っはっ!!!」

…………ギコか……

(;*゚∀゚)「あ、ああ、すまねえ……どうしたんだ?」

( ,,゚Д゚)「え、…………あの、砥石ありますか?
昨日つーさん達が帰った後、落として割っちゃいまして……」

(*゚∀゚)「砥石ねえ…………確かここに……ほら、あったぜ」

……久しぶりの客だ………………ありがたい……

( ,,゚Д゚)「ありがとうございます………………………………つーさん?」

(*゚∀゚)「ん、何だ?」

( ,,゚Д゚)「どうも元気が無いように見えますが…………?」

(*゚∀゚)「…………なんでもねえよ…………大丈夫だ……」

41 :極夜 ◆y1TBgQ3JzI:2007/02/10(土) 13:53:37

( ,,゚Д゚)「……………………」

( ,,゚Д゚)「うちに来てくださいよ。呑みませんか? お茶」

(;*゚∀゚)「いや、悪いだろ……昨日昼飯も晩飯も奢ってもらったのに……」

( ,,゚Д゚)「じゃあお金払ってお茶呑んでください」

(*゚∀゚)「…………………………ああ……行くよ……」

俺の店はどうせ儲からない仕事だ。何日休んだって別にいいさ…………

砥石一個売れたしな…………今日はそれだけでいいだろ……


ギコの店。

準備中じゃねえのか? もう開いてる。

今日は朝から開ける日じゃねえだろ……

( ,,゚Д゚)「ただいま」

( ,,・Д・)「お帰りなさい、店長……後ろの方は?」

初めて見る顔だな。新しいバイト君か?

( ,,゚Д゚)「ああ、うちで使っている庖丁を作ってくださるつーさんだ」

店、暖かいな…………

(*゚∀゚)「あ、どうも」

( ,,゚Д゚)「彼は今日から入ったバイトのぽろろ君です」

( ,,・Д・)「どうも。よろしくお願いします」

(*゚∀゚)「ああ、こちらこそ」

ギコ、今まで一人でこの店切り盛りしていたのに…………