曼珠沙華


拍手ログ 11
11/11/03 17:42

■惜別は終焉より遥かに

 昨日まで、息をするのも辛かった。
 けれど今はあれ程苦しかった身体の具合もすっかり直っていた。
「治った」のではなく「直った」のだ。分減保全によって欠落、混乱していた記憶もかっちりと「修復」された。
 荒廃した大地をより一層寒々しく見せる朱く焼けた空に浮かぶエフィネアを仰ぐ。
 記憶を失っている間ずっと感じていた違和感はやはり自分は人ではなかったという事で。
 ずっと抱えていた不安は――。
「ソフィ」
 シャトル格納庫で考えに耽っていたら背後から名を呼ばれ、振り向けばアスベルが気遣わしげに歩み寄って来ていた。
 自分一人を救う為に世界を駆け回るどころか星をも超えるような彼だ。未だ体調は万全ではないのではと心配しているのだろう。
 ――それとも。
 何処かで、気取らせてしまったのだろうか。
 駄目。
 これ以上は心配かけたくないと思う気持ちが一層口を噤ませ、上げていた顔を俯かせた。それがまた裏目に出たらしい。アスベルが顔を覗き込んで頭を撫でた。
「大丈夫か? まだ気分が悪いんなら早く休んだ方がいい」
「ううん、平気だよ。アスベルや、みんなのお陰で良くなったから」
「ならいいんだが……」
「大丈夫」
 眉尻を下げたままのアスベルの顔を見上げて笑ってみせる。
 大切な友達。
 シェリアも、ヒューバートも、教官も、パスカルも。
 ……リチャードも。
 皆みんな大切。
 だから。
「明日、私頑張るね」
「ああ、皆も協力してくれるんだ。絶対うまくいくさ」
「うん」
 早くエフィネアへ、と逸る気持ちは仲間の誰もに共通している想いだ。
 そう。明日、全部解決できる。
 掌を胸に充ててすうと息を吐く。乾いた空気が胸を掠った。
 ラムダを倒せばリチャードは元に戻る。あの優しかったリチャードに。
 ずっと抱えていた不安は、安堵に変わっていた。
 リチャードに対して抱いていた殺意は、彼に寄生したラムダへのそれであったという事実に。決して友達を殺したいと思っていたのではないのだと。
 安堵の裏には恐怖があったが、それは避けられない事であり、目的の達成を思えば些末な事だった。
「さあ、体が良くなったって、いい加減休まないとな」
「そうだね、そろそろ」
 同意したら安心したのだろう。休憩室に向かって先に歩み出したアスベルを呼び止める。
「アスベル」
「ん?」
「絶対、リチャードを助けようね」
「ああ、勿論だ」
 振り返って微笑み、再び先に行くアスベルの背に声には出さずに誓う。
 大丈夫。
 僅かに震える手をぎゅっと握って、その拳で胸を押さえた。
 恐く、ない。これが私の使命。


 皆、私が守るから。










フォドラでソフィ治して明日繭に突っ込むZE!てシャトル格納庫。
シェリアはログアウトしました。
最近の更新てソフィばっかり。
しかし対消滅とかえぐいよね。
この時はまだ「悲しい」が分からなかったソフィですが、恐怖も感じてなかったのかなあ。











 触れられなかったのは、触れる事を拒んでいたのは、お互いだ。
 漸く漸く、触れ合う手と手は幼い日の彼と交わした誓いのまま。
「リチャード、平気?」
「助かったよ、ソフィ」
 表情険しく反目しあっていたのもまたお互いに。
 だけど今。
 重ねた手の温かさと、合わさった目がその瞬間にふわりと柔らかく溶けるのがあんまり嬉しくて、ソフィも笑んだ。










勝利掛け合いの「リチャード怪我してる」と「リチャード怪我してるFuture」はドラマですね。











 荒れ果てた大地を一層侘しく見せる蒼天の元、一人幽鬼の如く彷徨う。
 艶を失った長髪はばさばさで風に嬲られるがままに。
 一対の紅玉を飾る瞼には隈が刻まれ、皹割れた唇が何を呟いているかを聞く者はいない。
 涙など、涸れた。
 いや、涙など、要るものか。
 その、人である証がいつか頬を伝った痕が残っている気がして、疎ましさと言葉に表せぬまでの激しい嫌悪に乱暴に腕で擦る。何度も繰り返された行為に、肌理細かであった肌も皮が浮いている。
 だが、頓着するだけの価値もない。こんな、もの。
 流れるな。
「私は、」


 人間でありたくない。


 たった独りで呟く声は、この大地が亡んだが故に、何より彼が望まぬが故に、誰にも届きはしない。
 手にした剣が、枯渇しきったエアルを尚吸って、羽虫に似た唸りを微かに上げる。
 それだけだ。
 皹割れた唇から、血の味が滲んだ。











エルシフル亡くしたばっかのデューク。
壊れたおっさんみたいにふらふらしてたかも知れん。の妄想。











「アスベル、どうしたんだ? 顔色が悪い様だけど」
「はは……ちょっと寝不足なだけさ」
「大丈夫なのかい? 仕事が忙しいなら会う日取りをずらしてもよかったのに」
「忙しいのはお前もだろ。それに、仕事じゃなくて」
「仕事じゃない?」
「リチャードに前に言われた通りだった」
「何か言ったかな?」
「ラムダとしりとりはしちゃ駄目だって」
「え? しりとり?」
「ああ、試しに教えてみたら一晩中付き合わされてさ……はぁ、参った」
「……そうか……それは、大変だったね……」










 ――おい、まだ終ってないぞ。次は『そ』だぞ。
「なぁ、ラムダ……そろそろ……」
 ――そろそ『ろ』だな。よし、蝋燭の『く』だ。寝るなと言っているだろうが!
「……う〜」

みたいな。
ずっと寝てたから一度目が醒めると容易に寝られないラムダ。
オチとか気にしない。











 あいつと同じだ。
 空色の光の羽。
 あいつの羽は嫌いだ。そもそもあいつが嫌いだ。
 色は違うけど自分の背に負う羽も美しいだなんて思った事はねえし。
 っつうか天使ってのはどいつもこいつも大っ嫌いだからよ。だったら特有の羽だってそりゃ嫌いだろ。
 ガキの頃、あいつの気紛れで一度背負われて飛んで貰った事だって今じゃあ糞みてえな思い出だ。
 糞ばっかだ。天使なんて。
 だからこんな羽なんて、何色だってよ。綺麗だとか思わねえ。
 だけど。
「ロイドくんの羽ってでっかいよなあ」
「なんかなー。何か分かんねえけどでかいよな」
 こいつは羽が生えたからって特に何とも思ってないんだろうな。
 そこら辺も、こいつらしい。
 だからか、あいつと同じなのに、天使と同じなのに、こいつのだけは……綺麗だな。


「なあ! ゼロス、俺の羽ってさ」
「なによ?」
「お前の眼と同じ色だよな」
「……!」
「自分で言うのもなんだけど綺麗だよなー」
 お前の眼も綺麗だもんなー。


 天使なんか糞喰らえだ。
 羽なんか大っ嫌いだ。
 それが何色だって天使は天使だろ。
 なのによ。
 お揃いとか言われて(しかも野郎に!)意外と嬉しかったとか、ホント、俺様も現金だねえ。










ロイドに弱すぎるゼロス。






|
subscription



top


-エムブロ-