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午前二時の廃病院

3年ほど前の事は以前に書いたのですが、これは僕がそれ以前に体験
した話です。忘れもしない、それは僕が大学3年の夏の話です。

僕はいくつかのバイトを掛け持ちしていたのですが、
その一つに学校の近くにある居酒屋でのバイトがありました。
そこでは同じ学校の生徒が多く働いており、必然的に仲良くなりよく遊びに
行くようになりました。特に仲良くなったのが同じ下宿生活をしていた
IとTでした。
あるとき僕の家で飲んでいたときのことでした。
Iが突然「心霊スポットでも行こうか」と言い出しました。
話を聞くと、同じ学科の友達からの情報で、地元では有名な
いわゆる「よく出る」スポットだそうです。
僕達は酒に酔っていたのも手伝って行こう行こうということになりました。
そのとき僕達はIとIの彼女A子(としておきます)とTと僕の4人でした。


僕とI,A子はA子が運転する軽自動車で、Tは原付で
行くことになりました。
 そこはK市にある廃墟になった病院でした。病院は白色
の3階建てで横に広い大きな物でした。
壁は所々剥れて窓ガラスは割れ、あちこちに落書きがしてありました。
僕達は正面玄関の前に車をとめ、持参した懐中電灯で中を照らしました。
いかにもといった感じの建物でしたが「幽霊より族の方が怖いよな。」
と冗談を言い合いながら僕達は中に入って行きました。

正面玄関のドアはガラスが割れ、鉄の枠だけになっていました。
そこをくぐるように抜けると正面に受付がありました。
受付の中は書類のようなものが散乱し、受付の横にあるロビーには
ジュースの缶や瓶が散乱していました。
受付を中心に左右に通路が続いていました。
左右の通路にライトを当てて見ると
左側に診察室が右には食堂や売店の文字が見えました。
僕達は誰ということも無しに、左側の診察室の方に足を向けました。


通路の両側に診察室があり、内科・耳鼻咽頭科等々部屋毎に
プレートが貼ってありました。
僕達は内科の診察室の中に入ったのですがやはり荒らされており
医療器具らしきものもありいかにもという感じでしたが、
ここも落書きがひどく、怖いという感じはしませんでした。
僕達はがっかりという感じでそこを出ました。
もう帰ろうかと思ったのですが、せっかく来たので
もう少し探検してみようということになり、
ロビーの前に2階に続く階段があったのでそこを上がってみることにしました。
2階は以外と綺麗で落書きも余りありませんでした。
左右の通路を照らしてみるとそこは入院用の部屋として使われていたようです。
僕達は右側の通路を選び一番手前の部屋を覗きました。
部屋にはパイプベッドが4つあり正面に時計が書けてあるぐらいで、
何も変わったことはありませんでした。
僕達は次々に部屋を覗いて行きました。
幾つ目だったでしょうか、僕はあることに気がつきました。
部屋の時計がすべて2時でとまっているのです。
僕は自分の時計を見てみました。2時をさしていました。
恐ろしくなった僕はそのことをみんなに話しました。
すると皆「偶然だろ」と取り合ってはくれません。
更に奥の部屋へと進んでいきます。
やはりどの部屋の時計も2時で止まっていました。
流石に気味が悪くなったのでしょうか、戻ろうということになりました。
その時です。


通路の反対の方から「カツン、カツン」という音が
ははっきり聞こえてきました。
タイルの上をヒールかブーツで歩くような・…。
皆顔を合わせると一斉に走り出しました。
僕は部屋部屋の時計を横目で見ながら走りました。
時計は確かに2時を指していました。
階段を駆け下り玄関を抜けて一目散に車に向いました。それでも
「カツン、カツン」という音は徐々に大きく聞こえてくるのです。
まるで頭の中でこだまが響いているように。僕達が走るよりも早く。
徐々に近づいてくるように。
慌てて車に乗りこみエンジンがかかった時、車が少し
「ガァクン」と動くのを感じましたが、そんなことは気にもならず
一刻も速くそこから逃げ出したい気持ちで一杯でA子に
「早くだして!!」と怒る様にIが叫びました。
ものすごい勢いで車は病院の敷地から抜け出しました。
一人で原付に乗っているTのことが心配でしたが、そのときは
それよりも早くそこを抜け出したいという気持ちでいっぱいでした。
敷地を抜け狭い一般道に入った時車の横をTの原付が
走り抜けていきました。
僕は大分冷静さを取り戻していたので、Tの姿をみてホッとしましたし、
もう大丈夫だろうとスピードも落として走っていました。
しかし、Tはフルスロットルで走り抜けていきましたが、
あっと思うまに横転してしまいました。
幸い擦り傷程度で済みましたが、ヘルメットを脱がすと
顔色は真っ青でした。彼は見たのです。
僕達の車の後に髪の長い女がへばりついていたのを。
僕は車にTを乗せ、変わりに原付に乗って取り敢えず僕の下宿先に
行こうということになりました。
その夜は流石に一人でいるのは怖かったので
みんな僕の家に泊まっていくことになりました。


