19 名前: ◆Ciy/3xg8GY :2007/09/12(水) 22:51:50.10 ID:0zBPPdMK0
四日目
どうやら僕は完全にツンに惚れてしまったようだ。
朝から彼女のことが頭から離れない。
初めて恋というものを知った。
普通とは違う甘美な憂鬱に浸りながら、彼女の顔が浮かんでは消える。
彼女に会いたい。
20 名前: ◆Ciy/3xg8GY :2007/09/12(水) 22:54:22.76 ID:0zBPPdMK0
気づいた時、あの湖に足を運んでいた。
ここにくればまた彼女に会えるかもしれない。
微かな、しかし確信めいた考えだった。
彼女にに再び出会うために彼に出来ることは、これしかないから。
しかしもしものことを考えて、あまり期待しすぎないようにした。
自分でも恥ずかしいくらい臆病だと思った。
そしてその期待は、違った形で裏切られるのだった。
21 名前: ◆Ciy/3xg8GY :2007/09/12(水) 22:55:50.64 ID:0zBPPdMK0
彼女を待つ間、湖のほとりを散策することにした。
そして凄く高い木を見つけた。
この周辺で一番だろうか。
その上から見えるのは息を呑む絶景。
この景色をツンと一緒に、そう思った。
22 名前: ◆Ciy/3xg8GY :2007/09/12(水) 22:56:34.77 ID:0zBPPdMK0
ずっと木の上で待ち続けた。
気づけば湖は赤く染まり、昼間とは違った美しい景色を映し出していた。
今日は来ないのか。期待しすぎないようにしてはいたものの、少なからずショックはあった。
諦めかけていたそのとき、木々の間からツンが現れた。
28 名前: ◆Ciy/3xg8GY :2007/09/12(水) 22:58:58.34 ID:0zBPPdMK0
心臓が一気に跳ね上がった。
昨日は普通に話していたのに、女性として意識するだけでこんなにも変わるものなのか。
しかし次の瞬間、彼の頭の中は真っ白になった。
ツンに続いて姿を現した男。
なにやら話をしていた。
29 名前: ◆Ciy/3xg8GY :2007/09/12(水) 22:59:31.48 ID:0zBPPdMK0
( ゚∀゚)「ここ・・・か?・・・だし・・・」
ξ゚听)ξ「え・・・わか・・・しょう・・・」
遠くて断片的にしか聞こえなかったが、親しい間柄だということは分かった。
これ以上何も見たくない。
墨を落としたように黒く染まった湖に背を向け、静かに寝息を立てた。
四日目終了
30 名前: ◆Ciy/3xg8GY :2007/09/12(水) 23:00:12.70 ID:0zBPPdMK0
五日目
目が覚めてからも、昨日から気分は沈んだままだった。
気分転換に公園に行くことにした。
あそこにはいい思い出はないが、何でもいいから気を紛らわせたかった。
気持ちの晴れないまま、公園へと歩を進めた。
31 名前: ◆Ciy/3xg8GY :2007/09/12(水) 23:01:19.27 ID:0zBPPdMK0
早朝なだけあって、公園は閑散としていた。
体に纏わりつく朝霧を心地よく感じつつ、適当な場所に座り込んだ。
気持ちを整理しようとすればするほど、絡まる糸のように余計に複雑になった。
諦めてぼうっとただ前を見つめていると、霧の向こうから声が聞こえてきた。
33 名前: ◆Ciy/3xg8GY :2007/09/12(水) 23:01:49.08 ID:0zBPPdMK0
(*゚ー゚)「朝は気持ちいいね。ギコ君どこか行きたいところある?」
(,,-Д-)「・・・」
なんだ、あの時のカップルか。朝からイチャイチャしやがって。
今の自分の立場もあり、軽い嫉妬を覚えた。
しかしすぐにおかしなことに気がついた。
36 名前: ◆Ciy/3xg8GY :2007/09/12(水) 23:03:03.27 ID:0zBPPdMK0
(*゚ー゚)「湖は昨日行ったし・・・他のところにしようよ」
(,,-Д-)「・・・」
女が一方的に話しかけていた。
それに対して男の反応はない。いや反応できないのだ。
ブーンは全てを悟った。それと同時に酷い吐き気を催し、その場に嘔吐した。
頭痛がする。少し横になろう。
湖に戻ろうと決めた頃には、陽は頭上に昇っていた。
38 名前: ◆Ciy/3xg8GY :2007/09/12(水) 23:04:12.60 ID:0zBPPdMK0
湖で顔を洗うと、幾分気持ちが楽になった。
自分の顔を思い切り叩いた。
絡まっていた糸がすうっと解けた。
揺るがぬ決心を胸に抱き立ち上がる。
湖面には今までとはどこか違う顔が映っている。
分かっている。
自分に残された時間が少ないことを。
五日目終了
40 名前: ◆Ciy/3xg8GY :2007/09/12(水) 23:05:24.97 ID:0zBPPdMK0
六日目
もう心に決めた。
しかし相手がいなくては、その気持ちは伝えられない。
朝からずっとそこら中を飛び回っている。
この際、道に迷うことなど気にしていなかった。
