@AB

2 :極夜 ◆y1TBgQ3JzI:2007/02/09(金) 20:59:41

…………俺は…………庖丁が好きだ…………

……この白色光沢…………たまらないぜ…………

…………俺は…………嫌われていた………………

……そりゃそうだよな…………庖丁を持ち歩く人間なんて……

…………俺は…………純粋にこいつが好きなんだ…………

…………武器じゃない………………それを誰も分かってくれない……

…………別に、分かってもらいたいわけじゃないけどな…………


…………「昨夜11時頃、天国町で刃物を持った男が…………」

……………………最近殺人事件のニュースばっかりじゃねえか……

…………凶器は主に庖丁……出刃庖丁に刺身庖丁…………

………………イヤだな………………俺は平和が好きなんだ…………


……………………俺はどうせ嫌われている……………………そうだ………………




(*゚∀゚)は悪役を買って出て、世界を平和にするようです

3 :ゆっくり読んでもらえるとありがたいです。 ◆y1TBgQ3JzI:2007/02/09(金) 21:01:12

………………俺はずっと一人ぼっちだったよな……

……いや、そういえば「しぃ」っていう友達がいたっけ…………

……とは言っても、…………あいつは誰とでも仲良くできる奴だったしな………………

…………俺は、そんなに重要度の高い友達じゃなかったに違いない…………

………………あいつには友達がたくさんいた……人気もあった……美人だったし……

……俺もなかなか美人だったんだぞ?………………なんて言ってみるテスト……

あいつと俺の違い…………多かったかもしれないが…………皆が見ていたのは……

やっぱり俺の庖丁だろう……………………

……それを見ると避けるんだ…………

………………しぃ……俺みたいな奴を友達にしてくれてありがとう…………


…………それと………………フサ………………

……男子で……俺に唯一声を掛けてくれた…………

気づいていたかな?…………俺、お前のこと好きになっちまっていたのを…………

今ではどうでもいい話か………………

4 :極夜 ◆y1TBgQ3JzI:2007/02/09(金) 21:02:43

( ,,゚Д゚)「すみません」

Σ(*゚∀゚)「はっ! はいっ!!」

俺としたことが……仕事中に回想なんかしてる場合じゃなかった……

( ,,゚Д゚)「刺身庖丁ありますか? 50pのものが欲しいんですけど……」

(*゚∀゚)「あーーー…………すまん……今は置いてないんだ、そんなに長いのは
…………明日までに作って持っていく……いいか?」

( ,,゚Д゚)「あ、じゃあお願いします、……では」

(*゚∀゚)「……おう、じゃあな……」

ギコ、腕のいい料理人だ……俺の庖丁は切れ味がよく、丈夫だって料理人の中では評判らしい……

でも、俺を必要とはしてくれていない……

俺がいなくなったら……他の職人が穴は埋めてくれるんだろ…………

俺は、来た仕事を着実にこなすだけ。

俺の作品で喜んでくれるなら本望だ。


……俺……いつから庖丁が好きになったんだっけ…………

この白色光沢…………たまらないぜ…………って……なんでだろうな……

5 :極夜 ◆y1TBgQ3JzI:2007/02/09(金) 21:03:45

…………いつだったかな…………とにかく綺麗だった……

……太陽に当ててると、特に綺麗に光った…………

その輝きを自分で生み出したい……そんな感じだ…………

それで俺は庖丁を鍛えて作るこの仕事に就いた……と、言っても親の仕事を受け継いだだけだが……


庖丁を好きになりすぎて持ち歩きだしたときは親、怒ったよな…………

まかり間違ってもこれで人を傷付けるなんてことは……俺はできなかっただろうに……

アヒャアヒャ言ってる奴に説得力は無いか………………


友達があまりにいないんで庖丁投げて遊んだこともあったな…………

遠くに板を立て掛けて、それに投げる。

あの刺さったときの爽快感。あれも文句なしに好きだった。おかげで今ではその道の達人。

……ま、友達はさらにできそうになくなったがな…………

しぃには本当に感謝している……だが、俺もあんなにまでして友達は欲しくなかった……

すぐに消えてくれりゃ良かったのによ…………

……あいつの携帯には、まだ俺のメールアドレスが入っているんだろう…………

…………俺は消したよ………………これ以上、友達にはならないでほしいんだ…………

6 :極夜 ◆y1TBgQ3JzI:2007/02/09(金) 21:04:53

俺は自分でしぃの好意を撥ね退けたわけだが………………

………………やっぱり……いざとなったら、寂しいな…………

でもな……お前に慰められても……本当に、何も変わらなかったんだ…………

……悪かったな…………



カンッ! カンッ!