朝になるとTも大分落ちついて、皆家路につきました。
僕も昨夜のことは忘れようと思ったときでした。
家の電話に留守電のライトが点滅していました。
そういえば昨日は気がつかなかったな、と思いながらボタンを
押したのです。
「(一件です。)・……………………・……ころしてやる・・…(午前2時0分です。)」
押し殺したようなだみ声が僕の部屋に響きました。
恐ろしくなった僕は受話器を手に取ろうとしたときです。
電話が鳴りました。恐る恐る受話器を上げると電話はTからでした。
Tは僕に震える声でこういいました。
「・・…もしもしおれ…、実はいま家に帰ったら留守電に・・……」


倉庫

この体験は、私が小学生の4〜5年生の時の出来事です。
季節は秋から冬へ替わる時期でした(多分10月から11月にかけてかもしれない)。

私の母校の近くに倉庫がありまして、その頃は学校の怪談やオカルトチックな話が
好きな友人と一緒に「期末テストが終わったら、あの倉庫に行かへん?」と、ちょっとした
探険隊ごっこを計画していました。

そして期末テストが終わり、例の倉庫を探索する日になりました。
メンバーは私を含め5人です。私達は夜中にうまく家を抜け出して、倉庫の前の広い駐車場に
集まりました。友人の話では、その倉庫はオバケが出ると有名な所です。
私達は恐る恐る中に入りました。

倉庫の中は、案の定真っ暗でカビ臭く、もうすぐ冬だというのにジメジメしています。
「なんか出そうやなぁ」と友人はワクワクして言い、私達5人はまず2階に上がろうと思い
2階へと登る階段を捜していた所、1人が「ひぃっ!」と言ってその場に座り込んで
しまったのです。私達は「一体何が起きたんだ!」と思い、へたれこんでいる友人を見ました。
そこには単にひび割れた等身大のガラスがあって、私の友人は自分の姿を見てビックリ
しただけでした(笑)

早速彼を起こして、2階の階段を捜していた所「お〜い、あったぞ〜。」と友人。
そして私達は2階に登りはじめました。


その階段は人1人が通れる位のスペースしかなく、皆1列に列んで登ってゆきます。

ギィコ...ギィコ...ギィコ...ギィコ...ギィコ...

階段の床は木の板が貼ってあり、踏むと音が鳴るのです。

ギィコ...ギィコ...ギィコ...ギィコ...ギィコ...

階段の踊り場についた時に、シミの漬いた壁には小さな鏡がありまして、懐中電灯の光が
反射して皆の姿がうっすらと見えます。
「あれぇ?5人で来たよなぁ」と私。
鏡に写る皆の姿がおかしいのです。しかし、悲しいかな子供と言うのは深く物事を考えない
のであります。だが、これがすべての始まりでした。

2階に到着した私達は、念のため点呼を採る事にしました。
「?山」「はーい」(伏せ字ですんません<(_ _)>)
「?崎」「はーい」
「?本」「はーい」
「野?」「はーい」(と私を入れて計5人)

「よーし。じゃあ出発!」ずんずん奥へと進みます。だが皆の足音がなんかおかしいのです。
正確に表現するのは難しいのですが、例えて言うなら軍隊が行進する様な足音がするのです。
しかし、その原因不明な足音はかすかに聞こえてくるので、私以外は聞こえていない様子でした。
それにしてはやけに足音が近くで鳴っているので、怖がりな私はいよいよ怖くなってきました。
その足音は、我々の後を追いかけている様な気がしたからです。

