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オリジンの審判を超えた二人はただ言葉なく互いに手を取り合った。
証の歌を歌いながらルドガーがエルを見れば、涙を流しながらもエルは笑った。
その辛さを表に出さんとする幼さに余りある気丈さは、だからこそ時に過剰に心配してしまう要因でもあった。
けれど、その明るさと強さにはそれ以上に救われていたのも事実で。
いや、いつだとて救われていたのはこちらの方だったと。
思い改めればエルを喪わずに済んだことに対する安堵すらも忘れ、その微笑みに釣られ微笑み返していた。
エルの笑みが濃くなる。そしてこの笑顔にたった今、この消滅の時までも救われたと気付くのだ。
噫、本当に、よかった。
正直エルと出会ってから自身に振りかかった災難と迫られる選択は身が千切れるような辛いそればかりだった。
けれどエルを守る強さを得るための旅であったと思えばこの結末こそは最上の――。
いいや、結末ではなく、これからが始まりなのだ。
酷く穏やかな自身の心に満足すれば、その一瞬にルドガーは夢を見た。
視界に収まり切らない広大な大地は緑に覆われ、海は空と見分けがつかない程蒼く澄んでいる。
年嵩の猫が潮と青草の匂いの混じった柔らかな風に吹かれながらまったりと寝ている。隣でその子供と思しき仔猫がにゃあと啼けば、亜麻色の長いツインテールを揺らしながらすらりとした少女が駆けてくる。
少女の碧の双眸は笑みに細められ、風に乗せて流すのは証の歌。
――さあ、君の願いを叶えよう。
聴こえてきた声に頷き返せばオリジンの力が放たれ、光が溢れる。
ルドガーが描いた夢の中。そこに彼自身はいなかった。けれどその夢は、これから紡がれる未来はとてもとても優しくて、温かくて、ルドガーは満ち足りた想いで目を閉じた――。
緑豊かな大地は源精霊の普及の賜物だった。
大自然という、エレンピオスでは遥か昔に忘れられていた筈の単語がリーゼ・マクシアより伝わり、ごく日常の会話でも使われ始める程に世界は回復していた。
潮騒に耳を傾けながら青々とした丘に腰を下ろしていた少女は、弁当代わりのよく熟れたトマトの最後の一口を口に放り込み、甘みをよく味わってから飲み込むと思い切り伸びをした。
これから仕事だ。
ポケット中の懐中時計にそっと触れ、弾けるように立ち上がれば少女は蒼穹を仰いで歩みだした。
碧の双眸が空の青を映す。大切な人が守ってくれた世界。大好きな人が守ってくれた空だ。
「私の世界を作りに行ってくるよ。――見てて」
短い言葉の後に続く少女のハミングが風に乗って流れていく。
遥かに高い空までも、遥かに続く未来までも。
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