庖丁を作る音は自分のを聞いても気分がいい……

ギコの奴……50pは長すぎだろ……明日までに作れるよな…………



「つーちゃん、だっけ? 俺、フサって言うんだ。よろしくだから」

「あ、ああ…………よろしくな…………」

フサが声を掛けてくれた。それだけで俺は幸せになった。

運命の出会い……なんてものを信じそうになった。

誰も、男子では誰も俺に近付こうとしなかったのに、ただ一人、お前だけは、俺を救ってくれた。

…………でも、俺からは何も言わなかった……毎日、毎日お前は声を掛けてくれたのに……

俺はこう見えて奥手だった…………笑うなよな……笑う人なんていないけど……

俺は……俺はただの女なんだ…………どんなに庖丁好きで、どんなに男勝りな言葉遣いでも……

今となっては、庖丁好きのちょっと変な人。……これさえあれば何にもいらない…………



カンッ! カンッ!………………



……なわけねえだろ………………フサ…………………………今でも好きなんだ…………

7 :極夜 ◆y1TBgQ3JzI:2007/02/09(金) 21:05:54

俺は高校卒業で家を継いだ。フサは大学に行ったんだよな……

今は俺もフサも23歳か?………………社会人になってるよな……

できるなら……お前に会いたい………………




だめだよな…………今から俺は悪役になろうとしてんのに…………


……お前にも嫌われなきゃいけないんだろな…………




もう8時か……今日は閉店な………………

…………これから……忙しくなるぜ…………

(*゚∀゚)「…………アヒャヒャヒャヒャヒャ…………」

思わず、アヒャっちまった…………

…………あれ、どこに仕舞ったかな………………

8 :極夜 ◆y1TBgQ3JzI:2007/02/09(金) 21:06:55


よーし見つけた見つけた。

この黒の全身タイツ。買ってみたはいいけど使い道が無かったんだよなぁ。

……この黒い覆面を被れば……


悪の化身完成


アヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!

…………鏡の中の俺……どうみても変態だろ……本当にありが(ry

っと、テンプレは置いといて……………………あいつはどこだったかな…………


……あったあった……俺の宝物…………今日はお前を使うぜ…………大事なイベントだからな……

俺の大事な、庖丁。初めてもらった、宝物。

ずっと、大切にして手入れも怠らなかった…………今こそお前を使うときだ…………

……子供の頃、太陽に当ててお前の輝きを見た。

月の光に当ててみても、お前の輝きは健在だなぁ………………


さて………………

………………行くか!!

9 :極夜 ◆y1TBgQ3JzI:2007/02/09(金) 21:07:39

と、言ったものの時間が早すぎる。

12時回ってからにするか。

それまでテレビで時間を潰すことにする。

点ける。

…………つまんね。バラエティなのにつまんね。


やっと12時になった。行くか。



………………繁華街。誰かいないか?…………

……いたぜいたぜ。アヒャヒャヒャヒャ………………不良だな。ありゃ

(*゚∀゚)「おにーさん? 殺されてくんないかな?」

「……ぎぎぎやややああああぁぁぁqwせdrftgyふじこlp;!!!!」

……なんだよ……庖丁出して言っただけで逃げたじゃねえか…………チキンだな……

……まあ、いいけどな…………殺すつもりなんてないし……

……さあて…………次は……この夫婦にするか……


「な、何だお前! お前は危ないから下がってろ」

「そ、そんなことより早く逃げましょうよ!!」


そうそう、奥さんのほうが正しいよ。……じゃ、偕老同穴目指して仲良くしてね♪

10 :極夜 ◆y1TBgQ3JzI:2007/02/09(金) 21:08:44


その後も人を襲う振りをし続けたわけだが…………

こりゃサイコーだな!!

夜の世界はひんやりしていて気持ちいし、

暗闇とこの黒タイツは何かスパイ気分になれるし…………

俺は…………アホか……


でも、この調子なら絶対に全世界が平和になるぜ!

……ま、結果は明日のテレビを見てからだな…………


……もう2時だぜ……早く寝なきゃな…………


おやすみー………………



「つーちゃん、だっけ? 俺、フサって言うんだ。よろしくだから」

「あ、ああ…………よろしくな…………」

「つーちゃん、いつも庖丁持ってるけどなんでなの?」

「あ?…………好きだからだよ…………」

「そうか…………次は選択授業か……始まるからもう行くから」

「あ? ああ…………」

……あ、…………フサ…………行かないでくれ……

11 :極夜 ◆y1TBgQ3JzI:2007/02/09(金) 21:09:58


…………ん?……明るい……朝か…………

ニュースニュースっと…………

「昨夜1時頃、ニュー速VIP市郊外で庖丁魔が暴れまわったようです。ケガ人は出なかったようで…………」



…………よっしゃああああああああああーーーーーーー!!!!!