我々一行は、2階の角部屋に到着しました。男子トイレです。
「おお〜。いかにも出そうなところやな〜。どう?1人ずつ入ってみようや」
野?君が言いました。私達はジャンケンをして、負けた人から順に中の様子を探って
こようという事になりました。1人、2人、3人、、、ついに私の番が来ました。

キィ〜、、、

中は意外に荒れていなくて拍子抜けしました。長方形の部屋に窓がひとつ。その夜は曇りで、月は雲に隠れていて
しんしんとした暗闇が広がっているだけです。懐中電灯の灯りだけが頼りでした。
その時「ザンザンザンザンザンザン...」例の足音が聞こえてきました。
その足音は私の周りを廻っています。

ザンザンザンザンザンザン...

やっと事の重大さに気付いた私は飛び出る様に男子トイレを後にしました。


私はこの変な出来事を皆に話しました。話し終えると1階で鏡の自分で驚いた友人が
「そういえば、なんかわからへんけれども、さっきからジッと誰かに見られてる様な
気がして、嫌やねん」との事。彼が言うには、360度からずっと視線を感じていたそうで
気が重かったそうです。皆が口々に「、、、出たか?、、、」と言うと皆一斉に寒気を
感じました。言葉では言い表せないプレッシャーを360度すべてから身体が感じていました。
その時

ザンザンザンザンザンザン...

ザンザンザンザンザンザン...

ザンザンザンザンザンザン...

顔にまとわり付く様な嫌な空気が、、、

ザンザンザンザンザンザン...

今度は皆にも聞こえる様です。

ザンザンザンザンザンザン...

友人が「か、帰ろう」と言うと、皆もそれに賛同してゆっくりと来た道を引き返す事に
しました。出口に向かう間ずっとあの足音は私達の後をついてきます。
慎重に階段を降り、1階に着きました。そして皆は走って倉庫を後にしました。
何故か私は走って出口に向かうと背中を引っ張られる様な感覚があり、気味が悪くなって
一目散に走り抜けました。

皆無事に出て来たところで倉庫の方を振り向いて見てみました。そこには
無数の人影が 2階の窓から私達を見ているのです。
街灯も殆ど無いというのに、ハッキリと見えました。
(終わり)

あの頃の体験は今でもゾっとします(泣)
私が今も鮮明に覚えている事は
その内の一体(1人?)が「にやり」と笑った気がして、、、

非常階段

数年前、職場で体験した出来事です。
 そのころ、ぼくの職場はトラブルつづきで、大変に荒れた雰囲気でした。普通
では考えられない発注ミスや、工場での人身事故があいつぎ、クレーム処理に追
われていました。朝出社して、夜中に退社するまで、電話に向かって頭を下げつ
づける日々です。当然、ぼくだけでなく、他の同僚のストレスも溜まりまくって
いました。

 その日も、事務所のカギを閉めて、廊下に出たときには午前三時を回っていま
した。O所長とN係長、二人の同僚とぼくをあわせて五人です。みな疲労で青ざ
めた顔をして、黙りこくっていました。
 ところが、その日は、さらに気を滅入らせるような出来事が待っていました。
廊下のエレベーターのボタンをいくら押しても、エレベーターが上がってこない
のです。なんでも、その夜だけエレベーターのメンテナンスのために、通電が止
められたらしく、ビル管理会社の手違いで、その通知がうちの事務所にだけ来て
いなかったのでした。
 これには、ぼくも含めて、全員が切れました。ドアを叩く、蹴る、怒鳴り声を
あげる。まったく大人らしからぬ狼藉のあとで、みんなさらに疲弊してしまい、
同僚のSなど、床に座りこむ始末でした。
「しょうがない、非常階段から、おりよう」
 O所長が、やがて意を決したように口を開きました。
 うちのビルは、基本的にエレベーター以外の移動手段がありません。防災の目的
でつくられた外付けの非常階段があるにはあるのですが、浮浪者が侵入するのを防
ぐため、内部から厳重にカギがかけられ、滅多なことでは開けられることはありま
せん。ぼくもそのとき、はじめて階段につづく扉を開けることになったのです。