心身ともに疲弊しきっている彼を動かすのは、
彼女に会いたい、という気持ちだけだった。
41 名前: ◆Ciy/3xg8GY :2007/09/12(水) 23:06:39.45 ID:0zBPPdMK0
散々探したけど、最後に行き着く場所は決まっていた。
そして、そこに彼女がいることも、なんとなく分かっていた。
小さな影。
そっと寄り添う少し大きな影。
静かな湖には、夕暮れを告げる鳥の声と、鼻をすする音だけが響いていた。
42 名前: ◆Ciy/3xg8GY :2007/09/12(水) 23:07:34.63 ID:0zBPPdMK0
( ^ω^)「久しぶりだお」
声が震えているのが、自分でも分かった。
ξ゚听)ξ「そうね・・・」
驚きはなかったみたいだ。
それとも、表情に出さないだけだろうか。
( ^ω^)「ずっと探してたんだお」
気持ちを伝えるために。
43 名前: ◆Ciy/3xg8GY :2007/09/12(水) 23:08:51.31 ID:0zBPPdMK0
ξ゚听)ξ「なによそれ・・・」
不機嫌そうな返答にも、どこか丸みがあった。
( ^ω^)「笑うお。せっかくかわいい顔してるんだから、泣いてちゃ勿体無いお」
自分でもこんなことが言えたのが不思議だった。
ξ゚ー゚)ξ「大きなお世話よ」
44 名前: ◆Ciy/3xg8GY :2007/09/12(水) 23:09:47.49 ID:0zBPPdMK0
笑った。
初めて笑顔を見た。今日の疲れはどこかへ飛んでいってしまった。
小さな影。
そっと包み込む少し大きな影。
静かな湖には、季節を告げる虫の声と、小さな嗚咽だけが響いていた。
六日目終了
45 名前: ◆Ciy/3xg8GY :2007/09/12(水) 23:10:46.88 ID:0zBPPdMK0
いつも通りの夕方。
いつも通りの湖。
少し違うのは、
隣に愛する人がいること。
( ^ω^)ブーンが大人になったようです 七日目
46 名前: ◆Ciy/3xg8GY :2007/09/12(水) 23:11:43.22 ID:0zBPPdMK0
ツンが全てを話してくれると言った。
ブーンは全てを受け止めると言った。
二人の間を隔てるものはもう何もなかった。
やがて彼女は、ゆっくりと口を開く。
47 名前: ◆Ciy/3xg8GY :2007/09/12(水) 23:12:49.24 ID:0zBPPdMK0
ξ゚听)ξ「私数日前に、木に引っかかって大怪我をしたの・・・」
一つ一つ言葉を探して、時間をかけて紡ぎだしていた。
ξ゚听)ξ「幸い命に別状はなかったの。でもその代わり・・・」
彼女は覆っているものを退け、背中を見せた。
右肩から腰にかけて、痛々しい傷跡があった。
ξ゚听)ξ「少し前にね、私のことを好きって言ってくれる人がいたの。」
その先の話は、なんとなく想像がついてしまった。
49 名前: ◆Ciy/3xg8GY :2007/09/12(水) 23:14:23.12 ID:0zBPPdMK0
ξ゚听)ξ「その人とね・・・子どもをつくろうって話しになってね・・・」
今にも泣き出しそうな彼女の小さな背中をそっとなでた。
ξ;;)ξ「傷を見られたら嫌われるような気がして、それで・・・」
( ^ω^)「もういいお・・・よく話してくれたお」
そっと立ち上がりツンの手を握った。
キョトンとしている彼女を抱き起こして、引っ張りながら走った。
ξ゚听)ξ「ちょっ、なによいきなり!」
( ^ω^)「見せたいものがあるお」
51 名前: ◆Ciy/3xg8GY :2007/09/12(水) 23:15:50.92 ID:0zBPPdMK0
木の上から見る景色は、心なしかあの日よりも綺麗に思えた。
ξ゚听)ξ「きれい・・・」
その後暫く、二人は景色に見惚れていた。
沈黙を破ったのはブーンの方だった。
( ^ω^)「もう一度、その人に会ってみるといいお」
勝手ながら、それが彼女にとって一番いいことだと思った。
( ^ω^)「ツンはきっと大丈夫だお。自信を持つお」
これでいいんだ。これで。
52 名前: ◆Ciy/3xg8GY :2007/09/12(水) 23:16:27.89 ID:0zBPPdMK0
ξ゚听)ξ「ありがとう・・・」
言葉は要らなかった。ただただ彼女を、強く抱きしめた。
太陽が静かに時間切れを告げた。
ツンも、全てを理解しているようだった。
53 名前: ◆Ciy/3xg8GY :2007/09/12(水) 23:18:05.07 ID:0zBPPdMK0
( ^ω^)「ばいばいだお」
ξ゚ー゚)ξ「ばいばい」
54 名前: ◆Ciy/3xg8GY :2007/09/12(水) 23:19:21.47 ID:0zBPPdMK0
最期にツンの笑顔が見れてよかった。
唯一心残りなのは、愛してると云えなかったこと。
世界が180度回転した。
風に煽られた体から、大人の証である薄い羽が剥がれ落ちた。
( ^ω^)ブーンが大人になったようです 完