これだよこれ!! これで俺の思惑通りだ!

このまま続ければ……皆の警戒心が強まって……皆が団結すれば平和が来る!

「……次のニュースです」

……ん? なんだ?……な、なんだってーーーー!!! こんなことできるぞぬがいたのかーーーー!!

いやー。ニュースなのにおもすれーーー!!!!


さて…………そろそろ仕事おっぱじめるとするかーーー!!!



…………カンッ! カンッ! カンッ!

かまどの火を止めて……と……

……ふう……やっと出来たぜ…………

……あれ? 今日は、誰も来てくれなかった……もう夕方になってる……

……いや、……来なかったんだな……用事も無いのに来るのは暇人だけだろ……


やべぇ!! もうギコの店って開いてるよな?! 早く行かなきゃ!!

12 :極夜 ◆y1TBgQ3JzI:2007/02/09(金) 21:10:46

…………ここだっ! 着いたー!

(;*゚∀゚)「い、いやー! すまねえ! 遅くなったな! はい! これ、50pの奴!」



なんでだよ。

(*゚∀゚)「………………フサ……何でお前がここに…………」

座敷席にそいつは居た。俺の好きな人が。

ミ,,゚Д゚彡「あれ?……つーちゃん?……久しぶりだから……」

( ^ω^)「おっおっおっ……彼女かお?」

ミ#゚Д゚彡「……内藤……その、女の人を見ただけでそういうふうに言う悪い癖、直した方がいいから……」

か、彼女?!…………まだそんなんじゃねえよ……

(´・ω・`)「いきなり核心に迫るようなことを言うよね、ブーンは、ごめんなさいしないといけないよね」

( ,,゚Д゚)「どうしたんですか? お知り合い?…………あ、庖丁ありがとうございますね」

(;*゚∀゚)「あ、ああ……」

……いいけどよ……それ、庖丁ってレベルじゃねーぞ…………

ミ,,゚Д゚彡「高校時代の知り合いなんです」

Σ(*゚∀゚)「おっ、おう…………」

知り合い…………か…………

当り前だよな……

ミ,,゚Д゚彡「つーちゃんさ、今何してるの?」

(;*゚∀゚)「え? あれ? ああ……庖丁作って売ってるんだよ……」

駄目だ……口下手だな、俺…………

フサの前じゃいつもこんなんだった。……

ミ,,゚Д゚彡「そうなんだー。……俺はなんてことはない会社員だから……」

13 :極夜 ◆y1TBgQ3JzI:2007/02/09(金) 21:11:37

( ,,゚Д゚)「…………………………」

( ,,゚Д゚)「つーさん。飲んでいきませんか? フサさんと積もる話もあるでしょう? 奥の席、お貸ししますよ」

Σ(;*゚∀゚)「なっ…………」

( ^ω^)(´・ω・`)「……………………ふっふっふ…………」

ミ,,゚Д゚彡「………………そうだね、久しぶりに会ったし」

(*゚∀゚)「…………そうだな……」

( ^ω^)「おっおっおっ……頑張って来いお……」

(´・ω・`)「それ以上言うと──フサ!」

ミ,,゚Д゚彡「ぶち殺すぞ。だな」

……え? フサってそんな言葉遣いしたか?…………どうなってんだ……

ミ,,゚Д゚彡「……あ、気にしないで、あれはあそこにいるショボンの決め台詞なんだ
……深い意味は無いから安心してね」

(;*゚∀゚)「お、おう……そうだな」

フサがそんな言葉遣いするわけねぇじゃねえか……良かった……



( ,,゚Д゚)「さ、どうぞ」

(*゚∀゚)「あ、すまねえ、酒は飲めねえんだ……」

( ,,゚Д゚)「そうですか……ではごゆっくり」

ギコの奴、俺達に目配せしていきやがった。

……ありがたいが、な…………

14 :極夜 ◆y1TBgQ3JzI:2007/02/09(金) 21:12:30

………………

ミ,,゚Д゚彡「つーちゃんさ、最近どうしてるの? 高校卒業から会ってないから」

(*゚∀゚)「え? あ、ああ……庖丁作って売っている以外に……これといったことは無いんだが……」

ミ,,゚Д゚彡「そう……俺も別に取り立てて言うようなことは無いから」

……駄目だ……会話が途切れちまうぞ……何か無いのか?…………

………………こいつになら言ってもいいだろ……

(;*゚∀゚)「あ、あのさ」

ミ,,゚Д゚彡「何?」

(;*゚∀゚)「夢みたいなもんねえか?」

ミ,,゚Д彡「……夢…………か……昔はあったんだけどね…………安定した収入を得られれば……
……夢なんて消えちゃうよ…………」

……上を向いて……どこか寂しそうだな…………

フサのこんな顔は見たくなかった……


(;*゚∀゚)「お、俺は、俺は世界を平和にしたい!」

フサなら聞いてくれるだろ?