 廊下のつきあたり、蛍光灯の明かりも届かない、薄暗さの極まった
あたりに、その扉はありました。非常口を表す緑の明かりが、ぼうっ
と輝いています。
 オフィス街で働いたことのある方ならおわかりだと思いますが、ど
んなに雑居ビルが密集して立っているような場所でも、表路地からは
見えない、「死角」のような空間があるものです。
 ビルの壁と壁に囲まれた谷間のようなその場所は、昼間でも薄暗く、
街灯の明かりも届かず、鳩と鴉のねどこになっていました。
 うちの事務所は、ビルの7Fにあります。
 気乗りしない気分で、ぼくがまず、扉を開きました。
 重い扉が開いたとたん、なんともいえない異臭が鼻をつき、ぼくは
思わず咳き込みました。階段の手すりや、スチールの踊り場が、まる
で溶けた蝋のようなもので覆われていました。そしてそこから凄まじ
くイヤな匂いが立ち上っているのです。
「鳩の糞だよ、これ……」
 N女史が泣きそうな声でいいました。ビルの裏側は、鳩の糞で覆い
尽くされていました。まともに鼻で呼吸をしていると、肺がつぶされ
そうです。もはや、暗闇への恐怖も後回しで、ぼくはスチールの階段
を降り始めました。

 すぐ数メートル向こうには隣のビルの壁がある、まさに「谷間」の
ような場所です。足元が暗いのももちろんですが、手すりが腰のあた
りまでの高さしかなく、ものすごく危ない。足を踏み外したら、落ち
るならまだしも、壁にはさまって、宙吊りになるかもしれない……。
 振り返って同僚たちをみると、みんな一様に暗い顔をしていました。
こんなついていないときに、微笑んでいられるヤツなんていないでし
ょう。自分も同じ顔をしているのかと思うと、悲しくなりました。
 かん、かん、かん……。
 靴底が金属に当たる、乾いた靴音を響かせながら、ぼくたちは階段を
下り始めました。

 ぼくが先頭になって階段をおりました。すぐ後ろにN女史、S、
O所長、N係長の順番です。
 足元にまったく光がないだけに、ゆっくりした足取りになりま
す。みんな疲れきって言葉もないまま、六階の踊り場を過ぎたあ
たりでした。
 突然、背後からささやき声が聞こえたのです。
 唸り声とか、うめき声とか、そんなものではありません。
よく、映画館なんかで隣の席の知り合いに話し掛けるときに、話
しかけるときのような、押し殺した小声で、ぼそぼそと誰かが喋
っている。
 そのときは、後ろの誰か――所長と係長あたり――が会話して
いるのかと思いました。ですが、どうも様子がへんなのです。
 ささやき声は一方的につづき、ぼくらが階段を降りているあい
だもやむことがありません。ところが、その呟きに対して、誰も
返事をかえす様子がないのです。そして……その声に耳を傾けて
いるうちに、ぼくはだんだん背筋が寒くなるような感じになりま
した。
 この声をぼくは知っている。係長や所長やSの声ではない。
 でも、それが誰の声か思い出せないのです。その声の、まるで
念仏をとなえているかのような一定のリズム。ぼそぼそとした陰
気な中年男の声。確かに、よく知っている相手のような気がする。
でも……それは決して、夜の三時に暗い非常階段で会って楽しい
人物でないことは確かです。ぼくの心臓の鼓動はだんだん早くなっ
てきました。
 いちどだけ、足を止めて、うしろを振り返りました。
 すぐ後ろにいるN女史が、きょとんとした顔をしています。その
すぐ後ろにS。所長と係長の姿は、暗闇にまぎれて見えません。


 ふたたび、階段を下りはじめたぼくは、知らないうちに足をはやめていま
した。何度か、鳩の糞で足をすべらせ、あわてて手すりにしがみつくという
危うい場面もありました。が、とてもあの状況で、のんびり落ち着いていら
れるものではありません……。
 五階を過ぎ、四階を過ぎました。そのあたりで……背後から、信じられな
い物音が聞こえてきたのです。
 笑い声。

 さっきの人物の声ではありません。さっきまで一緒にいた、N係長の声な
のです。超常現象とか、そういったものではありません。
 なのに、その笑い声を聞いたとたん、まるでバケツで水をかぶったように、
どっと背中に汗が吹き出るのを感じました。
 N係長は、こわもてで鳴る人物です。すごく弁がたつし、切れ者の営業マ
ンでなる人物なのですが、事務所ではいつもぶすっとしていて、笑った顔な
んて見たことがありません。その係長が笑っている。それも……すごくニュ
アンスが伝えにくいのですが……子供が笑っているような無邪気な笑い声な
のです。その合間に、さきほどの中年男が、ぼそぼそと語りかける声が聞こ
えました。中年男の声はほそぼそとして、陰気で、とても楽しいことを喋っ
ている雰囲気ではありません。なのに、それに答える係長の声は、とても楽
しそうなのです。
 係長の笑い声と、中年男の囁き声がそのとき不意に途切れ、ぼくは思わず
足を止めました。
 笑いを含んだN係長の声が、暗闇の中で異様なほどはっきり聞こえました。
「所長……」



 「何?……さっきから、誰と話してるんだ?」
 所長の声が答えます。その呑気な声に、ぼくは歯噛みしたいほ
ど悔しい思いをしました。所長は状況をわかっていない。答えて
はいけない。振り返ってもいけない。強く、そう思ったのです。
 所長と、N係長はなにごとかぼそぼそと話し合いはじめました。
 すぐうしろで、N女史がいらだって手すりをカンカンと叩くの
が、やけにはっきりと聞こえました。彼女もいらだっているので
しょう、ですが、ぼくと同じような恐怖を感じている雰囲気はあ
りませんでした。

 しばらく、ぼくらは階段の真ん中で、立ち止まっていました。
 そして、震えながらわずかな時間を過ごしたあと、ぼくはいち
ばん聞きたくない物音を耳にすることになったのです。
 所長の笑い声。
 なにか、楽しくて楽しくて仕方のないものを必死でこらえてい
る、子供のような華やいだ笑い声。
「なぁ、Sくん……」
 所長の明るい声が響きます。
「Nさんも、Tくんも、ちょっと……」
 Tくんというのはぼくのことです。背後で、N女史が躊躇する
気配がしました。振り返ってはいけない。警告の言葉は、乾いた
喉の奥からどうしてもでてきません。
(振り返っちゃいけない、振り返っちゃいけない……)
 胸の中でくりかえしながら、ぼくはゆっくりと足を踏み出しま
した。甲高く響く靴音を、これほど恨めしく思ったことはありま
せん。背後で、N女史とSが何か相談しあっている気配がありま
す。もはやそちらに耳を傾ける余裕もなく、ぼくは階段をおりる
ことに意識を集中しました。


 ぼくの身体は隠しようがないほど震えていました。
 同僚たちの……そして得体の知れない中年男のささやく声は
背後に遠ざかっていきます。四階を通り過ぎました……三階へ
……足のすすみは劇的に遅い。もはや、笑う膝をごまかしなが
ら前へすすむことすら、やっとです。

 三階を通り過ぎ、眼下に、真っ暗な闇の底……地面の気配が
ありました。ほっとしたぼくは、さらに足をはやめました。同
僚たちを気遣う気持ちよりも、恐怖の方が先でした。
 背後から近づいてくる気配に気づいたのはそのときでした。
 複数の足音が……四人、五人?……足早に階段を降りてくる。
 彼らは無口でした。何も言わず、ぼくの背中めがけて、一直
線に階段をおりてくる。
 ぼくは、悲鳴をあげるのをこらえながら、あわてて階段をおり
ました。階段のつきあたりには、鉄柵で囲われたゴミの持ち出し
口があり、そこには簡単なナンバー鍵がかかっています。
 気配は、すぐ真後ろにありました。振り返るのを必死でこらえ
ながら、ぼくは暗闇の中、わずかな指先の気配を頼りに、鍵をあ
けようとしました。