15 :極夜 ◆y1TBgQ3JzI:2007/02/09(金) 21:14:11

ミ,,゚Д゚彡「世界を平和に……? 凄いじゃないか」

ミ,,^Д^彡「できるよ。つーちゃんなら」

フサは笑ってそう言ってくれた。


(;*゚∀゚)「あ、ありがとよ…………」


その笑顔…………見たくなかったぜ……



ミ,,゚Д゚彡「つーちゃん、だっけ? 俺、フサって言うんだ」

ミ,,^Д^彡「よろしくだから」



その顔みたらさぁ………………

…………お前に甘えちまうだろうがよぉ…………

………………世界を平和に……出来なくなるだろうがよぉ…………

できるなら……笑い飛ばして……


……もっと、俺を寂しく孤独な世界に投げ飛ばしてくれればよかったのによぉ!…………

16 :極夜 ◆y1TBgQ3JzI:2007/02/09(金) 21:15:42

(* ∀ )「……フサ……」

ミ,,゚Д゚彡「……ん? 何?」

(* ∀ )「…………俺、もう帰るわ……ちょっと店の用事……まだ残ってた……」

ミ,,゚Д゚彡「……そうか、……残念だから……」

残念がってくれるのか……俺は…………ホントに馬鹿だよな……

(* ∀ )「……ギコ……帰るわ……今日はありがとうな」

( ,,゚Д゚)「どういたしまして」


外。

ひんやりとした空気。凍えちまいそうだ。

なんでフサに会っちまったんだろ…………

会いたかった…………でも会うべきじゃなかった……

会いたくなかった…………

もう、後戻りは出来ないんだぜ?……

遅すぎるんだよ…………フサ……!

(* ∀;)

なんでもっと早く会ってくれなかったんだよ!!

17 :極夜 ◆y1TBgQ3JzI:2007/02/09(金) 21:16:50

……家か……

かまど…………ハンマー………………

……何も無かった…………




………………庖丁作っても何も無かったんだよ!!


俺は寂しさを、紛らわしていただけだったんだよ……


ホントはなぁ…………庖丁なんかよりも大切なものはたくさんあったんだ…………


月の光に当ててみてもお前の輝きは美しいよ…………


……………………美しいだけだった…………


……今頃気づいてどうすんだよ!!




もう寝る。

今日は活動もお休みだ。

18 :極夜 ◆y1TBgQ3JzI:2007/02/09(金) 21:17:43

…………「つーちゃん?……つーちゃん?……」…………

フサか?! なんでここに?

「世界を平和に…………できるよ……つーちゃんなら……」

フサ…………そう言ってくれたよな…………

そうだ、俺は夢を叶えなきゃいけねえんだ…………

フサのためにもな…………

独り善がりか…………


……でも、……フサも平和は好きだろ……?

なんで俺が世界を平和に……? なんで出来ると思ったんだ……?

フサは社交辞令とか言うんだろうか…………

……フサ…………お前は見かけによらず酷いよな…………

酷すぎるぜ………………こんなに俺を悩ませるなんてな…………


「俺、もう行くから……」

……え? もう行くのか?……

夢の中のフサじゃ何にもならねえしな…………



それでも…………

…………いや、この先言うと俺は駄目になる……やめとこ……

19 :極夜 ◆y1TBgQ3JzI:2007/02/09(金) 21:18:59


朝。

いつもと変わらねえ。

早く仕事の準備しなくちゃな…………

昨日は一本しか売れてねえ…………

……そりゃ自営業は大変だわな……

自分ひとりで生きていかなくちゃならねえ…………

俺は慣れてる。

慣れたくない。フサの所為でそう思った。

フサの野郎…………

お前のことはもう忘れてやるんだぜ…………悲しいだろ?……


悲しいのは俺だけだよな…………

もう戻れないんだ…………

世界を救わなきゃ…………

一度言い出したことだ…………簡単には曲げねえぜ…………

平和な世界……お前も好きだよな……

じゃあ、どっちみちいつかはこうなる運命だったんだ…………