 そのときです。
 背後で、かすかな空気を流れを感じました。
 すぅぅ……。
(何の音だろう?)
 必死で、指先だけで鍵をあけようとしながら、ぼくは音の
正体を頭の中でさぐりました(とても背後を振り返る度胸は
ありませんでした)。
 空気が、かすかに流れる音。
 呼吸。
 背後で、何人かの人間が、いっせいに、息を吸い込んだ。
 そして……。
 次の瞬間、ぼくのすぐ耳のうしろで、同僚たちが一斉に息
を吐き出しました……思いっきり明るい声とともに!
「なぁ、T、こっちむけよ! いいもんあるから」
「楽しいわよ、ね、Tくん、これがね……」
「Tくん、Tくん、Tくん、Tくん……」
「なぁ、悪いこといわんて、こっち向いてみ。楽しい」
「ふふふ……ねぇ、これ、これ、ほら」
 悲鳴をこらえるのがやっとでした。
 声は、どれもこれも、耳たぶのうしろ数センチのところか
ら聞こえてきます。なのに、誰もぼくの身体には触ろうとし
ないのです! ただ言葉だけで……圧倒的に明るい、楽しそ
うな声だけで、必死でぼくを振り向かせようとするのです。



 悲鳴が聞こえました。
 誰が叫んでいるのかとよく耳をすませば、ぼくが叫んでいる
のです。背後の声は、だんだんと狂躁的になってきて、ほとん
ど意味のない、笑い声だけです。
 そのときてのひらに、がちゃんと何かが落ちてきました。
 重くて、冷たいものでした。
 鍵です。ぼくは、知らないうちに鍵をあけていたのでした。
 うれしいよりも先に、鳥肌のたつような気分でした。やっと
出られる。闇の中に手を伸ばし、鉄格子を押します。ここをく
ぐれば、本の数メートル歩くだけで、表の道に出られる……。

 一歩、足を踏み出した、そのとき。
 背後の笑い声がぴたりと止まりました。
 そして……最初に聞こえた中年男の声が、低い、はっきり通る
声で、ただ一声。


         「 お  い 」

殺される!

十年ほど前の話です

姉が「ビデオを返してくる」と言ってウチを出ていったのは
夕方の6時半ごろでした。季節は冬の始まりぐらいで
もうだいぶ暗くなってきていました。

それから十分ほどたったでしょうか。
いきなり玄関の方で誰かが乱暴に扉を開けてはいってきました。
入ってきた人は号泣しています。
急いでいってみると、姉が顔面血まみれになって泣いていました。

取りあえず家に上げて、血を拭いてやり医者である父が傷を見て
「血は出てるがたいした傷じゃない」というのを聞いて一安心し
ようやく落ち着いてきた姉に何があったのか聞いてみました。

姉がウチを出てレンタルビデオ屋に行く街灯もほとんど無く
人通りも少なく舗装もされてない道をしばらく進むと、
道の真ん中に何かを見つけたそうです。
よくよく見てみると・・・・
それはこっちに背を向けてうずくまっている人で
どうやら中年の女の人だったそうです。
あたりには誰もおらず、道の真ん中でうずくまっているその人は
何か奇妙な感じがしたそうなのですが、姉は一応自転車を降りて
その人に「どうかしたんですか?」と話しかけたそうです。

すると、そのおばさんはいきなりすっくと立ち上がり
こちらを振り返るやいなやゲラゲラ笑いながら
石を投げてきたそうなのです。
その内の一個が姉の顔にあたり血が出てきたそうです。
姉は驚愕しつつも、「殺される!」と思いその場からダッシュで
逃げたそうですがおばさんはしばらく笑いながら
追っかけてきたそうです。

僕はその後自転車回収もかねて現場の偵察に行ったのですが
自転車があるだけで、そのあたりにはもう誰もいなかったですが
道路には血の跡がありました。

今でも忘れられないです

看護婦寮


当時、私はフリーターでお金がなくなるまで遊んで、
金欠になるとアルバイトしてという生活をしてました。
しかしある時、世間では入学、入社シーズン。
このままこんな生活してていいものか?
と思い、正社員として安定した収入を求めました。
運良く知り合いに食品会社の社長を紹介してもらい、
待遇も良かったし、コネで入社することが決まりました。
さっそく来月から働いてくれとのこと。

しかし、今、住んでるアパートから車では環7の朝の大渋滞で通勤不可能。
電車はあまり好きではなかったので会社の近くでアパートを
借りることにしたんです。しかし、いい物件が見当たらない。
それは会社が都心の割といい場所にあるためで汚いアパートでも、
家賃9万。そんなに払えませんでした。
就職先の会社の社長とたまたま会話する機会があって、
そのとき、通勤時間のことやアパートのことを相談したんです。
そしたら社長が「職場の近くにあるうちの工場の拡大予定地に、
古い元看護婦寮があるから取り壊しまでの4ヶ月は住んでていいよ。
いま1階は倉庫代わりに使っているけど、2階は人が住めるから。
電気と水道は通ってるからどうにかなるだろう」と。
タダそして車も止められるということで喜んでそこに決めました。
なによりいくら騒いでもそこに住んでるのは私1人。
苦情を言う人がいない。友達を呼んで宴会ができる。


そしてさっそく次の日にそこへ行ってみました。
広い敷地内にひっそりとある外見は古い寂れた施設といった感じ。
壁に広がるヒビが時代を感じさせる。
これでは看護婦さんも住みたくはないだろう。
などと考えつつ中に入ってみると中身は結構きれい。
しかし埃が溜まっていて、会社が倉庫として使っているわけでなく、
ただの物置として使っているのがわかる。
きっと、ここは寮として使われる前は
公共の施設であったのではなかろうかといった作りでした。
ガスが来てないから風呂には入れない、
キッチンは各部屋に小さいのがついてるから食堂などは
掃除の必要なし、などと考えながら、
さっそく2階に上がり部屋の確認。部屋数は25。
廊下と各部屋の内装はどこも綺麗。
私は正面道路側の角部屋にきめました。
それは日当たりがよく、畳と壁が新しい物だったからです。
その日は自分が決めた部屋と2階の廊下、階段を掃除して
帰りました。

 
私が住んでいるアパートはまだ契約期間内でしたが、
すぐにでも引っ越したいと思い、暇な友人2人組みに連絡をとり、
明日の引越しを手伝ってくれるという約束をとり、
布団に入りました。しかし一睡もできませんでした。
それは一晩中いままでに経験のない耳鳴りと頭痛に悩まされていたからです。
そして翌日、約束の時間になっても友人は現れませんでした。
約束の時間から1時間ほど過ぎたころ電話があり、それは友人からでした。
病院からでした。話を聞けば、昨日深夜、今日ここに来るもう1人と車で
移動中に気分が悪くなり運転に集中できなくなり、壁に衝突したとの
ことでした。怪我はたいしたことはなかったらしいのですが、
引越しを手伝ってもらえなくなったことで動揺して、
初めの異変にきずきませんでした。

家具といっても大きな物はベッドとタンスのみだったので、
すべて分解してひとりで車に乗せ、私の車はワゴンでしたが、
4往復でなんとか自力で家具などを運び終えたときには、
すでに夕方5時でした。それから荷物を自分の部屋に運び入れ
家具などを組み立てて、とりあえず引越しが完了したときには
昨日寝ていなかったため、すでに体力の限界に達していました。
食事も取らずに倒れるように横になり深い眠りに入りました。
それから何時間経過したころでしょうか。
深夜、苦しくて息が出来ない。何か重い物が体の上に
乗っているような感覚。だるくて体も動かない。
きっと疲れているからに違いない。
引越しで精神的にも肉体的にも疲れているのだと考え、
また深い眠りに入りました。
そして朝を迎え、胸に痛みがまだ残っているのは、
家具が重かったための筋肉痛だと考えることにしました。

その晩、友人宅で夕食とシャワーを済ませて、
深夜に寮に着きました。しかしあのなんとも表現しにくい不気味さ。
正面玄関の厚いガラスの引き戸の奥に別世界が広がっているような。
そのガラスに映った自分はその世界に閉じ込められてるようだった。
しかし、2階には自分の部屋があるし外にいてもしかたないので、
突き進み階段を登って自分の部屋の正面へ。
なぜか怖くて自分の部屋のドアを開けることが出来ない。
普通なら何もない廊下に一人で立っている方が怖いと感じるのでは。
結局、部屋に入っても何も起こらなかった。
明日からは玄関や廊下は電気をつけっぱなしにしておこうと
考えながら寝ました。しばらくして、また昨日と同じように

胸を何かに押されている感覚で目が覚めました。
それも規則的に胸の上方、下方と交互に。
しかも昨日と違うのは、どこからか低いうめき声のようなものが聞こえる。
目を開いてなくても確実に誰かが部屋の中にいるのがわかる。
怖くて目は開くことはできない。すでに金縛りで体を横にすることもできない。
ただ、耳から聞こえる音と方向、胸から伝わる何かの重さだけで答えが出た。
音は明らかに人の声。それも二人。一人は、お経を読んでる。
もう一人は、はっきり聞き取れない独り言。
胸に掛かる重さは声の方向と移動でその二人が並んで交互に、
上下移動しながら私にしかも正座で乗りかかっているというものです。
この結論に達したと同時にますます重くなってきて、思わず目を
開いてしまいました。そこにいた者は胸の上で横に正座をしている髪の長い
女性でした。そして天井方向に移動して浮いている老婆でした。
私が目を開けたのにきずいてか、その二人が私を睨み付けます。
そのあまりの形相に二度と目を開けるまいと。そしてその重さに耐えるしか
ありませんでした。二人が居なくなったと同時に私も疲れて
寝てしまいました。気絶といったほうが正しいでしょうか。

次の朝、私は昨晩のことなど無かったかのように普通に目覚めました。
しかし胸に痛みが残っていてシャツを捲って確認すると、
そこには横に4本のアザが残っていました。それを見て、
すぐに現実に戻されました。財布と車のカギと上着だけを持って
何も考えずに外に飛び出しました。私の友人関係の中には
このような体験をしたことのある人はいなかったので、
相談できる人はいなかったし、そのまえに本当に現実なのか?
昔からの友人が集まってくれて、興味本位からなのだが、みんなで
私の部屋にその夜は泊まる事になりました。私をいれて8人でした。
みんなで酒飲んで怪談話して、気が付いたらいつの間にかに私は
寝ていて朝になっていました。みんなは3時ごろに寝たそうです。
彼らにも何も起こりませんでした。
ここに一人で残っていても怖いのでわたしもみんなと一緒にでました。
夜まである友人と二人であの夜のことを話し合い、
私が疲れていて夜に苦しくなり、想像が錯覚を見せたと結論がでました。

まだ終わりではないのですが、30分ほど待っててください。

そして今夜、一緒に部屋に泊まってくれることになりました。
部屋で酒を飲み、そのうち二人とも寝てしまいました。
深夜に息苦しさで目覚めました。あの夜と一緒でした。
すぐに隣に寝ている友人を起こそうと思ったがすでに遅く、体が動かない。
また声が聞こえ、すぐに私の胸に乗ってきたのがわかりました。
しかし、今夜は少し違いました。一人でした。声で髪の長い女性の方と
分かりました。隣に友人が寝ているし前回ほどの恐怖はありませんでした。
私は目を開け、私を睨みつけてる女性を睨み返していました。
ふと隣に寝ている友人を見てみると老婆が彼の上で上下に移動しています。
友人は目は閉じていたけれど、顔は恐怖で引きつっていました。

朝、友人に起こされてすぐにここを出ようと真っ青な顔でいわれたが、
しかし、なぜここだけ壁紙と畳が新しいのか疑問であったため、
部屋を見回してみました。友人は一人で廊下に出るのも怖いらしかった。
まず、畳の上に家具を載せた形跡がない。この部屋は角部屋で日当たりもよく
空き部屋になるはずもない。移転が行われるのに畳を新しい物に取り替えるか。
このとき私は軽いノイローゼになってたのかもしれない。すぐに
友人に手伝ってもらって家具を廊下に出して、畳をすべて剥がしました。
コンクリートの床はきれいでした。しかし中心だけが円形に拭かれていました。
明らかに人の手によってそこだけが。
その拭かれている中心には、よく見ると黒い何かがそこにあったことが
うかがえました。それはきっと血液でしょう。
すぐにそこを飛び出し、もう二度とそこに戻ることはありませんでした。

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